おてんばな子猫がやって来た! すると「ゆるキャラ」だった先住猫がお兄ちゃんに変身
あるところに家族の愛に包まれた心優しい大きなオス猫がいました。幸せにお腹を膨らませながら気ままに暮らす平穏な毎日は、1匹の小さなおてんば娘がやってきてから一変したのでした……。
幸せは金色の高級車に乗って
2020年冬、1台の乗用車のボンネットに段ボール箱が置かれていた。中に子猫がいるのに驚いた車のオーナーは、知人の保護猫活動家Tさんに助けを求めた。
同じころ、18歳の愛猫を夏に喪うしなって悲しみに暮れていたももんがさんは、猫の温かみが恋しくなり、顔の広いTさんに思い切って声をかけた。「里親募集中の猫はいませんか?」と。
ほどなく、ももんがさん宅に金色の高級車がやってきた。あの段ボール箱に捨てられた子猫を乗せて。乗り物の迫力に背筋がしゅっとしたももんがさんだったが、保護主は驚くほど気さくで、「キジ白柄で尻尾が短い猫は金運が良くなりますよ!」と言った。
パワフルに走り去る金色の車を見送りながら、ももんがさんは「キン」の付く立派な名前にしようと思った。命名「金時」である。初日こそ不安げにキャリーバッグに潜んでいた金時だったが、慎重に行動範囲を広げ、やがてへそ天で無防備にリビングで昼寝をするようになった。同時に玄関のチャイムが鳴ると逃げ、動物病院では診察台に貼り付いて固まる小心さも発揮する。
1年が経つころには子どもたちを相手に大いに遊ぶ活発な成猫に育ち、勢いあまって壁を走る写真がSNSで話題になったこともあった。しかし、正月太りをきっかけに急激に体重が増えていき一時8kg台に達する。もはや壁を走る身軽さも活発さもなく、ダイエットフードを食べてゴロゴロ寝ているゆるキャラのイメージが家族の中で定着しつつあった。そんな2023年9月、1匹の子猫が金時の前に現れた。
おてんば娘に圧倒されて
話は猛暑の8月中旬に遡さかのぼる。ある川の土手で生後間もない6匹の子猫が段ボール箱に閉じ込められて捨てられていた。保護された6匹はボランティアに託された。子猫たちは衰弱していてすでに1匹は手遅れだった。残る5匹は献身的なお世話の甲斐あって命をつないだ。その1匹が再びTさんを介してももんがさんのもとにやってきたのだった。
「子猫は動物病院の診察も兼ねてのお迎えになりました。対面した時、あまりに小さくて少しとまどってしまいました」
初めての注射に目を見開いて固まった金時とは対照的に、掌てのひらサイズの子猫は採血の際とてつもない大声で怒った。
「この三毛ちゃんがきょうだいの中で一番の〝はちきん〟ちゃんです」とボランティアの女性は優しい声で言った。「はちきん」とは困った程に活発な女性を指す土佐弁である。ももんがさんは金時の妹分にして、2番目の猫ということで「ひいふうみい」から「ふう」と名付けた。そんな新入りに金時は初対面した。
「金時は初めて見る小さな生き物が怖くて近寄ることもできませんでした。〝だるまさんが転んだ〟のように何度も立ち止まりながら一度は1mぐらいまで近づいたのですが、驚いたふうが怒って金時は逃げ出してしまいました」
もはや新入りと目を合わせることすらできず、恨めしそうにももんがさんを見つめる金時。巨体と福々しい顔を物陰に隠しきれずにはみ出させながら、チラチラと子猫を観察するばかりだった。
金時、成長する!?
ふうがリビングに慣れてきたころ、意を決した金時はふうに対たい峙じした。ふうは陽気なよちよち歩きを止め、部屋には緊張感が走る。割って入ろうと身構えたももんがさんだったが、一歩も引かぬ先住猫の気迫にふうが怯んだ。それから2匹の関係は急速に変わっていったのだった。
やんちゃが過ぎてふうが叱られると、「うにゃうにゃ」と言って家族と一緒に叱る。カーテンを登ろうとすると慌てて母猫のように首を咬んで下ろす。金時は息をつく暇もないほど必死に妹分の面倒をみていた。家族の評価は「ゆるキャラ」から頑張り屋のお兄ちゃんに変わっていった。
「ふうのお世話を通じて社会性を身につけていく様子を見ることができました。猫も人と同じく他者がいてこそ成長できる部分があると実感しました」と、ももんがさん。
しかし、金時のお世話疲れの色は隠しきれず、別室に移された。すっかりやつれて……と思いきや不思議と体重は減らなかった。子守りから解放された金時はみるみる快復。その後は肩の力が抜けたように、ふうを自分から遊びに誘ったり、疲れたらマイペースに休んだりするようになった。
ダイエット食を横取りされたり、お気に入りのぬいぐるみを取られて残念そうな顔をしたりと、後輩に押され気味なのは相変わらずだ。それでも空気を読まないふうの積極性と金時の寛容さが噛み合い、程よい距離感を保てるようになったらしい。そんな変化を喜びながら、 「2匹とも捨て猫で縁あって私のところに来てくれました。この飼い主でよかったと思ってもらえるように大切にしたいです」と心に誓うももんがさんであった。
写真・ももんが Text by Saito Minoru
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