参加資格は“食いしん坊”? 犬種や年齢問わず楽しめるドッグダンスの魅力とは
犬と飼い主が音楽に合わせて一緒に踊る「ドッグダンス」。ハンドラー(飼い主)の合図で、犬と息を合わせながら歩いたり、ターンやジャンプなどのトリックを交えて音楽を表現するドッグスポーツで、犬と飼い主の絆が深まり、犬の心身の健康に役立つのが魅力だ。今回は、ドッグダンスのインストラクターであり、競技会の審査員も務める五井朱美さんに、その深い魅力について伺った。
参加資格は食いしん坊?
ドッグダンスは、1980年代に欧米で誕生したドッグスポーツの一つ。日本では2021年に「JKC(ジャパンケネルクラブ)」がドッグダンスを公認競技に認定し、2023年には初の公認競技会を開催。近年、競技人口は増加傾向にある。
「スピードやタイムを競ったり、決められた課目をこなすほかの競技とは異なり、その子の得意なことやできることに応じてパフォーマンスを作り上げていけることが、ドッグダンスのいいところ」と五井さん。
「たとえば、シニア犬には短めの曲を選び、体力に配慮したり、パピー(子犬)の場合は、骨や関節の発達具合を考慮して激しい動きを避けたり。体重の重い子にはジャンプを控えめにするなど、愛犬に合った曲や振り付けを飼い主さんが選べるんです」
ドッグダンスには、2つの競技種目がある。一つは「HTM(ヒールワーク・トゥ・ミュージック)」で、犬が演技の大半をハンドラーの側で前進、バック、サイドステップ(横歩き)などを行いながら、犬・人・曲の一体感を表現する競技。もう一つは、人と犬が離れた位置で演技したり、バリエーション豊かな動きで曲を表現する「FS(フリースタイル)」。犬の体に危険がない範囲で、さまざまな動きを自由に取り入れることができる点が特徴だ。
そしてドッグダンスのイベントは、大きく分けて2つのスタイルがある。一つは正式な競技会であり、もう一つは「ファンマッチ」と呼ばれる発表会である。
「ファンマッチでは、おやつやおもちゃを使いながら、楽しく踊ることが目的。審査員がその場でコメントをくれたり、順位をつけたりするような形式もあるので、初心者にとっていい練習の場となっています。一方で、正式な競技会ではおやつやおもちゃを一切使用せず、採点がされ順位も決まります。より本格的に挑戦するため、トレーニングにも熱が入りますね」
ドッグダンスは、大きなケガや病気がなければ、犬種や年齢問わず、いつからでも始められる。
「ドッグダンスを始める条件を挙げるとすれば、『食いしん坊なこと』ですね。トレーニングにおやつを使うので(笑)。遊ぶことが好きな子にも向いています。競技会や発表会に出ることを目的とせず、愛犬との楽しいコミュニケーション目的で始める方も多いですよ」
犬と飼い主が一体となり絆が深まる
「トレーニングの第一歩は、『マテ』や『呼び戻し』などのしつけレベルの基本と同時に、四つ脚で『きれいに立つこと』から教えます。中には、すぐに音楽をかけて踊れると思っている飼い主さんもいますが、ノーリードで行うドッグダンスは、『呼んだらすぐに飼い主の元に戻れること』や『待てること』が基本。そして『姿勢を整えること』が、サイドステップやバックといった複雑な動きをきれいにキメるためには重要。特に、シニアになると背中が丸まったり、脚が内側に入る傾向があるので、正しい姿勢を維持できるようにトレーニングしていきます。その後、『ターン』や『ジャンプ』などのトリックと呼ばれる技を増やしていきます」
ドッグダンスの競技会や発表会は、多くの観客や他の犬、音響など、犬にとって刺激が多い環境だ。そのため、緊張や混乱から犬が逃げ出してしまったり、練習通りのパフォーマンスができなかったりすることがある。
「こうした状況を防ぐためには、日常生活での社会化や、犬が常に飼い主さんの合図に集中できるようにトレーニングを重ねることも大切。それらを通じて、飼い主と犬の間に深い信頼関係ができ、安定したパフォーマンスにつながります。レッスン中は同じ空間で飼い主さんも振り付けやステップを覚え、音楽に合わせて合図を出す練習をします。犬と一体感を持ってトレーニングすることで、コミュニケーションも増え、より絆が深まるんですよ」
