旅館の中庭にある保護猫シェルター「猫庭」 きっかけは1匹の猫との出会いだった
保護猫シェルター「猫庭」(山口市)は、旅館の中庭にあるちょっとめずらしい施設だ。なぜ旅館が、保護活動に取り組むことになったのか。きっかけは、猫庭がある「てしま旅館」を営む手島さん一家と、ある1匹の猫の出会いだった。
冬の日に出会った子猫
山口宇部空港から車で20分ほどの場所に、てしま旅館はある。昭和40年代に開業した旅館で、現在のオーナー・手島英樹さんは三代目だ。猫庭は4つのコンテナを改装して作った施設で、壁面はあちこちがガラス面になっているため、旅館の中からもひなたぼっこしてくつろぐ猫たちの様子を見ることが出来る。猫庭の館長を務めるのは、次女で高校1年生の姫萌さんだ。1匹1匹の性格や個性をよく知っていて、猫庭を訪れた人に説明したり、SNSなどでも発信したりしている。
猫庭誕生のきっかけは、10年ほど前にさかのぼる。姫萌さんが小学1年生の冬、姉や兄と一緒に、自宅近くで子猫を見つけた。人なつこくて、かわいらしい。おなかをすかせている様子だし、どんなに寒いだろうかと心配になった。姫萌さんたちは英樹さんに、飼いたいと頼んだ。英樹さんはすぐには首を縦に振らなかったが、結局子猫は手島家に迎えられ「メノ」と名付けられた。
実は英樹さんは小さいころから、食べ物を扱っている家だから動物がいては衛生的にいけないと言われて育ち、猫はむしろ嫌いだった。ところが、メノが家族の一員となると、すっかり猫に魅了される。「こちらの気持ちをわかってくれて、つらいときに寄り添ってくれる」と言う。
メノを迎えてしばらくして、家族は地元のローカルテレビで、山口県の犬や猫の殺処分数のニュースを目にした。犬や猫が殺処分されているなんて……。自分たちに何か出来ないだろうか。家族は相談を続け、保護猫のための施設をつくることを決める。建設に必要な資金は、クラウドファンディングで募ることにした。
「猫庭」が誕生
2016年にクラウドファンディングを行うと、目標を上回る400万円あまりの支援が集まった。手島さんたちはコンテナ2つを購入し、猫が暮らしやすいように断熱材を入れたり、空調設備や内装を整えたりした。こうして「猫庭」が誕生した。
スタートしてみると、保護依頼が相次ぎ、受け入れを待つ猫があまりにも増えてしまった。そのため2017年に再びクラウドファンディングで支援を募り、コンテナを2つ追加して、すでにあるコンテナ2つの上に重ねて2段にし、猫たちのスペースを広げた。
現在、猫庭では約40匹が暮らしている。猫たちはコンテナの1段目も2段目も自由に行き来できるほか、最近ではフェンスでしっかりと覆った庭も完成し、思う存分外の空気を楽しむことが出来るようになった。
心がけているのは、無理に人になれさせて譲渡先をみつけようというのではなく、1匹1匹の猫がその子らしく生きていていける環境をつくることだという。猫庭にやってくる猫たちはさまざまな過去を背負っていて、人になれていない猫もいる。姫萌さんは無理に触ろうとせず、その代わりに毎日名前を呼び、「おはよう」などと声をかけ続ける。これまでに4年かけて触れるようになった猫もいたという。「人間に嫌なことをされた経験があったのだと思う。それでももう一度心を開いてくれたことがうれしくて」と話す。
幸せそうな姿がうれしくて
忘れられない出来事がある。亡き愛猫に似た猫がいたら迎えたいと猫庭を訪れた人がいた。なかなか見つからず帰ろうとしたそのとき、それまで姿を見せなかった猫がひょっこりと現れた。すると「亡き愛猫にそっくり」だったそうだ。結局その猫は、家族に迎えられたという。帰る間際、猫が自分から出てこなければ、生まれなかった出会いだった。
保護活動をしていて、うれしいのはどんな時なのだろうか。送り出した猫が「新しい家族の元で幸せそうに暮らしている写真を見る時」だと姫萌さんは言う。送り出した猫たちが幸せになったかどうかは、いつも気がかりだ。だから、新しい家族の元で、幸せそうなのを見たときに、やっと館長としての役割が果たせたとほっとするのだという。
目標は「猫庭がなくなること」だ。「猫庭には、行き場のない猫が集まっています。そんな子たちをなくしたいと思っています」
(磯崎こず恵)
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