西日本豪雨 泣きながら自宅に残してきた老犬、無事だった
豪雨災害で3人が亡くなった広島県呉市安浦町市原地区。土石流が相次ぎ、23世帯の住民は8日、ヘリコプターで救助された。記者は12日、避難所の安浦まちづくりセンターで、愛犬を自宅に残してきた安芸真澄さん(70)と出会った。「気が気でない。水が引いたからすぐに行きたい」という安芸さんに同行し、自宅に向かった。
野呂沢ダム管理事務所で車を置き、直径2メートルほどの大きな岩や流木がゴロゴロと横たわる場所を越えていく。地面の亀裂から沢水があふれ、ぬかるみに足を取られる。かなりの難所だ。
安芸さんは6日、自動車部品メーカー経営の夫忠男さん(74)、長男一寅さん(45)と自宅にいた。朝から土砂降りで、午後9時には停電。窓の外を見たら、土砂が道路になだれ込んでいた。7日午前5時、バリバリという音と共に流木が自宅の脇に降ってきた。3人で2階にこもった。8日午後3時、松山市の消防ヘリで救出された。
家を出る時、愛犬ブッチをめぐり、けんかになった。16歳の雑種のメス。室内犬で足が悪い。体重は25キロもある。安芸さんは「ヘリに乗せる」。一寅さんは「人命優先じゃけ、置いていき」。忠男さんも「野生に返せ」。安芸さんは「この子は自然の中では生きていけん」と泣いた。結局、室内にブッチを置いたまま、自宅を閉めた。
それから4日、山すそで水が引くのを待った。自宅の表札が見えると、安芸さんは走り出した。玄関を開けたら床に横たわったブッチが見えた。触ると温かい。名前を呼びながら揺すると、ゆっくり振り返った。ツナ缶を開けたら、ガツガツ食べた。水も取り換えた。そこら中にうんこをしていた。「もうろくしているのか、あんまり喜んだ様子もない」。安芸さんは喜びながらも、ちょっぴり不満気だ。
ブッチを抱えては土石流を越えられない。翌日にも大きなリュックを携えて迎えに行くことにした。被災地には再び雨の予報もある。「でも、必ず来るから。待っとってね」と頭をなでた。
(阿久沢悦子)
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