避難所暮らしのシバイヌ 17歳で逝った福島の文太、安らかに

2011年5月2日付の朝日新聞朝刊(一部地域を除く)に掲載された文太と吉田健一さんの写真.
2011年5月2日付の朝日新聞朝刊(一部地域を除く)に掲載された文太と吉田健一さんの写真.

 愛知県大府市の山本朝子さん(83)は、新聞に載っていた1枚の写真に心が波立った。


 2011年5月。東日本大震災の後、福島の避難所で暮らすシバイヌの文太がお座りをしていた。半世紀以上前、伊勢湾台風で飼い犬を失った記憶がよみがえった。

 

(末尾に写真特集があります)


 激しい風雨のなか、赤ん坊だった長女を抱いて、夫と近所の小学校に急いだ。1959年9月。まっ暗な教室に身を寄せ、びしょぬれの体で震えた。


 1週間ほどして、水がひいた自宅を見に行った。慌てて避難したため、軒下で飼い犬をつないだままにしてしまった。犬は骨をあらわにして息絶えていた。


 文太を抱きしめてあげたい――。山本さんは、飼い主の吉田健一さん(67)、貞子さん(70)夫妻に手紙を出した。


 12年4月、鉄道を乗り継いで、仮設住宅に移っていた夫妻を訪ねた。


 家の中にいた文太は、山本さんを見ると、勢いよくほえた。健一さんがなだめる間に、頭をなでた。散歩について行き、一緒に写真も撮った。


 大府に戻った山本さんは、旅の思い出をパソコンに書きとめた。「初対面ではねえ、尾もふれなくて当たり前。君は賢い」。仮設で暮らす夫妻を思い、「少しでも前に進んでいただけるように」ともつづった。


「文太君においしいものを食べさせて」。手紙を添えて、2カ月に1度の年金支給に合わせ、新札で5千円を福島に送り続けた。


 文太の名前で、返事が届いた。


「大府のお母さーん、俺、元気だヨ。ビスケットも柿もうまかったなー」


 吉田さん夫妻は昨年7月、6年4カ月ぶりに福島県葛尾村の自宅に帰った。ただ、年老いた文太は散歩もままならなくなっていた。


 11月1日夜。ベッドで目を閉じていた文太は、ふーっと大きな息をひとつ吐いたのち、旅立った。17歳8カ月。


 夫妻から電話をもらった山本さんは、お悔やみの手紙を送った。


 文太のもとには、花や手紙が次々に届いた。山本さんのように、記事をきっかけに交流がはじまった人たちから。


「文太のおかげで、優しい人たちに出会えたね」。こたつで晩酌しながら、夫妻は語り合っている。


(高田誠)

 

■2011年5月の朝日新聞記事

福島県葛尾村落合、吉田健一さん 「バスの運転手をしていて、避難している子どもたちを乗せて、小中学校への送迎をしています。ここの避難所は、もう人が少なくなったけど、犬がいるから、俺と家内はどこにも行けないです。家族だからね。本当にね、きかない犬だったけど、ここに来てみんなにかわいがられて、ずいぶんまるくなった。これと子どもたちがいるから、俺も元気でいられる。毎年こうやって、小屋にこいのぼり立ててやってんだ。俺らはここでしばらく頑張っていくしかないな。お前のこと置いて行けねえもんな」
=福島県会津坂下町の川西公民館
朝日新聞
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