能登半島地震から3カ月 石川県獣医師会はシェルター設けペット預かりを継続
2024年元日に能登半島地震が起こって以来、石川県獣医師会は被災ペットを、あの手この手で支援してきた。県内の動物病院は犬や猫を預かり、会員は被害の大きい能登半島北部を回って無料で相談診療に応じた。被災ペットは今、どのように過ごしているのか。会長の宮野浩一郎さん(みやの動物病院院長/金沢市)に地震発生から3カ月間の経緯を聞いた。
1月15日から動物病院で「一時預かり」
――能登半島地震が発生して間もないころ、県獣医師会はどのような経緯で支援活動を始めましたか?
多くの方が避難しましたが、避難所に動物を連れて行っても十分な居場所が確保できなかったり、車中泊をせざるを得なかったり、ペットを置いておけず損壊した家屋に留まるケースがありました。このため、被災者の健康状態が心配されたことから県が動きました。1月7日に県獣医師会へ要請があり、8日に県庁で会議を開いて、県内の動物病院で被災ペットの「一時預かり」を決め、1月15日にスタートしました。県獣医師会に加盟する会員は216人おり、一時預かりへの支援を呼び掛けると約60カ所の病院が「受け入れる」と言ってくれました。
地震発生から半月後に県獣医師会は会議を開いて対策本部を立ち上げ、役割分担を決めました。また義援金のための銀行口座を作り、1月18日には受付を開始しました。
とにかく、会員216人が誰も命を落とさなかったことにホッとしました。しかし、震度6強の被害があった穴水町や輪島市では被災した動物病院がありました。中には被害が大きく病院の再開を断念しようとしたケースもあったようですが、診察時間を短縮するなどして全て復活しています。
県獣医師会の「家畜部」の会員からは「(能登半島北端の)珠洲市まで行って子牛を助けてきた」などという声も聞きました。牛・豚・鶏が出産のピークを迎え、能登地区の畜産業者を支援するために駆け回っていました。家畜のための飲料水の確保が今も大きな課題です。
――みやの動物病院の被害はどうでしたか?
金沢市内の本院は大丈夫でしたが、穴水町にある能登診療所(分院)は半壊しました。私は1月3日まで本院で仕事をして、4日に分院を見に行きました。玄関が崩れていて、ブルーシートで保護しようと思いましたが売り切れており、金沢市内へ戻って購入し、5日の朝に再び分院に行って雨が入らないようにかぶせました。土台が60センチもずれており、トイレの便器が割れ、医療機器が倒れていました。壊れたレントゲン機器などは新しいものに買い替え、2月9日までに再び設置しました。分院で勤務する医師の珠洲市にある自宅は全壊してしまいました。
3月いっぱい「ワンにゃん号」で移動診察
――県獣医師会は1月下旬からはペット専用移動診療車「ワンにゃん号」を被災地へ派遣しています。
「ワンにゃん号」は岩手大学動物病院が東日本大震災をきっかけに導入していました。地震発生後、「こういったものがあるので使わないか」と言ってきてくれたのです。木曜日と日曜日の週2回、県獣医師会の会員が乗り込んで能登半島北部へ向かいました。
私が最初に参加したのは2月7日でした。輪島市と珠洲市は20人ほどでしたが、能登町は40人以上の方がペットを連れて「ワンにゃん号」の到着を待っていました。輪島市や珠洲市は家屋の損壊がひどいので被災者は金沢市やその南の加賀地区、石川県外など遠方へ避難していますが、能登町の方は一部損壊など家屋の被害が少ないので自宅でペットと一緒に暮らしています。
――被災地のペットの健康状態は?
