高齢男性一人で犬100匹も 多頭飼育で絶えないトラブル

 世話ができないほど多くの犬や猫を飼い、悪臭や騒音などで近所とトラブルになる場合もある「多頭飼育」。飼い主には迷惑をかけているという自覚がないケースが多く、精神的な原因が指摘されている。国や自治体が対策に乗り出した。

屋内外で100匹以上の犬が飼育されている
屋内外で100匹以上の犬が飼育されている

 JR宇都宮駅から車で約20分。2階建ての店舗兼住宅に近づくと、鼻を突くにおいが広がった。飼い主の一人暮らしの70代男性に許可を得て敷地に入ると、ほえ続ける犬、犬、犬……。

「数年前から急に増えた。今は100匹を超えていると思う」

 男性によると、10年前に知人がメスのビーグルを連れてきたのが犬を飼うきっかけだった。不妊手術はせず、外につないでいると、ある日2匹の子犬を産んだ。その後は野良犬とも交わり、ねずみ算式に増えた。えさはまき散らすように与えているため、十分に食べられずにやせ細る犬も。男性は無職で、えさ代も重くのしかかっている。

「鎖につながれていない犬がいる」などの苦情が寄せられ、昨秋からは、動物愛護団体のボランティアらが犬の世話や掃除に訪れる。別の飼い主への譲渡なども提案される。だが、「手放すのは寂しい」。

窓から戸外に出ようとしている犬たち=いずれも宇都宮市
窓から戸外に出ようとしている犬たち=いずれも宇都宮市

 多頭飼育問題に詳しい公益社団法人「日本動物福祉協会」の町屋奈(ない)・獣医師調査員らによると、劣悪な多頭飼育の背景には、飼い主の経済的な問題のほか、精神的な状況が影響している可能性もあるという。

 面倒をみられる限度を超え、えさを十分に与えたり、衛生面の配慮をしたりすることができない状態になっているにもかかわらず、本人に自覚がないことが多く、においや鳴き声といった周囲への迷惑にも思いがいたらない。犬、猫と切り離しても、数年後には再び多頭飼育状態に陥る事例が多いため、医療ケアも必要だと指摘する。欧米でも「アニマルホーダー」(動物をため込む人)と呼ばれ、社会問題化している。

悪臭や騒音の苦情2千件越え 自治体も対策

 環境省が、2016年度に動物愛護担当部局がある115自治体(当時)を対象に調べたところ、犬や猫を計2頭以上飼い、複数の住民から苦情があったケースは全国で2199件あった。

 調査によると、苦情の原因(複数回答)は、悪臭の発生809件▽騒音の発生515件▽動物の毛などの飛散140件▽ネズミ、ハエなどの発生81件と続いた。人への危害や交通の迷惑などの「その他」は996件だった。

 飼育頭数は、9頭以下が1241件で最も多かったが、10~49頭が435件、50頭以上も81件あった。一方、「把握できていない」という回答も442件あった。全体の約9割にあたる2002件が一般の飼い主などに対する苦情だった。

 多頭飼育の問題に自治体も取り組み始めた。飼育頭数を届け出る制度作りがその一つだ。朝日新聞が昨年末に全国115自治体に行った調査では、18自治体が一定数以上を飼育する場合に届け出を義務づける条例を設けていた。

 動物愛護と福祉の両担当部局の連携を進める動きもある。環境省は今年度予算に2500万円を計上。両部局が協力して対策に取り組むためのガイドラインを作る方針だ。先進的な自治体の例を調査するなどし、年度内に検討会を立ち上げる。

 愛知県では、多頭飼育の問題に対応するため、17年度から民生委員と連携し、相談先などを住民に知らせている。早期に相談してもらうことが、劣悪な多頭飼育の防止につながると考えているからだ。また、「複数の犬や猫を飼っている」という情報があれば、動物愛護部局にも連絡が入る仕組みを作っている。長野県や盛岡市などでも、両分野の連携を模索する動きが始まっている。

(中井なつみ)

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