シニア期にさしかかったら 未病の段階で「ねこほぐし」をはじめてみよう
おしっこやうんちがいつもと違う? 若いころほど動かなくなった、なんとなく元気がないかも――。年齢を重ねシニア期に入ると、愛猫の体調不良や変化を感じる飼い主さんは多いはず。昨年刊行され好評の『ねこほぐし』に続き、この2月、『シニアねこほぐし』(いずれも産業編集センター)を執筆した獣医師の中桐由貴さんに、シニア猫の気になる症状、家で飼い主ができるマッサージなどのホームケアについてお話を伺った。
未病の段階でホームケアを
猫は、6、7歳ごろからシニア期に差し掛かり、11歳ごろからは行動や見た目にも老化現象が出るようになり、体調不良や病気にかかる可能性も高くなっていく。
「平均寿命はだいたい15歳ぐらいと犬とあまり変わりませんが、猫は20歳を超え長生きする子も多くいます。すると相対的にシニア期と言われる期間が長くなるので、日々のケアがとても重要になってきます」と中桐先生。
若いころと比べて活動的でなくなる、寝ているなどじっとしている時間が長くなるなどもシニア期の特徴だが、それを「年齢のせいかな」と思っていると、病気を見落としてしまう可能性も。
「猫はさらに病気を隠すとも言われています。気づいたときには進行してしまっていた、とならないためにも、不調に早く気づき、病気になる前の『未病』の段階での予防を目指してホームケアに挑戦してみましょう」
中桐さんは、西洋医学と鍼灸(しんきゅう)や漢方など東洋医学の両方のアプローチで治療やケアをおこなう。「臓器や病気をピンポイントで見て適切な検査や治療を進める西洋医学と、体全体を見てバランスを整え免疫力を上げていく東洋医学、双方から見ていくことで、その子の体全体のバランスをとりながら、病気や不調を改善することを目指しています」
『シニアねこほぐし』では、猫の体のツボを刺激しながらマッサージすることで、文字通り猫をほぐし、気になる症状の改善や病気を予防するホームケアのやり方を、臓器別、症状別に写真を使ってわかりやすく解説している。
「東洋医学では、『気』『血』『水』が全身をめぐっていて、それらが滞ることで不調や病気を起こすと考えられています。ツボを刺激することで『気』=エネルギーのめぐりをよくし、『血』=血流や『水』=リンパの流れや水分代謝を改善する。マッサージにはその効果が期待できます」
注意点も。まずは猫の不調が治療が必要な病気ではないかを病院で検査すること。すでに持病のある子は獣医師に相談・確認した上で取り組むようにする。
また、シニアは筋力や関節が弱っていることも多い。「いきなり強すぎる力でグイグイ押すと、傷めてしまう可能性があります。猫が嫌がってマッサージ嫌いになってしまわないように、イメージとしては、なでる、さする、こちょこちょするなど優しい力で。猫が気持ちよさそうにしてくれるのをめどに、ちょうどいい力加減を愛猫と一緒に探ってみてください」
厳密にツボを押さえられなくても、ツボがある周辺を全体的にマッサージすればOK!
マッサージをしてみよう!
『シニアねこほぐし』で解説しているマッサージをいくつか紹介しよう。
【目】目の周りが汚れる、ものにぶつかりやすい、目でものを追わなくなったなど
東洋医学では目は肝臓の働きに関係し、目の周りをマッサージすることで肝臓や神経の不調を改善する効果も。
目と目の間を人さし指でくるくると円を描く。そのまま頭頂部に向けてスライドし、おでこにあるツボ「神庭(しんてい)」を軽くプッシュ。
目頭から目尻に向かって目の上のツボ「睛明(せいめい)」、目の下「承泣(しょうきゅう)」をさする。できそうなら最初と真ん中、終わりで圧をかける。上下とも目と耳の間ぐらいまで指を動かす。
「目の周りにはリラックスのツボも多く、目と目の間は気持ちいい様子の猫が多いので、なでなでタイムにマッサージするのもオススメです」
【腎臓・膀胱】おしっこの色や回数・量が変化したなど
猫に多い腎臓疾患。また、年齢とともに膀胱(ぼうこう)の異常も出やすくなる。腎臓病になると、おしっこの色が薄くなり量が多くなるといった症状が出る。逆に色が濃く量が減る場合は、膀胱炎や膀胱結石の可能性も。「普段からおしっこの状態をよく見て、変化がないかをチェックすることが大切です」
おしっこトラブルにはまずこれ! 脚周りのツボのマッサージ。
後ろ脚の大きな肉球にあるツボ「湧泉(ゆうせん)」を押したり、もんだり。
