捨て犬育て、新天地へ 「人に心を開くまでが大変」
ペットブームが続いている。国内のペットビジネスの調査をした矢野経済研究所(東京)によると、2016年度の犬猫のペットフードやペット美容室、保険、動物病院などを含めた市場規模の予測は約1兆4千億円になるという。
石川県内のペットショップをのぞいても、ペットに着せる洋服、おもちゃ、歯磨きなど膨大な品数がそろっていた。人間関係が希薄で殺伐とした時代、愛らしいペットから大きな安らぎを得ているのだと思う。
しかし環境省によると、15年度に全国で殺処分された犬猫の数は8万2902匹。あまりの多さにゾッとする。9月に動物保護団体「石川ドッグレスキュー」(金沢市)を取材した。人間に捨てられ殺処分される犬たちを救い、新たな飼い主に届けるボランティア団体だ。そこには、新たな飼い主が見つかるまで県の南部小動物管理指導センターなどから引き取った犬を世話をする「預かりスタッフ」と呼ばれる人たちがいる。
金沢市弥生の宮武珠世さん(42)は預かりスタッフとなって6年ほど。野犬や子犬を中心に自宅で世話をし、今まで90匹近くを新たな飼い主に渡してきた。特に野犬は人になつかず飼育が難しい。人の手から食べ物をもらって、一緒に散歩に出られるようになるまで最低でも3カ月はかかるという。
宮武さんは犬たちを飼育しやすいよう、住宅の一室を汚れにくい素材の床に張り替えた。その行動を支えるのは、新しい家族のもとで幸せに暮らす犬たちの姿を見ることだ。「私には見せないうれしそうな顔をする」と宮武さんは話す。
捨て犬から人間のために働くようになった犬とも出合った。大阪の動物愛護団体に保護され、日本聴導犬協会(長野県)が訓練した聴導犬だ。耳の不自由な内灘町の東義一さん(81)にファクスの着信音や目覚まし時計の音などを知らせていて、生活にかけがえのない存在となっている。
同協会の訓練士である矢沢昌子さん、そして宮武さんも「捨て犬は、人に心を開くまでが一番大変だ」という。そうした犬たちに粘り強く愛情を注ぎ続ける人たちも欠かせない。
一度人間に見放された犬たちが、新たな場所で人のために生き、力を尽くしている。純粋な犬たちと対照的に、人間の身勝手さを思い知らされた。
(須藤佳代子)
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