かつて犬猫を殺処分 義足の獣医師が「命の教室」で語ること
仕事でやむを得ず犬猫を処分しなければならなかった経験を踏まえ、全国各地の学校を回って「命の尊さ」を説いている獣医師がいる。秋田市新屋大川町で動物病院を開く坂本尚志さん(65)の活動は、児童書や小学生向けの道徳の教科書でも取り上げられた。出前授業「命の教室」はまもなく180回を迎える。
坂本さんは捨てられた犬猫の殺処分をする県動物管理センター所長だった2006年10月、「動物を捨てれば処分されると教えることで、動物の命、人間の命の大切さを考えてほしい」と、出前授業を始めた。
保健所勤務時代を含め、仕事で殺処分した犬猫は約6400匹に上るという。坂本さんは「いつも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。(犬猫たちの)『生きたかった』という思いを伝えたい」と考えた。活動は作家の池田まき子さんが児童書「命の教室―動物管理センターからのメッセージ―」(岩崎書店)で紹介した。
秋田市立河辺小学校(角田昭校長)で昨年12月20日、178回目の「命の教室」が開かれた。
坂本さんが6年生全39人に「だれか心臓を貸してくれる人はいるかな」と聞くと、男子5人が元気よく手を挙げた。聴診器とマイクをつなぐと、ドックン、ドックンという音が響いた。
次に、坂本さんは長野県の宮越由貴奈さん(当時小学校4年)が1998年2月に病院で書いた「命」という詩を朗読した。「命は生きるための電池のようだが、簡単には取り換えられない。わたしは命が疲れたと言うまで、せいいっぱい生きよう」などという内容だ。「由貴奈さんは、詩を書いて4カ月後、がんで亡くなった。みなさんも、元気な心臓の電池が切れるまで、精いっぱい生きてほしい」
授業の後半、坂本さんが右足の義足を外すと、児童たちは息をのんだ。大学の入学式直前の18歳のとき、バイクで新聞を配達中に車にはねられ、足を切断した。当時は1カ月間意識が無く、4カ月間入院。切断面がただれ、さらに治療が続いたという。「牧場で働くという夢を諦めざるをえず、入院していた病院の屋上から飛び降りようと思ったことが3回ある」と振り返った。
それでも死ななかった。「生きていたから、すばらしい女性と結婚できて、2人の子も授かった。こうして、みんなと話すこともできた。ここで義足を外せるのはおじさんだけだ。欠点と思っていることも、いつか財産になる」
坂本さんは授業の最後に「朝起きたら鏡に映った自分に『俺ってカッコイイ』『私ってステキ』と3回ずつ声をかけよう。自分に優しくなれれば、他人にも優しくできる。あら探しではなく、宝探しの人生にしてほしい」と締めくくった。
6年の石井沙英さんは「いろいろ考えさせられました。これからの人生にいかしていきたい」と話した。坂本さんは「生きている限り、命の大切さを訴え続けたい」と話している。
(村山恵二)
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