希少種を襲う野ネコ 捨てられて野生化、アマミノクロウサギ狙う
7日に国立公園に指定された鹿児島県・奄美大島で、ネコが森に入ってアマミノクロウサギなどの固有種を襲う被害が相次いでいる。貴重な生態系が壊れ、来年夏の登録を目指す世界自然遺産の審査にも影響が出かねない。ネコを捨てたり放し飼いにしたり、人間の無責任な行動による被害は全国各地で起きており、どこも対応に困っている。
2月下旬深夜、奄美大島中部の林道脇の草むらで、ライトに照らされた黒ネコの目がきらりと光った。ネコは人の気配に気づくと、森の中に消えていった。その前後には奄美大島と徳之島だけにすむ国の特別天然記念物、アマミノクロウサギが12匹現れた。うち1匹は脚をけがして引きずるように歩いていた。
黒ネコは人が放したものか、その子孫とみられる。環境省の推計では、奄美大島全体で野ネコは600~1200匹、徳之島は150~200匹いるとみられる。同省が2008年、クロウサギをくわえたネコを初めて撮影した。
奄美野生動物研究所の塩野崎和美研究員が野ネコのフンを調べたところ、クロウサギやケナガネズミ、アマミトゲネズミといった希少哺乳類を好んで食べていた。両島には本来、敵となる肉食獣がいない。塩野崎さんは「島在来のハブは警戒しても、ネコから逃げる術は持たず、狙われやすいのではないか」と話す。
奄美大島では1979年、ハブなどを駆除するためにマングースが放たれ、希少動物が激減。20億円以上かけてわなをしかけてマングースを捕殺した。クロウサギの目撃地域は03年ごろ以降、徐々に広がってきた。それが今度はネコの脅威にさらされている。
ネコが襲う現場を目にした自然写真家の常田守さん(63)は「島から固有種の姿が消えることはすなわち絶滅を意味する。早く手を打たないといけない」と話す。
■各地で被害、譲渡も
ネコによる被害は奄美大島だけではない。沖縄ではヤンバルクイナが襲われている。東京・伊豆諸島の御蔵島では、70年代に最大350万羽いたとみられる海鳥オオミズナギドリがネコに襲われ、12年には約77万羽に減った。
山階鳥類研究所の岡奈理子研究員は「鳥が消え、フンを栄養にする木々も枯れる。エサがなくなりネコも餓死する。そんな悲劇がいずれ起きる」と話す。
御蔵島や同じく海鳥の繁殖地の北海道・天売島では、野外のネコに、不妊や去勢手術をして再び放して徐々に減らそうとした。だが、数が減らず、捕獲もすることになった。
固有種アカガシラカラスバトなどが激減した、世界自然遺産の東京都・小笠原諸島では05年、都獣医師会などが捕獲したネコを人になれさせて飼い主を探す事業を始めた。700匹近くを譲渡し、父島では一時野ネコが20匹程度に減った。都獣医師会の高橋恒彦獣医師は「ネコを引き取ってくれる大きな受け皿があってできる事業。どこでも出来るわけではない」と話す。
徳之島では14年から環境省などが、野ネコ約130匹を捕まえて飼いならし、約50匹を新しい飼い主らに引き渡した。新年度から奄美大島でも捕獲に乗り出すが、数が桁違いに多い。
海外では生態系を守るため、野外のネコを捕殺する場合もある。NPO「どうぶつたちの病院沖縄」の長嶺隆理事長は「これ以上放置すれば希少種は絶滅する。飼い主のいないネコを救う努力は続けつつも、飼い主が見つからなければ、殺処分も検討せざるを得ない差し迫った状況だ。無責任な飼育者への罰則を含めた条例も必要だ」と話す。
(外尾誠、小坪遊)
<野ネコ>
エサなどを人に依存せず、野生化したネコ。世界の侵略的外来種ワースト100、日本の侵略的外来種ワースト100の両方に入っている。野良ネコは特定の飼い主はいないが餌付けなど半野生状態で暮らすものをいう。
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