犬の「落とし物」フンと「Gメン」いたちごっこ 世界でも
犬のふんをめぐり、世界各国が頭を悩ませている。大阪府泉佐野市では、放置の「現行犯」を見つけたら過料1万円を科して2カ月近くたつが、効果は未知数だ。各国ではふんを飼い主に送りつけたり、科学的捜査が浮上したり。マナーの悪い飼い主との奮闘が世界で繰り広げられている。
冷え込みが強まる朝夕、泉佐野市の街頭にアナウンスが流れる。
「犬や猫など、ペットの飼い主の皆さん、ふんの後始末はお済みですか? ふんを道路や公園に放置することは条例で禁止されています」。発信源は、路上のふんに「イエローカード」を置く「放置フンGメン」の軽トラックだ。
雑種犬を散歩させていた市内の男性(70)はため息をついた。「子どもに言うようなことを、大きな声で言わないかんのは情けない」
啓発を担うGメンは、市シルバー人材センターの会員。2人1組で週3回、巡回する。
記者は10月に2回同行した。かつて数メートルごとにふんがあり、「ふん銀座」と言われた住宅地を含む区域で、放置ふんを計10カ所で発見した。活動を始めた約2年前、市内14区域でふんを回収した場所は1カ月で1千カ所を超えたが、現在は200~300だ。
巡回は放置が多い場所を選んでおり、市全体からみると限定的だ。市環境衛生課の担当者は放置ふんを「違法駐輪」になぞらえ、「Gメンの活動の前後の時間、活動区域の少し外で、ふんをさせる人がいる。いたちごっこです」と話す。
過料徴収を担うのは府警OBの環境巡視員。2人1組で平日、違反を探す。だが、実際に徴収したのはまだ1件。「放置の現場を押さえる『現行犯』というハードルは高い」という。5千円だった過料を今年10月に1万円に増やしたが、効果はまだわからない。
市は、ふん対策に年約1千万円をあてる。財源として、飼い主に課す犬税を検討したが断念した。
こうした中、12の自治会・町会が、イエローカード設置などに協力を始めた。新家(しんけ)町会(約600世帯)の岸本一郎会長(66)は月1回、町会役員と巡回している。「この地域は団結してやってまっせと見せることで、マナーが悪い飼い主の心がけを変えたい」
飼い主に返送、一時70%減 欧州
ふん対策で近年注目を集めたのは、スペイン・マドリード近郊のブルネテだ。人口約1万の小さな街は昨年2月、広告会社と組み、放置ふんを飼い主に宅配するキャンペーンをした。
米紙などの報道によると、20人のボランティアが街に繰り出す。ふんを放置した飼い主に、さりげなく近寄って世間話をし、犬種や名前を聞き出す。役所で犬のデータベースと照合して住所を突き止め、ふんを「落とし物」と書かれた箱に入れ、届けた。放置ふんは一時70%減ったという。
欧州では「科学捜査」導入論も浮上している。
ドイツでは、ふんのDNA検査をし、「容疑犬」を特定してはどうかという議論が続いている。現地紙などによると、罰金が設けられていても徴収例が少ないことが背景にある。今年も、イタリアのナポリで導入論が持ち上がったと報じられた。
帯広畜産大の元副学長で、各国の事情に詳しいペット法学会副理事長の吉田真澄さんによると、パリは罰金(現在35ユーロ=5千円余り)徴収の徹底で効果をあげた。ふん吸引器付きバイクを導入したり、犬専用トイレスペースを設けたりと、20年以上の試行錯誤でたどり着いた結論という。
欧州の例は「飼い主の責任追及」という点で共通している。吉田さんは「宅配や罰金徴収で飼い主の責任をきちんと認識させれば、抑止効果が生まれる」と解説する。
また、ふん問題の背景には「人間関係の問題がある」と指摘。地域の人間関係が良好なら大きな問題に発展しないが、希薄だと、そうはいかない。新興住宅地などを抱える街で問題化しやすく、「地域や自治体の解決力が試される」とみる。泉佐野の自治会・町会の動きに「啓発などに力を発揮すれば、効果が期待できるかも」と注目する。(中川竜児)
(朝日新聞2014年11月22日掲載)
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