ペットとのお別れ、有望なビジネスに 葬祭施設、納骨堂
キャンドルがつくりだす柔らかい雰囲気のなか、老衰で死んだゴールデンレトリバーがヤナギ製のかご棺で静かに眠る。その横には好物だったえさが置かれている。飼い主は、長年一緒に暮らしてきたペットに天国へのチケットを持たせて送り出す。ペット商品販売のトムキャット(愛知県豊橋市)が2015年につくった葬祭施設「天遊堂」での光景だ。
忘れ形見としてペットの毛を取っておきたい飼い主のために、専用の袋も用意している。納骨堂は、初年度の使用料が5万円(税別)する高価格帯の棚から埋まっていく。総務省の家計調査によると、2人以上世帯のペットへの支出は、この15年で4割ほど増えた。トムキャットの青木真智子専務(65)は「少子高齢化が進むなか、ペットに対する意識が変わってきている。子どものように扱う人が増えた」と話す。
天遊堂では、お別れ式は一般的な中型犬で火葬込みで4万5千円(同)。犬猫からウサギやフェレットまで、この1年で130件以上の申し込みがあった。死んだときには人間と同じように弔いたいという需要が増えていて、愛知県豊川市や静岡県湖西市などからも依頼が舞い込む。
青木専務は「ハムスターや鳥を飼っている人も『家族だから』と申し込んでくる。ペットの葬祭市場は有望だ」と話す。トムキャットの年間売上高は13億円ほどだが、5千万円を投じて火葬炉や納骨堂をつくってペット葬祭事業に乗り出した。
日本は人口減少時代に入り、その影響はペット業界にも及んでいる。ペットフード協会のデータをもとにアイペット損害保険(東京都港区)がまとめた統計によると、昨年の犬猫の飼育頭数は、12年ぶりに2千万頭を割り込んだ。高齢者でも飼いやすい小型ペットが好まれることもあって、トムキャットも主力にしてきたペットフードの販売で苦戦している。ただ、飼育頭数が減ればビジネスチャンスも縮むというわけではない。トムキャットはむしろ成長市場とみている。
ペットも高齢化しているからだ。ペットの平均寿命は05年からの10年間で犬で1・55歳延びて14・85歳、猫で2・95歳延びて15・75歳になったという。飼い主がペットと過ごす時間が長くなったことも、ペットの家族化を加速させる。高齢のペットの健康に気を配るようになり、フードからおむつなどの介護用品まで関連商品の需要が増えていく可能性がある。
矢野経済研究所によると、ペット関連市場は1・4兆円台で推移。「飼育頭数の大幅な増加は見込みにくいが、健康維持などへの意識の高まりから、市場は拡大していく」とみている。トムキャットの青木秀泰社長(63)は「将来的には月100件のペット葬儀にも対応できるようにしていく」と話し、ペット葬祭事業の拡大を見据える。
(細見るい)
1989年にペットフードや関連用品の販売を始めた。国内製だけでなく、米国などからの輸入品も扱う。ケージやトイレ用品などオリジナル商品の開発にも力を入れている。2015年6月には、火葬炉や納骨堂を備えたペット葬祭施設の「天遊堂」を開設した。
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