犬猫の「引き取り屋」事件 虐待容疑は不起訴に疑問

 栃木県矢板市内で犬猫の「引き取り屋」をしていた男性に対して7月27日、狂犬病予防法違反(未登録・予防注射の未接種)の罪で10万円の罰金を支払うよう、同県大田原簡裁が命じた。


 繁殖能力が衰えたために繁殖業者から「不要」とされた犬猫や、ペットショップで売れ残り「不良在庫」となった子犬や子猫たちを、1匹あたり数万円をもらって引き取り、劣悪な環境で飼育しているとして、動物愛護団体に刑事告発された業者だ。一部テレビで報道されたこともあり、大きな話題になった。


 これで一件落着――と思いたいところだが、残念ながらそんなにいい話ではない。


 もともとこの引き取り屋は、動物愛護団体が動物愛護法違反(虐待)と狂犬病予防法違反で告発し、栃木県警も両容疑で書類送検したものだ。逮捕された男性自身、「もう少し面倒を見るべきだった」などと容疑を認めていた。にもかかわらず同県大田原区検は、動物愛護法違反容疑については不起訴処分としていたのだ。

 

 告発にかかわった弁護士が検察に問い合わせると、不起訴とした理由について「被告発人(筆者注・引き取り屋の男性)の施設で健康状態が悪くなったのか、被告発人に引き渡された時点で罹患していたのかを立証することが困難と判断した」と説明したという。


 だがこの事件では、引き取り屋のもとから保護してきた19匹の犬猫について7人の獣医師が診断と治療をしたところ、やせこけていた状態から短期間で標準体重に戻り、皮膚病などの症状も回復が認められていた。つまり、適切な飼育管理をしていれば避けられる状態に陥っていたことが獣医学的に明らかになっており、最終的には7人の獣医師全員が「ネグレクトがあった」との診断書を提出していた。


 環境省幹部も、テレビ報道などでこの引き取り屋が大きくクローズアップされていた当時、「あの状況で飼うのは明らかに虐待。動愛法違反だ」と指摘。栃木県警も書類送検にあたり、飼育施設の清掃や汚物処理を十分に行わず、犬猫計15匹を皮膚病などに感染させた疑いがあるとしていた。


 告発した動物愛護団体「日本動物福祉協会」の調査員で、獣医師でもある町屋奈(まちや・ない)さんは「獣医師という専門家の意見が正当な理由もなく無視されたことが残念です」と嘆く。同協会は処分を不服として、8月31日に同県大田原検察審査会に審査を申し立てた。町屋さんはいう。


 「この事件のように、証拠から明らかに虐待と判明している事案についてまで不起訴処分とされるなら、動物愛護法の存在意義自体が否定されます。ネグレクトは長期間、動物に苦痛を与え続ける、残酷な行為。今回、改めて正しい判断がなされれば、同様の事件を未然に防げるようにもなる。そのためにも、法律をしっかりと運用してくれるよう強く望みます」

 

 検察が動物愛護法違反について不起訴としたことを問題視するネット署名も、始まった。9月15日現在、既に1万を超える署名が集まっているという。


 町屋獣医師がいうように動物愛護法を巡っては、繁殖業者やペット店など第1種動物取扱業者に対して、地方自治体などの行政機関が法律を適切に運用しようとしない事例が散見される。今回の引き取り屋については栃木県警が書類送検した後も、栃木県動物愛護指導センターはこの業者の第1種動物取扱業登録の更新を認めるなどしており、行政による業者の取り締まりが有名無実化している実態が改めて浮き彫りになった。その原因を、行政職員の多くが「動物愛護法には具体的な数値基準がないことが大きい」と指摘する。


 犬猫の飼育施設の大きさや虐待の定義について可能な限り数値規制を設けていくことを、環境省は迅速に検討すべきだろう。数値規制を設けることは確実に、行政による第1種動物取扱業者への監視・指導を容易にし、いまも虐待的環境で飼育されている犬猫たちを救い出すことにつながる。動物愛護法が適切に機能、運用されるために、環境省の対応を期待したい。


(太田匡彦)

太田匡彦
1976年生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当。AERA編集部記者やメディアラボ主査を経て、文化くらし報道部記者。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』(朝日新聞出版)などがある。
この特集について
いのちへの想像力 「家族」のことを考えよう
動物福祉や流通、法制度などペットに関する取材を続ける朝日新聞の太田匡彦記者が、ペットをめぐる問題を解説するコラムです。
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