隔週木曜は「捨て犬の日」 行政と流通が身勝手を生む③

消費者に「衝動買い」を促す典型的な場となる移動販売。イベント会場が、犬を買うのに適切な場だろうか……
消費者に「衝動買い」を促す典型的な場となる移動販売。イベント会場が、犬を買うのに適切な場だろうか……

 犬を捨てにくくする、つまり出口での対策が進む一方、入り口、つまり犬を飼うきっかけになるペットショップ側にも安易な飼育放棄を助長させる問題が潜む。「犬の飼い主検定」などを運営するNPO法人動物愛護社会化推進協会の西澤亮治事務局長はこう指摘する。

衝動買い煽るショップ

「一部のペットショップで衝動買いを促すような手法で売っているところがあり、それにつられて安易に買ってしまう消費者が後を絶たないことが背景にあります。入り口であるペットショップを改善しないと、出口で頑張ってもなかなか殺処分は減らないのが実態です」

 例えば、東京都内などの繁華街で深夜まで営業しているペットショップでは、「目が合ったら抱っこして相性を確かめてみませんか?」などと来店者に呼びかけ、子犬を手に取らせる。

「抱っこさせたら勝ち」

 子犬のぬくもりを感じさせれば販売につながりやすいという、そんな業者間の格言に基づく販売手法だ。また店内には「18歳から保証人無しでローンOK」などと掲示して、衝動買いを促そうとする。

移動販売の罪深さ

 こうした現状に、全国ペット小売業協会(ZPK)副会長で自身もペットショップチェーンを経営する太田勝典氏はこう認める。

「一部ペットショップにおける販売する際の説明の不十分さが、飼育放棄につながっているところがある。いいことしかいわないから、買った後にミスマッチが起きるのです」

 太田氏の店舗では販売にあたって、1時間以上かけて18項目にわたる説明をしている。犬種の特性やしつけの大切さ、生活環境が変化するリスク、健康管理の方法を飼い主に説く。説明の途中で、「そんなに大変ならやめておきます」と飼うのを断念する客もいるという。

 動物愛護法では「動物の販売を行う者は、購入者に対し、当該動物の適正な飼養または保管の方法について必要な説明を行い、理解させるように努めなければならない」などと定めている。ペットショップは法律上、衝動買いを促すような場であってはならないのだ。

 衝動買いの原因になるとして、ZPKなどが自粛を呼びかけているのが「移動販売」と呼ばれる売り方だ。イベント会場やデパートの屋上などに短期間、犬や猫を持ち込んで販売する手法のことをいう。

 2009年2月14、15日にはナゴヤドーム(名古屋市)で「わんにゃんドーム」(テレビ愛知など主催)というイベントが開かれ、ここでもあるNPO法人による「同時開催」として移動販売が行われていた。

ペットの在庫一掃セール

 ナゴヤドームのグラウンド全体を使って行われたイベント。その三塁寄りの一角に、ひときわ来場者が集まっている場所があった。そこが、移動販売のブースだった。

 すべての面が透明のケースに1、2匹ずつ子犬が入れられていた。ケースはコの字形に約10個ずつ並べられ、一つのブースを作る。そのブースを数多くの来場者が取り囲んで、子犬の様子に見入っていた。来場者が希望すれば、ケースから子犬を取り出し、抱っこさせてくれる。値札はないが、
「御予約 承ります!」
 という看板が掲げられている。販売はしていないのか、ブースの担当者に尋ねると、
「予約していただければ、イベント終了後にお渡しできます」
 そう、子犬の価格とともに説明してくれた。テレビ愛知は、
「出展者は子犬への負担に十分配慮し、衝動買いを避ける販売をしたと認識しています」

 一方で、移動販売のメリットを、大手ペットショップチェーン経営者はこう話す。
「週末、大きな会場にたくさんの人を集めるのだから、とにかく瞬間的に大量に売れる。ペットショップにとっては、売れにくい在庫を処分できるチャンスなのです」

 ペットショップではどうしても売れ残りが出る。その売れ残りを店頭に置いたままにすれば、限られたスペースが有効に使えない。そのためには、移動販売という「在庫一掃セール」は極めて魅力的な手段なのだ。

(太田匡彦 AERA 2009年4月13日号掲載)

太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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