廃校になった木造校舎を見守り続ける 猫校長「たかね」
長野県南信濃。リンゴの名産地として知られる飯田市に、旧木沢小学校はある。赤い屋根、白塗りのポーチが愛らしい木造校舎。開校は1872年。1991年に休校になるまでの約120年間に輩出した卒業生はおよそ2千人だ。
築85年ほどの校舎は現在、卒業生有志らでつくる「木沢地区活性化推進協議会」の尽力で保存され、観光客と住民とが交流する場に生まれ変わった。
そんなのどかな学び舎に8年ほど前、赴任したのがキジトラネコの「たかね」校長だ。
同協議会の代表、松下規代志さん(78)は話す。
「やっと目が開いたころに捨てられているのを駐在さんがみつけて、みんなで保護した。そのうち、飼い主が決まったが、今度はその人が体調を崩して、単身引っ越すことになって。気が付いたら、学校にすみ着いたので、またみんなで世話してるんです」
地域の広報部長も兼任
みんなに可愛がられ、存分に食事をもらう、御年9歳の堂々たる風貌はまさに校長先生だ。
「雑誌やネットで取り上げられるようになって、遠方から会いに来る人も。名古屋のあるご夫婦なんて、たかねにいくらか遺産を残す、なんて言ってますよ(笑)」と松下さん。かつて職員室だった部屋にはわらで編んだネコつぐらと、ネコ用ベッドが置いてある。ベッドには「たかねネコ校長 教員住宅」のタグが。
「コマーシャルのロケに使われたりもしましたが、やはりたかねが知られるようになったことで、訪れる人ががぜん増えました」
ご飯係だという前澤憲道さん(68)が姿を現すと、たかねはいそいそと後を追う。
「皆さんがおいしいペットフードをたくさん、持ってきてくれる。ありがたいんだけど、このごろ贅沢になって。地元のホームセンターで売ってる餌じゃ、食べてくれなくなった(笑)」(前澤さん)
お世話係の苦悩もどこ吹く風。フレンドリーな校長先生は“登校”してくる人たちを今日も淡々ともてなしている。
(AERA増刊「NyAERA」から)
(文:浅野裕見子、写真:伊ケ崎忍)
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