保護された元繁殖犬 やさしい家族と先住犬に出会い、新しい一歩
純血種の犬を産み増やすための繁殖犬。劣悪な環境で、繁殖をさせられている犬たちもいる。ブリーダーのもとから保護され、繁殖場の外の世界を知ったバーニーズ・マウンテンを取材した。
(末尾に写真特集があります)
その繁殖場は、兵庫県朝来市(あさごし)の車ではたどり着けない山の中にあった。繁殖犬の保護のため、保護団体Ley-Line(レイライン)の一行は、途中で車を降り、徒歩で向かった。
そこにあったのは、暗く、汚く、陽の光が届かない倉庫のような建物。床はコンクリートで、柵で区切られた場所に、何頭もの犬たちが入れられていたという。
繁殖場を仕切る高齢の男性と従業員だという女性に、犬たちを手放すように幾度となく説得を試みたが、引き出せたのは、繁殖をやめるという大型犬のバーニーズ・マウンテン3頭だけだった。
「現行の法律では、犬は財産にあたるため、解放を強要することはできないのです。小型犬も多くいましたが、断念せざるを得ませんでした」とLey-Lineの代表、金本さんは説明する。
染みついた悲しい記憶
山の繁殖場で保護されたバーニーズのうちの1頭は、2017年12月に奈良県内のドッグランで開かれた譲渡会に出された。
一時預かりボランティアから「ジン」と名付けられたバーニーズは、そこで河井さんと出会った。河井さんは連れていた先住のバーニーズ「マージくん」のお尻の匂いをかぎにジンくんが寄って来たのを見て、「この子なら大丈夫」と思ったという。
実は河井さんは、犬を譲り受けるつもりではなく、同時開催されていたバザーに来ていたのだ。しかし、「あれこれ考えるより、まず行動」という河合さんに迷いはなかった。
こうして、ジンくんは、河井家の家族の一員になった。推定4歳だったが、保護された当時、ガリガリにやせ細り、歯に歯石がこびりついていたという。それは、栄養状態の管理や歯のケアが行われていなかったことを意味する。
しかし、それだけではなかった。ジンくんは、お父さんが立ち上がるだけで、固く身を縮こまらせて伏せるのだった。
「繁殖場では、犬を移動させる時に地面を引きずったり、怒鳴ったりして、言うことを聞かせるので、犬は『人間はわけもなく突然怒り出す』と思っていることが多いのです」と金本さんはいう。
ジンくんがいた繁殖場でも、おそらくそんなことが日常茶飯事のように繰り返されていたのだろう。
「どうにかなる」
繁殖場しか知らないジンくんには、初めて体験することがたくさんあった。
先住犬のマージくんが、「遊ぼう」とじゃれついた時、驚いたジンくんは「ウウ~ッ」と怒ってしまった。犬と遊ぶ方法を知らなかったのだ。動物病院も初めての体験だったようで、診察台の上で足が震え、オシッコを漏らしてしまったという。
しかし、河井さんは、そうしたことは意に介していない。
「マージとジンがじゃれあって遊ばないことは残念ですが、マージは気さくな性格なので、ジンを兄弟のように受け入れています。病院を怖がったり、ご飯をガツガツと食べたりするなど、悲しい過去を思わせることもありますが、そんなことは小さなこと。どうにかなるものです」
唯一無二の存在
マージくんは、河井さんが何をしていても、自分の好きなように振る舞う。一方、ジンくんは、トイレだろうがキッチンだろうが、とにかくついて回る。河合さんのことが大好きで、遠くから「おいで」と言われると、弾丸のように飛んでいく。
河井さんもそんなジンくんが、とにかく愛おしくて仕方がないという。
「どんなバーニーズがいても、ジンとは交換できません。ジンは、唯一無二の存在なんです」
マージくんとジンくんは、河井さんに連れられ、毎朝、車で30分弱のところにある山に登るのを日課にしている。ジンくんにとって、繁殖場での4年間は、コンクリートの床と柵の中だけが、すべての世界だった。温かく見守る家族と、おおらかな先住犬マージくんに出会って、新しい一步を踏み出すことができた。
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