「シニア犬だから大丈夫という油断が脱走につながった」(山賀さん提供)
「シニア犬だから大丈夫という油断が脱走につながった」(山賀さん提供)

キャンプ場で脱走したシニア犬のベル 計画的に捜索し5日目に保護できた

「大切なペットが脱走した! もう戻ってこないのでは……」そう感じている方に知ってほしい、逃げた犬や猫の帰還ストーリーと経験者に聞いた保護のアドバイスです。

ドッグランサイトから脱走

愛犬が脱走したキャンプ場のドッグランサイト。当時はあたりが暗くなってきた時間帯で、他のキャンパーも脱走に気付かなかった(山賀さん提供)

【逃げたペットと状況】
名前:ベル
性別:オス
犬種:シェルティとパピヨンのMIX犬
年齢:当時10歳
いなくなった場所:山間部のキャンプ場
理由:ドッグランサイトの 扉を開けて出てしまった
状況:季節は秋で夕方6時、辺りは暗くなっていた
保護までの日数:5日間

 2020年9月、飼い主の山賀さんはパートナーとともに愛犬のベル(当時10歳)、ロッシ(当時生後9か月)を連れてキャンプ場に出かけた。その場所はのどかな山間部で、グループごとに割り当てられた囲いの中で犬をノーリードにできる、ドックランサイトでキャンプをしていた。

脱走前のベルの様子。この後に大事件を起こすことはまだ知る由もない(山賀さん提供)

 午後6時、夕食の支度をするために、山賀さんとパートナーは愛犬たちをドッグランサイトに放したまま、たき火の準備を始めた。作業をしつつ、思い思いに過ごしている2匹の姿を確認してから10分後、山賀さんは愛犬のうちの1匹、ベルがドッグランサイト内から消えていることに気がついた。

「ふと見た時に『あれ?いなくない?』と気づいて。ドッグランサイトから出入りする柵を調べたら、押すと少しだけ開く状態だったんです。それで、『まさか、脱走!?』 と。ただ、その時は正直、すぐに見つかるだろうと甘く見ていました」

チラシ配りで聞き込み

ペットの飼い主同士がつながるアプリ「ドコノコ」。アプリ内のフォーマットに情報を書き込んで写真をはめ込むだけで迷子チラシが作れる(山賀さん提供)

【いなくなった時にしたこと】
1日目:キャンプ場の周りの捜索、キャンプ場の管理者やお客さんへの協力依頼、アプリで迷子犬のチラシづくり、警察署・愛護センター・保健所・清掃センターへ連絡
2日目:チラシを配りながらの聞き込み、人の集まる場所にチラシを貼ってもらう、山間部の捜索
3日目:捜索範囲の拡大、ベルの行動をシミュレーションし捜索範囲を見直す
4、5日目:前日に目星をつけた範囲を重点的に捜索

 ベルの脱走を知ってショックを受けているパートナーと対照的に、当初は「老犬だしそれほど遠くへは行っていないだろう」と楽観していたという山賀さん。パートナーにロッシを託してひとりでベルの捜索に出かけたという。

 あてもなくキャンプ場周辺を探してみたものの、その日は結局見つからず、あたりは真っ暗に。山賀さんはキャンプサイトに戻って夜の間に迷子犬のチラシを作り、犬が逃げた際に連絡すべき各所への電話を済ませた。

 翌日、2人は近隣の中心街にあるコンビニでチラシをプリントアウトし、チラシを配りながら聞き込みを行った。捜索には、キャンプ場のスタッフも協力してくれた 。しかし一向に手がかりは見つからない。ベルは、2泊3日で訪れたキャンプの2日目に脱走したため、山賀さんたちは捜索のために滞在を延期することにした。

Googleマップの航空写真で地形をふかんし、ベルの行動をシミュレーションした(山賀さん提供)

 捜索3日目、山賀さんたちは作戦を練り直すため、いま一度ベルの普段の行動を思い出し、実際の道を歩きながら、ベルならどんな道を行くかをシミュレーションしてみた。

 山賀さんたちの推理はこうだった。「いつものベルならキャンプ場を出てすぐ向かいの茂みを目当てに道路を渡り、道路脇の茂みの匂いを嗅ぎながら、道をまっすぐに下っていく。そのまま道なりに行った先の別荘地の方向では……? そこは真っ暗だからという理由で、それまで捜索していなかった道だった」

5日目に保護

ベルを発見した時の様子。奥に写っている山賀さんの車のすぐそばで保護された(山賀さん提供)

 山賀さんたちの推理は結果的に正しかった。ベルの脱走から4日目、チラシに記載した連絡先に目撃情報が入り、2人は慌てて現地へ向かう。山賀さんたちが目撃情報のあった場所に向かっている途中、先に到着していたキャンプ場のスタッフがベルを発見し、確保。場所はまさに、山賀さんたちが前日に予測してチラシを配った、別荘地エリアに向かう道路沿いだった。

「私たちに再会した時のベルは、喜ぶでもはしゃぐでもなく、『あ、どうも』といたって平常心(笑)。4日間もいなくなっていたのに汚れても痩せてもいなくて、まるで『ちょっと探検して帰ってきただけ』という様子でした」

