“犬派”の家に、猫がやって来た! 新しい発見の日々

次男の拳吾君の服の中に入る女王「縞」
次男の拳吾君の服の中に入る女王「縞」

 “犬派”だった一家に猫がやって来た。犬と飼うのに比べれば“楽ちん”と思ったら、そうでもない。予想しないことが次々と起こる……。それでも家族は猫の魅力にはまり、今では3匹の猫飼いになった。笑いと愛情にあふれた日常を覗いてみた。

 

(末尾に写真特集があります)

 

 千葉市にある大きな日本家屋。引き戸を開けてお邪魔すると、廊下から1匹のキジ猫がひょいっと顔を出した。


「この子は女王の『縞』(しま、4歳)。手下の男猫たちは寝室にいるのでどうぞ」


 そう渡邊惠子さん(56)に案内されて、2階に上がった。


 広々とした部屋に入ると、棚の上で黒猫の「そら」(オス、4歳)が、奥のベッドの上ではグレーの毛並の「セナ」(オス、推定3歳)がくつろいでいた。寝室に家族以外の人が入ることが稀だからだろうか、2匹ともびっくりしたように、目を丸くしている。


「猫は初めてだけど、まー、びっくり」


 そういって、恵子さんが笑う。惠子さんは“犬派”で、50歳を過ぎるまで、猫と暮らした経験がなかったのだという。


「学生の頃は三河犬、そのあとシベリアンハスキー、夫の連れ子だったゴールデンレトリーバーと、オスの大きな犬ばかり飼いました。一緒に暮らす母が、動物が苦手なので、室内で猫を飼うのは無理だと思っていました」

 

地味キャラながらいたずら盛んな「そら」
地味キャラながらいたずら盛んな「そら」

◆長男がもらってきた子猫

 転機が訪れたのは4年半前。長男の堅太君(19)が中学3年の時、同級生の家で生まれた子猫を欲しがったのだという。


「“可愛い孫の頼みだから”ということでおばあちゃんが折れた感じですね。オス犬を飼ってきたし、メスなら穏やかで可愛いだろうと、『縞』を選び、きょうだいなら仲良くするかなと思って、一緒に生まれたオスの『そら』ももらいました」


 飼い始めると、まず“楽なこと”に驚いたという。


「犬は1匹でも手がかかる。猫はまず散歩がいらないし、ゴハンをあげるときも“待て”はいらない。お腹がすけばニャッと鳴くくらい」


 もっとも、思いがけないことが、次々と起きた。


 子猫時代は、目を離したすきに客間に入って畳でばりばり爪を研いだり、いろいろないたずらをした。惠子さんはいたずらを注意し、言ってきかせたという。


「この家でこれはやってダメ、とその場でガッと押さえて教えました。猫はしつけできないというけど、子猫のうちに徹底したら覚えていきましたね。私は息子に対しても厳しい口調で言うことがあるので、猫も『母さん怒らせるとこわいぞ』と思ったみたい(笑)」


「縞」と「そら」はきょうだいながら、仲良く添い寝することはあまりなかったという。


「『縞』が女の子のイメージと違い、強欲いじわる女で(笑)。そらのイメージも違った。避妊・去勢手術を受けたのに、『そら』がしつこく『縞』に乗って首を噛むので、『縞』は“しつこい、男は嫌”という風に『そら』をはたいて、避けるようになったんです」

 

 

◆ゴミ捨て場で見つけた灰色の猫

 2匹が落ち着き、家になじんできた一昨年冬、新たな猫「セナ」と出会った。


「以前、うちで保育園を経営していたのですが、父が亡くなり、しばらくして閉園しました。園を取り壊す時に大量のゴミが出たので、車で清掃事務所に運んでいた時、きれいな猫を何度か見かけたんです」


 その猫は粗大ゴミ置き場に住み着いていた。グレーで重厚な毛並をしており、シャルトリューや、ロシアンブルーに似ていた。清掃事務所で飼っているのかと職員に尋ねると、「2年くらい前、住みついたので、餌だけあげている」とのことだった。屋根もあり雨風をしのげるので、迷ったか、捨てられるかして、そのまま居着いたようだった。

 

