作家・評論家、笠井潔さん 甘がみ超えた「他人の関係」

雑種のオス。名前の方が先についたが、バニラアイスや生クリームが大好物。チョコ味や抹茶味には見向きもしない。(12歳)
雑種のオス。名前の方が先についたが、バニラアイスや生クリームが大好物。チョコ味や抹茶味には見向きもしない。(12歳)

 バニラは私のではなく、妻の飼い猫。同居はしていますが「他人の関係」です。

 もともとは高校生だった息子が捨て猫をもらってほしいとねだったのが、きっかけでした。近所の人が犬を連れて散歩していたら、草むらでまだ目があくかどうかという子猫を見つけて、「どうですか」と家に連れてきたんです。
ところが「ぜひとも」と即答した息子は1年くらいで大学に進学して家を離れてしまい、結局、主に面倒を見るのは妻の役目になりました。私は、彼女がいないときにエサをやったりする程度で、どうも「時々遊んでくれる人間」と思われているようです。

 コチョコチョとちょっかいを出すとがぶっとかみついてくる。妻や息子のことはかんだりしないんですがね。私には本気じゃないだろうけど、跡が残るくらいにはかんできます。猫じゃらしのオモチャにすれば痛い目をみないですむかと思ったけど、それだとダメなんですね。目の前で振ってみせても、知らんぷりです。

 基本的には犬派でも猫派でもなかったんですが、バニラが来たときには先住の犬が2匹いました。2匹とももう死んでしまいましたけれど、犬はかまってあげないと情けない顔をするのが、見ていてつらい。猫はほっておいても平気なのがいい。

 自分自身が猫型なので、「他人の関係」を保つにはちょうどいいんです。猫を見ていると、自分を見ているようでもあります。

 違うのは、私は君のエサ代を稼ぐために働かなければならないということ。この不平等は何を意味するのかと、時々考えたりしています。(文・樋口大二 写真・西田裕樹)

かさい・きよし
1948年生まれ。「ヴァンパイヤー戦争」などの伝奇SFや推理小説、評論でも活躍。近著に藤田直哉との対談「文化亡国論」。

(朝日新聞2015年8月27日掲載)

 

朝日新聞
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