診察したペットの内訳は犬が6割、猫が4割弱で、残りはウサギです。犬、猫ともほとんどは爪切りの依頼でした。下痢をしている動物も多かったです。「いつもインスリンを打っているけれど、状態はどうでしょうか」「心臓が悪くなっていませんか」など持病の悪化を心配し、「健康状態をチェックしてほしい」という依頼が相次ぎました。
地震発生後、不安な様子を見せる動物もいたのでオーナーの皆さんは、「大丈夫ですよ」と言われると安心した様子でした。「普通に生活はしていますが、動物病院にペットを連れて行くことができずに困っていました。助かりました」という声もありました。
環境の変化で便が緩くなる犬も
――みやの動物病院も被災ペットを預かっていますね。
避難所にいる被災者が犬や猫を預けに来ました。「新たな住居が決まった」とオーナーさんが引き取りに来るとペットもうれしそうにしていました。入れ代わり立ち代わり多くの犬や猫を預かりました。環境の変化からか便が緩い犬もいました。うちの病院で犬を受け入れる場合は、スタッフが朝夕2回、散歩に行きます。逃げ出さないよう、首輪のサイズがきっちり合っているかチェックしてから預かるようにしています。
今後、仮設住宅に入りたい方でも抽選に外れたり、仕事の都合で県外に出なくてはいけなかったりすると、ペットの所有権を放棄せざるを得ないオーナーさんも出てくるでしょう。それは人間にとっても動物にとっても、つらいことです。
――石川県内の動物病院の一時預かりは、今後も継続するのですか?
3月末をひと区切りとし、4月からは県獣医師会が能登地区に新設したシェルター「ワンにゃんハウス」でペットを預かっています。これまで動物病院で預かっていたペットは3月中旬から順次、シェルターへ運んでおり、そこで6月末まで無料で預かる予定です。
「ワンにゃんハウス」がどこにあるかは明かしていません。預かるのはこれまで動物病院で預かっていたペットのみで、能登半島地震とは関係のない飼い主のいない犬や猫を持ってこられても引き受けられないからです。今後、狂犬病の予防接種などにより動物病院が繁忙期を迎えることから長期の預かりが難しいため、シェルターへ移送することになったのです。日中は専門のスタッフが動物をケアしオーナーはシェルターへ会いにいくことができます。
――県獣医師会の活動はこれからも続きます。支援は十分でしょうか?
都道府県の獣医師会が独力で一時預かりを担うケースは全国的にも珍しく、全国からの注目度は高いと感じます。日本獣医師会がバックアップしてくれており、ワクチンや薬、フードなどの提供を受けています。当初は個人からのフード、猫砂などの寄付を受け付けていましたが、メーカーから提供を受けることができるようになってからは義援金による支援が中心となっています。
一方、被災地には全国からいろいろな動物愛護団体が入ってきて活動し、実態がつかめなくなっているようにも思います。県獣医師会では引き続き猫の避妊・去勢や、被災したオーナーのペットに関する相談などを受けていくので、困りごとがあったら気軽にたずねてください。
望まない繁殖を防ぐための活動が急務
――能登半島地震から3カ月が経過しました。メッセージをお願いします。
県獣医師会の会員や動物に関わる方が早く日常を取り戻してほしいと願っています。牛舎が損壊し、畜産業から一時的に撤退せざるを得ない方もいて本当に大変です。ペットのオーナーさんは、多くの方が1日も早く犬や猫と暮らせるようになってほしいと願わずにはいられません。シェルターで預かっているペットのために、引き続き、義援金などのご支援をお願いします。
今、自宅の倒壊などで住む場所を失った猫たちが、妊娠・出産して確実に増えてきています。また、飢えからか、生まれたばかりの子猫や弱った猫を食べているという悲惨なケースも聞きました。このような状況を踏まえ、県獣医師会の動物対策本部は早急に被災猫の保護と避妊・去勢手術を含めた対策を検討・実施しました。望まない繁殖を防ぐための活動が急務であり、地域のボランティアの方と連携して、すでに無料で被災地の猫(飼い猫、地域猫とも)の避妊・去勢手術を始めています。
(写真・若林朋子)
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