 くしくも、この日は山賀さんとパートナーがキャンプ場に滞在できる最後の日。帰宅時間までに見つからなかったら、2人は一度東京に戻り、再びキャンプ場に足を運ぶつもりだったという。

「パートナーとは『今日見つかったら奇跡だね』なんて話していたんですけど、本当に見つかるとは……。絶対に見つかると信じていた反面、あんなに手がかりがなかったのに、最終日に目撃情報が入ってあっさり見つかるなんてうまく行き過ぎじゃない?という気持ちもありましたね(笑)」

闇雲に行動しない

別荘地エリアでの捜索は、別荘の管理事務所に立ち入り許可をとり、雨の中、建物の軒下を一軒一軒懐中電灯で照らして回った。写真奥にはカモシカが写っている(山賀さん提供)

【愛犬探しの教訓】
・闇雲に行動しない
・愛犬が取るべき行動を考えながら、計画的にひとつひとつ探す
・協力者がいれば、役割分担して行動する

 5日間の捜索を経て無事に愛犬を保護した山賀さんに、捜索での反省点や教訓を聞いてみた。

「今思えばですが、ベルが脱走したと気づいた最初の5分、10分が重要でした。すぐに見つかるだろうと1人で捜索したのは甘かったし、ただ闇雲に探すのではなく、ベルが行ったかもしれない道を計画的にひとつひとつつぶすべきでした。

 2日目以降はキャンプ場のスタッフの方に探し終えた場所を共有してもらっていましたが、時間がたつほどベルが遠くに行ってしまう可能性があったので、それぞれが『どのエリアをどこまで探す』と役割分担を決めていたら、もっと効率よく探せたかもしれません。人目につく場所はチラシを配って人に頼る、人目につかなそうな場所は自分たちの足で探す、とエリアを分類して捜索したのはよかったと思います」

「捜索エリアを広げる際に、キャンプ場の管理人さんが息子さんの自転車を貸してくれました」(山賀さん提供)

 また、山賀さんはシニア犬への油断についても言及する。

「当時は私もパートナーも、まだ生後9カ月でやんちゃ盛りのロッシに意識が向いていて、ベルのようなシニア犬が脱走して遠くに行くなんて考えもしませんでした。でも今回のことがあってから気が付いたのは、シニア犬の脱走は実はすごく多いということ。なかには悲しい形で発見されるケースも多く見てきました。シニアは逃げないという楽観視は危険なんだと思い知らされましたね」

捜索の2つのポイント

脱走事件以前にも別の場所に宿泊するなど、遠出には慣れていたベル(山賀さん提供)

【捜索のポイント】
(1)「どんな探し方が効率的か」「誰に聞けば手がかりがありそうか」など、場所や状況にあった捜索方法を検討する。
(2)食事や睡眠をしっかりとって規則正しく活動し、捜索者の体調やメンタルを整える。

 最後に山賀さんは、ペット捜索時に参考にしたい貴重なアドバイスをシェアしてくれた。

「ポイントは2つ。1つ目は『その場所・状況に合った探し方をすること』です。SNSを使っていると、迷子になったペットを探す投稿をよく見かけますが、SNSでの拡散は人目が多い都会でこそ有効です。

今回は旅先で、民家の少ない地域。暮らしているのは基本的に年配の方だったので、SNSよりもチラシ配りと聞き込みが有効だと考えました。結果的に目撃情報が保護につながったので、その行動は間違ってなかったなと思います。その後、チラシを貼らせてもらったお店や事務所には、保護の報告とお礼、チラシの回収に行きました」

 2つ目のアドバイスは、ベルの行動をシミュレーションして居場所を突き止めた山賀さんたちならではだ。

「ペット探しは体と頭を使います。体調や精神状態は捜索のクオリティーに直結します。私たちはキャンプ場の方が食事を差し入れしてくれたこともあり、3食きちんと食べ、外が明るいうちに脚を使ってベルを探し、夜は作戦会議をしてきちんと睡眠をとることができました。大切なペットを早く見つけたいあまり、夜も眠らずに探し回る方は多いと思いますが、まずは自分たちのコンディションを整えることが大事なんじゃないかなと思います」

11月1日に、13歳の誕生日を迎えたベル(山賀さん提供)

 キャンプ場での大冒険から丸2年。現在のベルの様子を山賀さんに伺うと……。

「相変わらずマイペースに過ごしています。キャンプ場での出来事がトラウマになった様子はみじんもありませんね(笑)ベルはいろいろな事情があってうちの子になった子なので、このままの性格で元気に過ごしてほしいです」

 愛犬を捜索中の方はもちろん、犬と暮らす方はぜひ、山賀さんの経験を参考にしてみてほしい。

原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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この連載について
迷子のペットが帰ってくるまで
「大切なペットが脱走した! もう戻ってこないのでは……」そう感じている方に知ってほしい、逃げた犬や猫の帰還ストーリーと経験者に聞いたお話です。
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