「彼らを救っているようで、その実いつも救われている」 元保護犬・福と家族の物語

福の子犬時代。「びびりなのは変わりませんが、福が少しずつ“犬らしく”なっていくのが僕たち家族の大きな楽しみになりました」と小林孝延さん(小林孝延さん提供)

 2023年10月、sippoで「とーさんの保護犬日記」を連載している小林孝延さんが、自身初となる著書『妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした』(風鳴舎)を出版しました。完成した著書への反響は大きく、発売を待たずして重版を続け、発売後も品切れが相次いでいます。

 実はこの書籍、sippoに前編・後編で掲載した記事がもとになっています。妻である薫さんの病気のことと、元保護犬「福」のこと、というふたつの軸で書き上げられた本書を通して伝えたい思いを、改めて小林さんに聞きました。

福と家族のかけがえのない時間

 福が小林家にやってきたのは、2016年末のこと。当時、余命半年と宣告された薫さんは末期がんの闘病中でした。家族みんながふさぎ込み、小林家は重苦しい空気で包まれていた中で、相談を持ちかけたモデルでありデザイナーの雅姫さんの、「犬を家族に迎えてみたら?」という一言がきっかけとなり、小林さんは保護犬を迎えることを決めます。

 そうして家族の一員となった福の成長をみんなで見守り、福と寄り添いながら暮らすうち、小林家には笑顔が戻りました。『妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした』は、福を迎えてからの約3年の日々をまとめた小林家の物語です。

小林さんの著書『妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした』の表紙(風鳴舎提供)

 小林さんがこの書籍を書くことにしたのは、薫さんと同じ病気で手術を受け、病院のベッドの上でsippoの記事を読んだ編集者からの依頼がきっかけでした。今から4年前、2019年秋のことです。

 編集者の熱心さに心が動かされ、引き受けることを決めた小林さん。しかし思い出すとつらくもあり、なかなか原稿を進められずにいました。「実際に書き進めるまでは、夏休みの宿題を抱えたままの子どものような気持ちで、何をしていても頭の片隅に本のことがいつもある状態でした」と当時を振り返る小林さんですが、年が明け、半年が経った頃、一転して本格的に原稿を書き始めます。背中を押したのは、小林さんのインスタグラムに届いた、1通のダイレクトメッセージでした。

「その方は末期がんで、緩和ケアへ移行する直前ということでした。やりとりをする中で、福と家族のことを本にするためにこれから原稿を書くのだということを伝えたら、『読めないことがすごく残念です』とおっしゃって。福を迎えてから僕たちが過ごした約3年がかけがえのない時間であるように、僕が原稿を先延ばしにしているこの時間も、だれかにとっては先延ばしできない、かけがえのない時間なのだということを改めて感じたのです」

保護犬や保護猫の存在を知ってもらえたら

 著書の中で小林さんは、たくさんいた保護犬の中から福に決めたときの気持ちについて、“正直に言えば、かわいそうな、もらい手のみつからない子犬を引き取る自分になりたかった、というのもあるかもしれない”と心の内をそのままに表現するなど、家族で過ごした時間についてありのままにつづっています。

「もとよりさらけ出す芸風というのもありますが(笑)、妻の闘病中、泣きながら言い争うようなことも実際にはあって。決して美しいことばかりではなかったので、そんな自分たちを美化したり、自分を飾ったり、かっこつけたりして書くのは嫌だったんです」

薫さんと福。「我が家に来て数か月後、福はおはようからおやすみまで、いつでも妻のそばに寄り添ってくれるようになりました」(小林孝延さん提供)

 リアルな表現は共感へとつながり、小林さんのもとには、本を読んだ人たちから連日たくさんのメッセージや感想が届いているといいます。

「想像を超える反響に、本当に驚いています。がんや終末医療など人間の死にまつわる軸と、保護犬やペットにまつわる軸から派生して、僕を知らなかった人たちも手に取ってくれている。この本が、保護犬や保護猫を受け入れる人が増えるきっかけになったらいいなと思います」

 小林さんが著書で伝えたかったことのひとつは、“保護犬にしろ保護猫にしろ、僕らは彼らを救っているようで、その実いつも救われている”ということ。

「僕たち家族は、福を迎えたことで、奇跡みたいな時間を過ごすことができました。保護犬や保護猫のために僕ができることは限られていますが、一番大事なのは、家族を探している犬や猫がたくさんいると知ってもらうことだと思っています。僕の本が、保護犬・保護猫について知るきっかけになり、僕たちにとっての福のように、だれかの一匹につながることを願っています」