愛犬の健康維持やメンタルケアにも
そんな五井さん自身も、最初は飼い主としてドッグダンスを始めた一人。2008年、当時8歳だった愛犬・鈴之介のトレーニングの一環で、ドッグダンスを知ったことがきっかけだった。
「最初はアジリティに挑戦させていたのですが、向いていなかったのか嫌がる様子を見せたので、辞めさせてしまったんです」
一方で、弟犬の凛太郎はアジリティが大好きだった。楽しそうにトレーニングに出かける凛太郎と五井さんの姿を、鈴之介は横目で眺める日々だったという。
「そんな時、ドッグダンスの競技会があることを知り、試しに鈴之介を誘ってみたら、『待ってました』と言わんばかりにイキイキと応じてくれて。『まだ私(飼い主)に期待されている』と実感できたことが、鈴之介の自己肯定感につながったのだと思います。それをきっかけに、積極的に新しいことを教えていきました。楽しそうにどんどん覚えてくれるので、私も楽しくなって……ポジティブな循環が生まれた感覚がありましたね。そこからすっかりドッグダンスにハマってしまって、今に至ります(笑)」
一度は諦めたからこそ、ともに新しいことに挑戦し、お互いの目的意識が共有できる感覚は、何にも変え難い達成感が得られた。毎年春と秋の競技会に向けて練習を積み重ね、競技を引退してからも、自宅でダンスは継続した。結果、鈴之介は17歳まで、凛太郎は16歳まで元気に暮らした。
「ドッグダンスは、犬にとって筋トレや脳トレになるのでしょう。特に、シニア犬の認知症予防やメンタルケア、自立歩行の維持にも役立つようですね。実際に、我が家の愛犬2匹の健康寿命が延びたのも、ドッグダンスのおかげだったのではと感じています。これがドッグダンスの一番の魅力だと思いますね」
昨年は初めてグループダンスに挑戦。8〜11歳のウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ジャック・ラッセル・テリア、マルチーズ、ポメラニアンの4匹で、飼い主たちと一緒に練習を重ねて本番を迎えた。
「飼い主同士や犬同士の交流も深められますし、一緒に取り組む過程そのものが思い出になるのがうれしいですね。今後は参加犬を増やし、プードルやビションフリーゼも加えた7匹のチームで次の発表会に向けて準備しています」
「ドッグダンスは、犬と飼い主がともに健康で幸せな時間を過ごすための、素晴らしいスポーツだと自信を持っていえます。日本では公認競技としての歴史は始まったばかりですが、今後、日本のドッグダンスのレベルが国際的に認められる日も近いと期待しています。もっとたくさんの方にドッグダンスの魅力を知ってもらえたらうれしいですね」
![](http://p.potaufeu.asahi.com/f0cb-p/picture/29179797/426aac0c3f8625f9a406b4b7c61e223e.jpg)
- 五井朱美(いつい・あけみ)
- ドッグダンス講師・ドッグダンス審査員(JKC認定)。2002年から愛犬のマルチーズとドッグスポーツに挑戦。2008年よりドッグダンスを本格的に始め、競技会や普及活動に尽力。2014年からDog Dance Japanの運営に参加し国内外の競技会に出場。ドッグダンス世界大会(2014年ドイツ、2018年スイス、2019年ドイツ、2023年デンマーク)にも出場。現在は2匹のマルチーズと共にドッグダンスやラリーオビディエンスを楽しみながら講師として活動中。
![2018年より日本代表として、コロナ禍を除き過去3回の世界大会に出場した美羽(五井さん提供)](http://p.potaufeu.asahi.com/f194-p/picture/29179840/f752dbaa9307490ea88485ceace169a8.jpg)
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