ペットの絵、癒やしは写真以上? 「飼い主さんの気持ちに共感し思いを込めて描く」

シェルターの猫を描いた絵と、もとにした写真

 ちまたには、ペットの似顔絵を描くサービスが多くあります。「何がいいんだろう? 写真の方がいいのでは?」と、まったく興味がなかったのですが、ひょんなことから描いてもらった愛猫の絵に、とても癒やされたのです。

 どうしてそんなに癒やされるのか――。検証しようと、描き手の「もふかな工房」さんに話を聞いてみました。

ついでの依頼だったのに

 今年の春、友人と出かけた保護犬・保護猫関連のイベントに、ペットの似顔絵コーナーがありました。人数限定で、私たちが会場へ着いたのは午前中の遅い時間だったのですが、友人は自分の猫を描いてもらうのが大好き。まだ枠があればラッキーと思いつつたずねると、「午後ならまだありますよ」ということで、「じゃあ私も」と便乗しました。イベント特典の無料サービスだったため、それなら……というよこしまな動機でした。

 時間になって受付へ行くと、LINEで写真を送り、それをもとに描いた絵を送り返してもえるとのこと。今いるペットでも、亡くなったペットでもOKで、私は1年半ほど前に亡くしたサビ猫の「ポッポ」をお願いしました。

依頼したポッポの写真

 その後、喫茶店でお茶を飲んでいたら、早くも絵が送られてきました。

「もう?」と言いながら見てみると、ペンと水彩でふんわりと描かれた、やさしい表情のポッポの絵が。なんだかうれしい。癒やされる。「でも意外。どうしてこんなに癒やされるんだろう?」と友人に問うと、「自分の大切な子の特徴をとらえてもらえるのがうれしいのかも」という意見で、「そうかもね」なんて話をしていました。

友人が描いてもらった絵。ミント(左)とココ

 さらに、その夜のことです。再び「もふかな工房」さんからの着信がありました。「ちょっと目が違うかなあと思って、直しました」と、手を入れた絵を再送してくれたのです。

 そこには、瞳に光が加わり、よりいきいきとした表情のポッポがいて、生前のようにまっすぐ、クリクリした目で私を見ていました。「あ、ポッポだ」と、胸がじんとし、今回は無料のサービスなのにもかかわらず、そこまでしてもらったことにも感激しました。

私を癒やしてくれた、亡き愛猫ポッポの絵

 今、その絵はスマホの待ち受けになり、毎日何度も目を合わせ、そのたびほっこり、幸せな気持ちにさせてもらっています。

描くきっかけは自身の経験

 絵を描いてくれたのは髙倉香奈子さん。「もふかな工房」として活動し、絵の売り上げの一部を犬猫の保護団体に寄付しています。高倉さんはドッグトレーナー、保護犬・保護猫シェルターのスタッフでもあり、イベントへはシェルターのつながりで参加したそうです。

「もふかな工房」の髙倉加奈子さん。元保護犬の愛犬1匹と暮らしている

「絵を手直しして再送したのは他にもう一件ありました。イベントの時はそれぞれに使える時間が30分と限られていたので、未消化な部分があったんです」

 真摯に絵と向き合っていることが伝わってくる言葉です。

 絵は独学。学生時代に趣味で描いていたが、いつしか描かなくなっていたのを再開し、ペットの絵に特化したのは自分自身の経験がきっかけでした。

「愛犬を失くした後、写真を飾りたくても飾れませんでした。写真はリアル過ぎて、喪失感が増す気がして。それがある時、描いてもらった愛犬の絵に癒やされ、現実を受け止められるようになりました。同じような思いをしている人たちに、少しでも癒やしを得てもらえたらと思ったのが、描き始めた理由です」

毛の一本一本まで描き込んだポートレート、ラフなペン画、デジタルデータの3パターンを展開

 亡くしたペットも、今一緒に暮らしているペットも。写真をもとに「描くことで喜んでもらえたらうれしい」と描き上げられた絵からは、やさしさが感じられます。

「通常は、写真を何枚か出してもらった中から、性格やエピソードなどを聞いたうえで、もっともその子らしい写真を選びます。そうすることで大きな違いが出てきます。特徴をとらえるのは得意な方で、それは日常的に動物と接しているからだと思います」

癒やしは海も越えて

 描いてもらった人たちから届く喜びの声。それは国境も越えています。

 昨年、髙倉さんのオーストラリアの友人から連絡があり、「友達の亡くなった犬の絵を描いてくれない?」と頼まれました。 「亡くなったのは19歳のシェパード。すごく落ち込んでいるから、何かしたい」とのこと。写真を送ってもらい、絵を描いて送ると、ほどなくして本人からお礼の手紙が届きました。

「長く一緒に暮らしてきた家族でした。いなくなって寂しくて、悲しくて、どうしようもなかったのが、描いてもらった絵に救われました。5歳と6歳の孫も『そっくり!』と言って喜んでいます。本当にありがとう」

 手紙を読んだ髙倉さんは、ペットの絵に癒やされるのは世界共通なのだと、改めて実感したそうです。

オーストラリアの友人経由で依頼を受けた絵と、もとの写真

 また、自由度が高いことも絵の魅力です。

「今いる子と今はいない子を隣り合わせたり、幼少の頃と今を並べたりといったこともやりやすく、仲が悪い2匹をくっつけて描いてほしいというオーダーをいただいたこともありますね」

絵に込められた共感と思い

 どうしてそんなに癒やされるのか――。この疑問に対し、髙倉さんは自身の経験を含めてこう話します。

「そのものの写真に比べ、絵はフィルターがかかることで、違った目線で見られるのかもしれません。AIが描く絵と人が描く絵はやはり違っていて、とくに大きな違いは、“思い”が入ることでは。飼い主さんの愛情、気持ちに共感し、さらに私自身、動物が大好きなので、描くのが楽しくて、可愛いなぁ、と思いながら描いていますから」

「一年中、人と動物が幸せに暮らせますように」という願いを込め、365枚を目指して描いている「365 Days」シリーズのポストカード

 ペットの絵は単なる「写し」ではなく、自分の大切な存在を、その存在への思いを共有し、絵に込めてもらえるからこそ、深い癒やしが生まれるのかもしれません。思いを込めて描いてもらった絵には、まさに魂が宿るに違いないと、話を聞いて感じました。

 髙倉さんは2024年8月中旬、名古屋市の「心音books」で、初の個展を開催予定です。今回は「雑種ちゃん集まれ」をテーマに、雑種の魅力を改めて伝えます。そのモデル募集に、私も再びポッポの写真で応募し、描いてもらえることになりました。機会があれば、ぜひのぞいてみてください。

石井聖子
猫依存症の名古屋在住ライター。幼少期は犬、亀、鶏、インコと暮らし、猫歴は30年以上。現在は3ニャンズ(と夫)と同居。さらにワンコも一緒に暮らすのが野望。夢は弱い立場にいる動物と子ども、全ての人が一緒に幸せになれる方法を見つけること。

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