後ろ脚の関節のあたりを触ると、ぽこっとした骨=くるぶしが。かかととくるぶしの間にあるツボ「太谿(たいけい)」のあたりをつまんだり、なでたりする。
「人間の足裏や手のひらにたくさんツボがあるように、猫も手先、脚先にはツボが集中しています。もんだり、押したりすると効果的。ただ、手先や脚先は敏感なので触られるのが苦手な子も。様子を見ながらやってみてください」
【消化器】食欲が落ちてきた、軟便気味
おなかの中心、骨が触れるあたり(中脘<ちゅうかん>)から尻尾の方へさする。そのまま腹部に手を置いて、手のひらで温めながらゆっくりと円を描く。
急に寒くなったり、かと思うと暖かくなったりと、気候や気温が不安定になると、胃腸の働きをつかさどる自律神経が乱れがちになる。
「自律神経は体のあらゆる臓器に関わりがあり、睡眠や精神状態にも影響があります。背骨周りには自律神経に関与するツボが集中しているので、胃腸をはじめとする体調維持のために、優しくマッサージしてあげるといいでしょう」
背骨に沿って優しくさする、くるくると手を動かす、皮膚を揺らしたり、つまんだりするのもオススメだ。
関節周りの筋肉を感じて、ゆっくりと皮膚を揺らす。
皮膚が伸びる場所を指3〜5本を使い、つまんで伸ばす。場所によってはやさしくねじっても。できるだけ根本からつまむ。
「シニア猫は体や皮膚が硬くなっていることがあります。そういう場合は無理せず、少しずつ優しくほぐしていく。血流やリンパが流れ始めると、皮膚がポカポカしてきて柔らかくなるのがわかります」
ほかにも、マッサージ中に鼻水や涙が出る、せきやゲップ、オナラが出る、マッサージ後にはおしっこやうんちが出たり、水をよく飲んだり、ぐっすり眠れたりといった変化が見られることも。これはマッサージによるデトックス効果で現れる「好転反応」で、マッサージが効いている証拠だ。
短時間でも継続することが効果的
初心者は、短時間でもいいので継続することが効果を上げるコツ。「慣れてくると『気持ちがいい』と猫自身が理解し、『マッサージして』と体をすり寄せてくる子もいるんですよ」と中桐さん。また、日々続けることで変化に気づきやすくなるというメリットも。「それまでは平気だったのに急に嫌がったり、皮膚にイボなどのできものを見つけたりと、愛猫の変化にいち早く気がつくことができるはずです」
家以外、家族以外が苦手で、動物病院に連れて行くのもひと苦労という猫は多い。中桐さんのサロンは犬も猫も施術するが、圧倒的に猫が少ないという。自分のおうちで飼い主ができるホームケアは、猫にとってもストレスがかからないだろう。
なによりかわいいわが子との最高のスキンシップタイムになる。「互いに呼吸を合わせ、肌が触れ合い、リラックスすることで、『幸せホルモン』と言われるオキシトシンが猫にも飼い主さんにも分泌されます。猫の体だけでなくご家族の心もほぐされますね」と中桐さんはニッコリ。
書籍では、マッサージの前におこなうといいウオーミングアップや、疲労回復や免疫力アップに効果が期待できるリンパの流し方、マッサージに活用できるグッズなども紹介している。若い猫にももちろん、体の部位やツボの種類と場所は犬もほぼ同じなので、犬ほぐしの参考にもなる。
愛するわが子にもっと幸せに、いつまでも元気で長生きしてほしい――。そんな家族の思いに寄り添う1冊だ。
- シニアねこほぐし 猫を整えるやさしいマッサージ
- 著者:中桐由貴
発行:産業編集センター
単行本:92ページ
本体価格:1,870円(税込み)
「スペシャルにゃんクス」として登場するモデルの猫たちは、中桐さんのサロンの常連さんたち。リラックスしてマッサージされている様子はとびきりかわいく、見ているだけで癒やされる!
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- 中桐 由貴
- 獣医師、鍼灸師。東京・表参道にある「アニマルケアサロンFLORA」医院長として、西洋医学と東洋医学の知見から診察、治療をおこなう。診察室やトリミングサロンでは看板猫のノルウェージャン・フォレストキャットの「ニノ」とメインクーンの「シャル」が優雅に迎えてくれる。著書に『ねこほぐし』『シニアねこほぐし』(産業編集センター)がある。
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