本と人をつなぐ招き猫 群馬の書店

群馬県の北西部、四万・沢渡など良質の温泉が豊かに湧く中之条町の中心地にある書店「ちぎりいちブックセンター」は、町の人々が集う“情報ステーション”。特に「猫に関することならほとんどのことはわかる」と、町の人たちは口をそろえて言う。2匹の“書店猫”うめ(推定9歳♀)、しろ(推定20歳♀ )と、店長をはじめ猫大好きスタッフがアットホームな雰囲気で迎えてくれる。
文・鈴木美紀 写真・芳澤ルミ子


かわいがってくれるお客さんを見つけてスリスリするしろ
かわいがってくれるお客さんを見つけてスリスリするしろ

子どももお年寄りも、みんな猫に惹かれて来る

「今日、うめちゃんはどこにいますか?」。近所の小中学生が連れ立って書店にやってくる。「はい、そこの椅子に座っていますよ」。店員さんの返事にうながされて書棚の先に目をやり、猫の姿を見つけると「わあ、いたぁ。かわいい!」と歓声。ぱあっと瞳を輝かせる少女たちに、店長の町田寿子さんが「頭をなでてやってくれる?」と声をかける。

「しろちゃんは今、何してるん?」。お年寄りご夫婦もそろそろ歩きながらやって来た。「事務所で寝てるんじゃないかな。呼んで来(き)ようか」。店長さんは仕事の手を止めるが「いや、いいんよ。起こしちゃ可哀想。これ、しろちゃんにどうぞ」と、包みを差し出す。中には猫用のプレミアムフード。老齢で体が小さくなってしまったしろへの差し入れだ。

 また、かたわらでは生真面目そうな男性が難しい本をめくっているが、片手で無言のまま猫の頭をナデナデしていたりする。

「書店の特質でもあるのか、ここは人が集まりやすい場なんですね。そのうえ猫が店内にいると口コミで知れ渡っているので、猫のご機嫌伺いに通うお客様も多いんですよ」。猫好き店長さんを中心に、当然、町の猫の話題もここに持ち寄られる。書店は、〝猫の情報ステーション〟にもなるのだ。


〝書店猫〟の条件を満たしている2匹

「生まれたときから家に猫がいた」という店長さんは、自宅にもたくさん猫がいて、野良猫などを保護することも多い。うめもしろも、飼えなくなったと聞いて引き取った猫たちだ。自宅はすでに定員オーバー。それならば自身が経営する書店の中で、と考えたのだが、どんな猫でも〝書店猫〟になれるわけではない。2匹は〝選ばれし猫〟なのである。

「条件の第一は、人間好きで、どんな人にも動じない鷹揚(おうよう)さと人懐っこさをもっていること」。店長さんが言うとおり、うめもしろも、初対面の人にも愛想よく接する。「しろなんか、自分を可愛がってくれる人を見分ける才能が抜群。撫でてくれそうなお客様を見極めてストーカーのようについていったりするんですよ」。猫好き客の胸をキュンとさせる行動だ。「それから、バタバタ動き回らず、売り物の本を汚さないことも大切。爪をよく出したり噛んだりする猫だとダメ」。そう、うめもしろも、ただ運良く偶然ここで暮らしているわけではないのだ。

書店のどこかでうめが迎えてくれる「いらっしゃいませ」
書店のどこかでうめが迎えてくれる「いらっしゃいませ」

心を癒やしてくれる、しろ

 2匹の猫にはそれぞれ〝固定ファン〟がいる。しろ推しの代表は坂本真奈さん。「私は特に猫好きではなく、猫を飼ったこともなかったのに、ここでしろちゃんを見かけるうちに何故だかハマってしまったんです」。坂本さんはお母様の介護で悩み多き日々を送っていた。正解などない葛藤の胸の中が、しろに会っていると不思議に軽やかなものになっていったという。「心が休まりました。日参して猫との付き合い方を教わり、次第にうまく抱っこもできるようになって―」。そんなある日、「帰りに猫を持っていきなよ」と店長さん。坂本さんが一人で猫を飼えるほど慣れた頃、タイミング良く里親を募集していた猫がいたので、店長さんが橋渡しをしたのだ。今では自宅で猫と暮らす坂本さんだが、書店に通ってしろと触れ合い、猫好き仲間と語り合うのもやめられない。


抱っこが大好きな、うめ

「ここは猫の〝実家〟。わが家の猫はここでもらったんよ」と語る常連客はほかにもいる。富田和枝さんは、今は亡き初代の書店猫の子どもをもらい受けた猫好きさん。ちょっと太めなうめを抱っこしながら「ほんとにかわいいねー、うちのコの次にだけど」と笑う。

 うめを抱っこした人の中には、群馬県在住の芥川賞作家・絲山秋子さんもいる。「町で行われたイベントの後、うめに会いに寄ってくださったんです」と店長さん。犬好きで知られる絲山さんは、猫も含めて動物好きなのだろう、「猫の話題満載の当店のツイッターにも、よくコメントしてくださいます」。

作家の絲山さんのサイン色紙。うめの似顔絵をその場で描いたという
作家の絲山さんのサイン色紙。うめの似顔絵をその場で描いたという

猫の縁は町じゅうをつなぐ

 わいわい猫話で盛り上がっていると、キャリーケースを抱えたおじさんがやって来た。「うちのマロンも、ここでもらった猫なんよ」。車で書店前を通ると〝実家〟がわかるのか、ソワソワして窓から外をのぞこうとするのだという。

 さらに書店では、町の中学生の「職場体験」の研修も行っているので、「猫のいる書店」は学校でも話題になっている。

〝書店猫〟を通じて、町じゅうの猫好きさんがつながっているようだ。

 

ちぎりいちブックセンター( 戸田書店 中之条店)

●群馬県吾妻郡中之条町大字中之条町931
●営業時間/平日9:30~21:30/日曜祝日10:00~21:00
●TEL0279-75-2002
https://twitter.com/chigiriichi

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