父さんいわく「太ったからロシアン”デブ”ルー」
父さんいわく「太ったからロシアン”デブ”ルー」

「綺麗だし、見るからにお高そうな猫だし(笑)。一生懸命ゴミを運んでいたら、僕を見つけてというように、“ニャー”と彼から声をかけてきた。猫を引き取れないか事務所に聞くと、『ちょうど冬休みに入るところで、餌やりに困っていた。むしろ助かる』と言われ、連れ帰ることにしました」


 由緒正しそうな野良猫には、息子が「セナ」と命名した。


 だが、連れてこられた温かな家には、知らないオス猫とメス猫がいた。「セナ」は驚いて“ううっ”と低く唸り続けた。


「『縞』も“はあ? またオス?”みたいに、シャーシャーとすごく警戒したので、しばらく『セナ』をケージで飼いました。3カ月目くらいにケージの扉を開けましたが、それでも出ようとしなかったですね。半年経って、やっと出られるようになりました」


 惠子さんが、長く猫を飼う知人に「なめ合ったりしないけど、相性が悪くて無理かしら」と相談すると、「大丈夫よ」といわれたという。


「相性が悪ければ、もっと早く血みどろの戦いになっていると(笑)。そこのお宅には10年経っても仲が悪い猫同士がいるそうで、それに比べれば確かにましですね」

 

「そら」を抱く惠子母さんと、「縞」を抱く拳吾君
「そら」を抱く惠子母さんと、「縞」を抱く拳吾君

「セナ」は次第に「縞」や「そら」がいても、平然とふるまうようになった。時には、男同士「そら」とくっついて寝ることもある。ただし「縞」と添い寝する姿は今もほとんど見られないという。


「猫はこうだという考えはなくなりました、というか、打ち砕かれました(笑)。こちらも柔軟にならないと。今年の夏で、『縞』と『ソラ』は5歳になりますが、思えば家族にも変化がでてきましたね」

 

 

◆猫たちにゾッコンの家族

 惠子さんのご主人は単身赴任中で、3週に1度だけ帰宅する。もともと犬を連れて結婚しただけあって、最初は「猫は嫌いだ」と言っていた。だが、いざ飼い始めたら、メロメロなのだとか。


「家に帰ってくると、『縞ちゃーん』って声色で(笑)。うちは息子だけだから、女子が可愛いのかな。あんなきつい『縞』でも可愛くて仕方ないみたい。息子たちとの会話も増えましたよ」


 そんな話を聞いていると、次男の拳吾君が寝室をのぞきに来た。


 ニコニコしながら、「そら」をひょいっとパーカーの中に入れ、次いで「縞」と遊び始める。「縞」を抱いたまま、ベッドの上に仰向けに押し倒した。少し手荒くも見えるが、「縞」は仰向けになって、後ろ足を広げたまま、魔法がかかったように動かない。


「これは僕とだけする遊び(笑)、なぜか逃げない」

 

拳吾君にひっくり返された「縞」。まんざらでもなさそう
拳吾君にひっくり返された「縞」。まんざらでもなさそう

 確かに「縞」は楽しんでいるようだ。何度かその遊びをした後、今度は「セナ」を抱き上げた。


「太ってきたから、父さんがロシアンブルーでなく、ロシアン“デブ”ルーっていうんだ」


 拳吾君は普段、学校から帰ると、まずこの寝室に寄って猫たちと遊ぶのだという。


「猫を通して親子の会話も増えましたね。階下にある猫トイレの掃除は息子たちに任せていますが、しないんです。だから言うんです。あんたたちもトイレが汚なかったら嫌でしょ? 猫の手も借りたいけど、猫は掃除しないから、ちゃんとして、と(笑)」」


 拳吾君の猫を見る目は優しい。修学旅行で沖縄にいった時には、猫にもお土産を買ってきたそうだ。


「ちんすこう、でなく、にゃんすこうという鮪風味のペット用スナック。猫たちは一口で辞めてたー(笑)。『縞』、もう一度遊ぶ?」


 猫たちに振り回されながらも、一家は賑やかに楽しく暮らしている。


(写真:庄辛琪)

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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この連載について
ペットと人のものがたり
ペットはかけがえのない「家族」。飼い主との間には、それぞれにドラマがあります。犬・猫と人の心温まる物語をつづっています。
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