伝説の猫神社 招き猫1万体、2匹の生き猫神さまも
鳥居脇の巨大な招き猫が参拝者を迎え、境内に入ればさまざまな姿の猫像が祀られる、徳島県阿南市加茂町の神社・お松大権現。由緒は、17世紀後半の江戸時代に遡る。
加茂村の庄屋の妻・お松は、亡夫が生前に返した借金を理由に、担保の土地を富豪に奪われた。奉行所に訴えるも富豪と結託した奉行は、不当な裁きを下す。これを藩公に直訴したお松は死罪となり、愛猫に遺恨を伝えて刑に服した。奉行と富豪の家は代々猫に祟られ続け、ついに仇討ちは果たされたと伝わる。当時はお上の不正と戦った庶民を公然と祀れなかったため、一命を賭して筋道を通したお松を「義理大権現」として密かに祀ったという。
近代に入ると伝説は芝居を通じて広まり、社名は「お松大権現」に改められた。昭和初期からは、仇討ちの経緯から猫も崇拝の対象になった。選挙や訴訟、受験などの勝負事にご利益があるとされ、猫を祀っていることから航海の安全を願う漁師も参拝するようになったそう。これまでに奉納された招き猫は1万体以上。猫神社として全国に知られるようになった。
参拝者には、境内に住む猫を生き神さまと呼ぶ人もいるという。現在は白黒のまろ(1歳♂ )と三毛猫のみい(1 歳♀)の兄妹が気ままに境内を闊歩している。元は地域猫で警戒心が強い2匹だったが、宮司の阿瀬川寛司さんの愛情を受けて、気性も丸くなってきたそう。
「食欲旺盛で、ご飯を5回あげてもまだ『くれくれ』とやってきます。しかも同じ食べ物は2度食べてくれません」と苦笑する阿瀬川さん。自由に社務所に出入りし、参拝者が寄進したフードのおかげで食に困ることもない。そのせいか狩には無関心で、ネズミも獲らないそう。とはいえ神社にとっては大切な看板猫。おみくじ箱の一つにまろが入った時は、その箱だけバカ売れしたこともあったそう。
「私たちにとって猫は、神の眷属(けんぞく)であり、縁が切れない動物です。そして、まろとみいは家族の一員です」と阿瀬川さんは語る。
最近では、愛猫の長寿祈願のために参拝する人も少なくないというお松大権現。これからも2匹の生き猫神さまとともに、多くの庶民の願いを叶えていくことだろう。
(写真・久野大介/文・斎藤実)
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