ペットのための栄養学 バランスのとれたペットフードとは
特別療法食が原点の老舗メーカー
獣医師が薦めることが多い「ヒルズ」「ロイヤルカナン」「アイムス」。これらのメーカーはどんな基準でフードを製造しているのだろうか。
まず、健康維持食の「サイエンス・ダイエット」と特別療法食「プリスクリプション・ダイエット」を製造販売するヒルズの場合、ルーツは1939年にまでさかのぼる。
「獣医師のマーク・モーリス博士が腎臓病を患った盲導犬を救うため、食事改善を行ったところ、症状が軽減しました。この経験を基に48年に作られたのが史上初の腎臓病の療法食k/dです。そして療法食の技術を基にして67年に健康な犬と猫が対象のサイエンス・ダイエットが誕生したのです」(前出の坂根氏)
世界初の年齢別フード
ヒルズは肥満や尿路結石、腎臓病などの療法食を次々に開発し、健康な犬猫対象の総合栄養食でも、年齢を考えたライフステージ別のペットフードを世界で初めて作った。 「80年にヒルズが膀胱結石の療法食s/dを発表したとき、私はまだ学生だったのですが、衝撃を受けました。尿を酸性化させる食事で病気が治ることが衝撃的だったのです」(坂根氏)
ヒルズの研究データを見ていくと、食事がいかにペットの健康に重要かがわかる。
たとえば、犬用のn/dというがんの療法食は、リンパ腫という血液のがんを対象にしたところ、症状が落ち着く「寛解期」が延長したという結果が出ている。この研究論文は人間が対象のがん学会誌にも掲載された。
「猫甲状腺機能亢進症や柴犬に多い認知症なども栄養成分の調整による食事の改善で治る可能性は高いのです」(坂根氏)
犬・猫は大切な同僚
研究データが充実していると、気になるのが研究環境だ。ヒルズはホームページでも公開しているが、米国カンザス州に広大な敷地の充実した研究設備を持っている。研究対象の犬や猫約900匹は人間のパートナーとして扱われ、専用の個室でゆったりと過ごしているという。「人間より大事にされていますよ」と坂根氏は笑う。研究所内の「ニュートリゲノミクス研究室」は基礎研究の臨床実験室。特定の栄養が特定遺伝子の発現に与える影響を研究している。人間の健康因子を探るのと同様のアプローチを当てはめた最先端の研究だ。
ヒルズはこの秋、健康維持食と特別療法食の間のラインに当たるシリーズの販売を開始した。動物病院やペットショップで購入できる健康な犬猫の健康寿命を支える総合栄養食だ。
健康ガードシリーズに『脳』や『関節』『活力』のネーミングがついているのは、長年、積み重ねてきた研究データを健康な犬や猫の食事に積極的に生かし、将来、予測される健康対策につなげたいという狙いがあるからだ。
ペットの栄養学を突きつめていくと、専門知識のある人の助言が欲しくなる。ヒルズの健康ガードシリーズの誕生には、その一助にもなるようにとの考えもあるそうだ。
ライフステージ別のフードを世界で初めて開発
療法食の研究から生まれた健康維持食サイエンス・ダイエット
サイエンスダイエット【プロ】健康ガードシリーズ
病気の犬猫の食事管理プリスクリプション・ダイエット
食物アレルギーを考えた犬用おやつ
犬・猫の特性に合ったフードを開発
「犬猫には個々の特性があります。たとえば小型犬と大型犬では必要とする栄養バランスも違います。それぞれに必要な栄養バランスを適切に考えるのがロイヤルカナンの哲学『ヘルスニュートリション』です」と話すのは獣医師であり、ロイヤルカナン ジャポンのサイエンティフィックコミュニケーション・マネージャー、原田洋志氏だ。
飼い主には骨形のドッグフードが魅力的に見えても、飼い犬には栄養バランスのほうが大切。形状を変えるのであれば、ドライフードを食べこぼしやすいシーズーの顔の形に合わせたり、食欲が旺盛なラブラドールレトリバーに噛ませる回数を増やしたりするために行われる。
「原材料も厳選したものを選別。人間用の食品のうち、人間が食べない部分を使用するヒューマングレードを貫いています」
ロイヤルカナンの本社はフランス。24ヘクタールの広大な敷地に本社、研究、製造、販売の機能を集結させている。ロイヤルカナンのスタートも南フランスの獣医師が考えた療法食だ。皮膚病のジャーマンシェパードの食事から開発が始まった。
柴犬用のフードを開発
飼い主としては海外の研究所によるデータが日本のペットにも合うのか気になるが、犬や猫の品種ごとの特徴には国別の違いがほとんどない。そのため世界共通の開発ができるのだという。
「ただ、柴犬は日本固有の種。ブリーダーさんにうかがうと、太りやすかったり、皮膚のトラブルやおなかを壊しやすいといった悩みが多い。そこで、日本専用に柴犬用を発売しています」(原田氏)
ロイヤルカナンは飼い主へのペット栄養学の啓蒙にも力を入れている。その一つがe-ラーニングプログラムだ。
獣医師が監修した犬・猫の体の特徴や栄養バランスなどが学べる。
「間違ったフードを選んでいる方は意外に多い。ペットの健康を守るのは飼い主さんしかいません。正しい情報を伝えるのもメーカーの役割だと思っています」(原田氏)
個々に必要な栄養バランスを適切に考えるのが哲学
犬種の特性を考えた総合栄養食
糖尿病などの病気を持つペットのための食事療法食
日本向けに開発された柴犬用総合栄養食
動物性タンパク質を重視した初のブランド
アイムスが誕生したのは1946年。70年近い歴史があるメーカーだ。現在、日本国内でアイムスの商品を販売するのはプロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン。アイムスは健康な犬猫対象のブランドで、療法食は「ユーカヌバ」の名称で展開している。
「アイムスの特徴は栄養学から始まっていることです。栄養学者のポール・アイムスが犬と猫に必要な栄養に着目。動物性タンパク質が第一というペットフードを作る初のブランドなんです」(P&Gジャパンのマーケティング本部アシスタントブランドマネージャー、趙震宇氏)
犬と猫は人間に比べ、腸が短い。その理由を突きつめると、肉類など動物性タンパク質の消化に適した身体構造にあるという。
栄養学の基礎を重視
アイムスの本社は米国。数百万ドルを投じて作られた広大な施設で、獣医師と栄養士をスタッフに、研究が進められている。
アイムスには年齢別にフードの成分を分けているという特徴もある。ただ、飼い主の中には人間で言えば50代に当たるシニアの7歳になっているのに、成犬用のフードを与えている人も少なくない。
「今はまだ適切なフードを選べるように啓蒙していかなければならない段階と考えています。そのためにラインを増やすよりも、ベーシックなフードを正しく活用していただくことに力を入れています」(趙氏)
犬と猫に必要な栄養に着目
年齢別にフードの成分を分ける
肉類の量を重視した総合栄養食
鶏肉が主要原材料の一つのキャットフード
(文=角田奈穂子)
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