宮本亜門、映画『犬ケ島』に「思わず犬を抱きしめたくなった…」

 

5月25日に公開となった映画『犬ケ島』は近未来の日本が舞台。消えた愛犬を探して旅に出た少年と5匹の犬たちとの冒険活劇が、精巧なストップモーション・アニメで描かれている。大の愛犬家として知られる演出家の宮本亜門さんに、映画の魅力を聞いた。

――この作品は、猫好きで犬嫌いの市長によって愛犬スポッツを追放されてしまった12歳の少年が、単身、危険な「犬ケ島」に救出に向かい、そこで出会った犬たちと友情をはぐくんでいく物語です。犬好きとして、何を感じましたか。

「人間と犬が見事に、対等に描かれている。特に少年と犬たちが、じっと目を合わせて見つめ合うシーンにはグッときました。ウェス・アンダーソン監督は往年の日本映画に多大な影響を受けたそうですが、随所に小津安二郎監督のような低いカメラ位置での撮影が有り、それが一段と犬の目線と見つめ合えるようになっていて、犬好きにはたまらない映画になってますね。
 僕は、沖縄県の動物愛護管理センターから引き取った保護犬のビートを飼っていますが、僕が話しかけたり、餌をあげるときの、じっとこちらを見ている目と同じで、実写以上に親近感を与えてくれました。」

――少年と犬たちの気持ちが通じ合う印象的な場面が何度かありますが。

「設定が実に面白い。犬たちは英語を話し、人間たちは日本語。お互いが何を言っているかはわからない。だから、お互いが言うことを一生懸命聞こうとする。会話ができない犬と人間のコミュニケーションを言語の相違に置き換え、お互いに感じあおうとする様子が愛おしく表現されている。実際、犬は全神経を傾けて人間の様子を見ています。こちらが落ち込んでいるときは、そばにぺたっとくっついて座り、慰めてくれるし、誰かとケンカしている時は、少し離れて端のほうでじっとお互いの様子を見ている。まるで子供が親を見ているように。そんな犬の気持ちもうまく描かれていました」

Ⓒ2018 Twentieth Century Fox
Ⓒ2018 Twentieth Century Fox

――いろいろな犬が登場しますが、亜門さんのお気に入りは?

「野良犬のチーフかな。少年が『シット』と日本語訛りの英語で命じても、他の犬たちと違って彼だけは従わない。犬にも当然、個性がありそれぞれの状況と考えがある。ただ従うだけではないんですよね。そのうえで信頼した人間に対しては、最大限の愛を注いでくれる、それが犬の魅力です。映画ではまた、それとは反対の人間にとって都合良く作られたロボット犬も登場して、生身の犬との対決シーンもある。日本の今の現状も入れ込んだ面白い展開でした」

――作中では、ピンチの少年を救おうと奮闘するスポッツの姿も描かれています。犬の気持ちというのは、実際、こういうものなのでしょうか。

「そうです。犬は自分の主人として信頼する人間には、自らの命さえも投げ出せる存在です。愛犬ビートも僕が海で泳いでいるときに、波間に見えなくなったのを溺れたと思い、泳げないのに必死に泳いで助けにきました。泳ぐのが苦手で水に浸かるだけで震えていたのに。主人を思うと無心になれるんですね。でも、僕が無事だとわかると急に身を案じて必死に犬かきをして浜に戻っていきましたが(笑)。犬たちは本当に愛情深くて純粋な生き物なんです」

沖縄にて(ご本人提供)
沖縄にて(ご本人提供)

――日本が舞台の作品ですが、日本の描写についてはどう感じましたか。

「よくぞ日本映画を勉強したなと驚きました。黒澤明の『酔いどれ天使』などで描いた、戦後の荒廃した日本の中で生き延びていかなければいけない世界観が、島に捨てられた犬たちにうまく重ねられているし、他にもカット割り、音楽、セットと、日本映画のオマージュと思うところがいくつもあって楽しめました。海外の作品では、日本のことを描くとき、クールな日本やテクノロジーの日本と、表層的な未来チックな描かれ方が多いのに、この作品は〝きれいごと〟だけではなく裏のダークな面も含め、日本を深く描いています。
 東日本大震災後の日本を思わせる荒廃した世界を舞台に、人間たちの一方的な都合で犬たちが捨てられていく……。いまだに捨てられたペットの殺処分が後を絶たない先進国としては恥ずかしい日本の現状についても、監督は調べたのでしょう。また日本に住む者にとっては、日本がどう外から見られているか、客観的に知ることもできる作品になっていると思います」

――作品は、精巧につくられた人形を1コマ1コマ動かして撮影していくストップモーション・アニメという手法でつくられています。撮影には総勢670人のスタッフが445日をかけ、1097体もの人形が使われたそうです。

「アニメーション技術が発達し、短時間で流れるような動きが表現できる時代に、あえて気の遠くなるような時間と労力を使ってストップモーション・アニメを使うとは。初めは不思議にも思いましたが、拝見して納得しました。その手作り感が、人形を使った素朴な表現が、犬や人間のリアル感を見事に香り立たせる。物への愛おしさ、生身の人間、動物たちへの愛おしさが滲み出て、本来の人間や犬の姿をあぶり出されていました。よく考えられていますね。
 また、あえてカメラがドローンのように自由自在に動き回るのではなく、人間が立っていることでしか見られない平面的な視点で場面が撮られているのも面白い。まるで一つのボックスを見るように、縦から、横へ、寿司を作る調理や手術のシーンは上からと、視点を入れ替える。その平面的な面白さが、日本伝統の歌舞伎や浮世絵、アニメーションなどの平面性と重なり、この手法を使ったことで、ますます日本が浮き彫りになってきたような面白さがありました」

Ⓒ2018 Twentieth Century Fox
Ⓒ2018 Twentieth Century Fox

――sippo読者の皆さんにとって見どころはどこでしょう。

「犬好きの人は必見です。飼い主って、犬が何を考えているんだろう、って、普段から思っているじゃないですか。人間の言うことを必死で理解しようとしている犬と、犬の言うことを必死で理解しようとしている人間との交流がスクリーンにあふれている。犬って本当に忠実で、愛の塊みたいな生き物ですからね。登場する犬たちを抱きしめたくなると思います」

宮本亜門さんと保護犬のビート ⒸHIDETAKA YAMADA
宮本亜門さんと保護犬のビート ⒸHIDETAKA YAMADA

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