福への愛情が、家族に対しても広がっていく

 福との出会いからもうすぐ8年。10月1日に福は、7歳の誕生日を迎えました。

「最近の福は、よりやわらかい表情になりました。我が家に来たばかりの頃は、なでられたりさわられたりするのが大嫌いでしたが、いまはなででほしくてそばにいる感じです。散歩もね、連載でもさんざん書いていますが、本当に最初は嫌がって。散歩に行くって気づくと尻尾を巻いて逃げちゃうし、ハーネスを見ると寝たふりをするし(笑)。でも最近は自分からやってくるんです。散歩を楽しんでいる福を見ると、僕も幸せな気持ちになります」

小林さんの娘・つむぎさんと並んでごはんを食べているかのような福。ふたりは姉妹のように育った(小林孝延さん提供)

 福を家族に迎えて、小林さん自身が一番驚いたのは、「自分にも“母性”があったのか」と実感したことでした。

「犬自身が愛情の塊ですけど、福のおかげで、自分の中の“母性”ともいうべき愛情に気づくことができました。散歩にしても、自分でもよくこんなに続いているなと思います。雨が降っても雪が降っても、朝と晩に必ず行っていますし、体調が悪くても福のためなら動けます。もうリミッターがはずれたみたいに、愛情があふれてくる(笑)。そしてそのおかげで、家族に対しても同じように愛情を表現できるようになったと思います」

 福と暮らすようになって後悔したのは「もっと早く犬を迎えればよかった」ということ。小林さん夫妻はともに、実家で犬を飼っていたこともあり、いつか飼いたいという話をしていました。

「もしもっと早く犬を迎えていれば、犬も含めて家族みんなで一緒にいろんなことを楽しんだり、いろんなところへ行ったりできたのに……という悔しさはありますね。でも一方で、僕たちにとっては、福と出会ったあのタイミングがベストだったんだとも思います」

「いま」を大事にすることが、いつか宝物になる

「自分が闘病中、もしくは身近な人が病気で苦労しているという方からもメッセージをたくさんいただています。そうした方々に、本書を通して伝えたいのは、『いま』を大事に過ごしてくださいということ」

 大切なのは「いま」。小林さんは、このことを福との暮らしで実感してきました。

「人間は先のことを心配したり、済んだことを悔やんだりして人生をややこしくしてしまいます。でも犬をはじめ、動物には『いま』しかありません。『いま』と向き合い、大切に過ごした時間は、いつかお別れのときが来たときに自分を支えてくれる何かになることを福から教わりました。僕たち家族にとっては、福を迎えてみんなで過ごした『いま』が、宝物になっています」

 著書からは、全編を通して犬と暮らす素晴らしさがひしひしと伝わります。それらの中で、福がいてくれて本当に良かったと小林さんが感じるのは、薫さんが旅立った後だといいます。

「葬儀を終えて気が抜けると、妻がいなくなってしまったという現実が一気に押し寄せました。呆然とした顔で一日中家にこもり、妻が好きだった映画をぼんやりと観て過ごすような状態で、子どもたちも声をかけられないほどだったと言います。でも数日後、トレーナーに預けていた福が帰ってくると、どんなに悲しくても、福にごはんを食べさせ、朝晩は散歩に連れて行かなくちゃいけない。あのとき福は、僕が前を向いて進むための杖のような存在になってくれました」

今年の夏は福と一緒に川遊びやキャンプをたくさん楽しんだ(小林孝延さん提供)

 昔から、愛犬と一緒にアウトドアを楽しむのが夢だったという小林さん。迎えた当初、外が怖い福は散歩もままならず、アウトドアどころではありませんでした。それでも少しずつ変化を見せ、最近では福を連れて毎週のようにキャンプへ出かけているといいます。太陽のように小林家を照らし続けた福は、いまなお輝き続け、小林さんの素晴らしき相棒となっています。

『妻が余命宣告されたとき、僕は保護犬を飼うことにした』
著者:小林孝延
発行:風鳴舎
本体価格:税込み1,870円
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