ローカル線復活の「伝説の先輩」から引き継ぐ 猫駅長「ニタマ」
先輩は三毛ネコだった。名前は「たま」。ある地方鉄道の危機を救った、伝説のネコの駅長だ。
2005年、貴志川線は、廃線の危機にあった。年間利用者は192万人まで落ち込み、5億円の赤字を計上していた。
翌年、両備グループの和歌山電鐵が経営を引き継ぐと、貴志川線は奇跡の復活を遂げる。利用者は06年には211万4千人、08年には219万人。「いちご電車」や「おもちゃ電車」など魅力的なデザインの新車両や、住民らの地道な運動、貴志駅を守る駅長たまの存在が一体となって効果を上げたのだ。
貴志駅の売店のネコだったたまを駅長に命じたのは、小嶋光信社長だ。飼い主に住処を駅舎に置いてほしいと懇願され、駅長にしてすまわせることにした。
就任すると話題を呼び、1年で県に11億円の経済効果を招き、最終的には社長代理まで務め、現在は名誉永久駅長になっている。
広報の山木慶子さんは言う。
「たまは、神さまの使いだったのかもしれません」
沿線には有名な三つの神社がある。住民の思いをくんで遣わしてくれたのではないか。
肝のすわった2代目
そのたまから、直接の薫陶を受けたのが、現スーパー駅長「ニタマ」(メス、6歳)だ。
「たまと同じ三毛ネコだから」という縁で、6年前、両備グループへやってきた。ひとなつこく、肝の据わったところがあったから、小嶋社長に抜擢された。15年8月11日、「たまⅡ世駅長」を襲名したのだ。
「就任式では、スピーチ中の社長を見上げ、聞き入っているように見えました」(山木さん)
先輩たまの遺志を継いだ瞬間だったのかもしれない。
貴志川線の15年度の利用者数は232万人にのぼる。貴志駅には、毎日多くの観光客がやってくる。交通整理に協力したり、駅舎を案内したりするのは、地元のボランティアたちだ。
泰然として媚びない。ニタマは、駅長室にたたずみ、時折、まっすぐ視線を投げる。気が向いたら伸びをし、昼寝もする。
気負いはない。ニタマは自分を知っている。貴志川線を支える、スーパー駅長ネコなのだ。
(AERA増刊「NyAERA」から)
(文:AERA編集部・熊澤志保、写真:楠本涼)
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