動物が心地よく暮らせるよう、どれだけ尽くせるか 映画「ハウ」出演の渡辺真起子さん

インタビューにこたえる渡辺真起子さん

 人と犬との絆を描いた映画「ハウ」が8月19日、公開されました。出演者インタビューの3回目は、渡辺真起子さんです。渡辺さんは、田中圭さん演じる主人公の赤西民夫に、保護犬「ハウ」を引き合わせる鍋島麗子役を演じました。プライベートでは現在2匹の猫と暮らし、これまでに4匹の猫をみとってきたという渡辺さんに、動物への思いと本作品のみどころを聞きました。

野良のお母さん猫を引き取った

――現在、保護猫だった子を飼っているとか。

 以前はアメリカンショートヘア2匹とノルウェージャンフォレストキャット2匹を飼っていました。4匹を次々とみとってきたのですが、最後に亡くなった子が24歳まで生きたんです。ほぼ人生の半分をともにしてきたわけで、その子が亡くなった時の喪失感がものすごかった。だからもう飼えないと思っていました。それに自分の寿命を考えると、次に飼う子がもし24年も生きたら、みとれる自信もありませんでした。

 でもふと、そういうことならおとなの保護猫を引き取ったら、お互いの健康寿命もちょうどいいかもしれないと考えたんです。それが2年ほど前のことです。そうして出会いを探していたら、知人のガレージで2回出産した野良がいて、子どもたちは良い家庭に引き取られ、彼女もその後、保護されました。お母さんだけ残ってしまっていたところに引き合わせてもらい、すぐに決断して、その子を引き受けることにしました。

――どんな性格の子ですか?

 長い間、外で自由に暮らしてきた賢い子で、家の中で隠れちゃうんです。1年半くらい姿をほとんど見ない、家庭内別居のような状態になってしまいました。姿が見えなくても家の中で幸せだったらいいのですが、それでは健康状態のチェックができません。困ったなと思っていたら去年の夏、今度は別の友人がたまたま子猫を保護しました。すぐに会いに行き、その子猫を引き取りました。

 その子が来たことで、先住猫も隠れずおもてに出てくるようになりました。おそらく、子猫が来たことで、人と猫との付き合い方がわかったんでしょうね。今では抱っこもできるようになり、猛烈に甘えてきます。家庭内別居の1年半はいったいなんだったんだろう……という感じです。ちなみに名前は、先に来たお母さん猫が「ムーチン」、あとに来た子猫が「ファンタン」。中国語で「おかあさま」と「おにぎり」という意味です。特に意味はないのですが、うちの子には皆、中国語で名前をつけています。

――1人と2匹、どのような関係ですか?

 2匹はライバルですね。2匹ともメスで、お互いに自立しています。オス同士だと割と群れるのですが、メス同士だとあまりそうならない。おもしろいですよね。それで、ライバル関係の2匹が奪い合っているのは私なのか、場所なのかはわかりません。ファンタンはベッドを自分の場所だと思っているらしくて、ムーチンがやってくると「ウーッ」とうなって追い返す。そういうことを日々やっています。でも仲は悪くないようで、よく同じスペースにいます。

 私と2匹の関係について深く考えることはないのですが、私からすると「預かった命」。その猫の最期の瞬間まで一生懸命に尽くして幸せにする、ということがすべてです。そうは言っても、やっぱりぬくもりがあって、感情表現ゆたかに呼応してくれる、間違いなくかけがえのない存在です。

死を乗り越えようとしなくていい

――映画「ハウ」でも、ペットロスが一つの大きなテーマになっています。24歳の子を亡くしたとき、どう向き合ったのでしょう。

 私はペットの死を、無理に乗り越えようとしなくてもいいと思います。たとえば、私は両親を既にみとりましたが、その時に父親や母親が亡くなったことを無理に乗り越える必要はない気がしました。それと同じように、特別な感情を向けた相手が亡くなった今は、その別れと一緒に生きていくだけのように思っています。そうして喪失の悲しみは、一緒にいたのだという思い出に変わっていくと思います。

 私は24年生きた子が亡くなった2年後に、ムーチンを迎えました。もしムーチンに対して決断できていなければ、もう長く生きる動物は飼えなかったと思います。命に向き合うということには、たいへんな責任をともないます。それでも飼う決断ができたのは、24年生きてくれた猫がどれだけ私のことを支えてくれ、そのことで私も頑張れたのではないか――と思えたのが大きかったような気がします。

 あの子はおばあちゃんになってから、自分は動かないのに、部屋のなかでずっと私のことを目で追っていました。そして、先に亡くなった3匹も、あと30分くらいで息を引き取ろうという時に最後と思って声をかけると、皆かすかに答えてくれました。私は、この子たちのなかに確実にいたんだなと思いました。死による喪失を乗り越えるためというより、再び、お互いが幸せに生きていける関係を築けたらいいなと思いました。

――今作で演じた鍋島麗子は、田中圭さん演じる赤西民夫とハウとを引き合わせる役目を担います。ハウを演じたベックの印象は?

 ドッグトレーナーの宮忠臣さんとの息の合い方、愛情関係、絆を見ていると、リーダーがはっきりしていて、この子は犬だなあと思いました。人とそういう関係を築くのが、なんか犬なんですよね。ベックは大型犬で意思表示も動作が大きいから、なおさらそう感じました。猫とは違う、犬らしいかわいさにあふれた子でした。

映画『ハウ』より(C)2022「ハウ」製作委員会

――麗子は保護シェルターを運営していました。

 自分が猫との出会いを求めていた頃に、保護シェルターを見学しに行ったことがあります。捨てられたり虐待されたりした犬猫などを保護し、時にトラウマを抱えた子も世話をし、新たな飼い主への譲渡につなげていくという活動は、本当に大変なことです。心から尊敬します。また、そういう活動をしてくださる方々がいてくれるおかげで、私も新たな出会いに恵まれたわけで、感謝しています。

 私自身は保護活動をした経験はなく、シーツやタオルなどの寄付をしているくらいです。でも年を取ったら、ミルクボランティアをやりたいと思っています。春や秋など子猫がたくさん生まれるシーズンに、親とはぐれて保護された乳飲み子たちを救うため、数時間おきに授乳をする活動です。その後、子猫たちは保護施設に戻り、迎えてくれる家族との出会いを待ちます。映画「ハウ」では劇中、保護団体の様々な活動がさりげなく紹介されていて、そういう活動があるのだと知ってもらう意味でも、いい作品だなと思っています。

動物にどれだけ尽くせるか

――基本的に動物が大好きなんですね。

 小学生の時は飼育委員長を務めていました。ウサギ、ニワトリ、ジュウシマツと学校にいる生き物はすべて面倒を見ていました。ミルクをあげたり、離乳食をあげたりするのは得意ですよ。当時は、様々な動物の飼育方法が書かれている専門書を愛読書にしていました。母から、獣医師になるようすすめられたくらいです。一瞬、頑張ってみようかとその気になりましたが、すでに俳優になると決めていましたので、なりませんでしたけど。

――人と動物の関係について、思うところはありますか。

 本来は、かつてはそうだったように、まちなかに野良猫がいて、勝手に共存しているような関係が良かったのでしょうね。下町に住んでいるので、昔は本当にたくさんの野良猫を見かけました。また、ドッグランに行って犬が思いっきり走っている姿を見ると、「普段からそれくらい走り回りたいよね」と切なくなったりもします。動物は、動物がいたいようにいられたらと思うわけですが、現代社会では、そんなことは不可能です。そうであれば、自分たちがかかわった動物にどれだけ尽くせるかということじゃないでしょうか。

――劇中のハウの姿を見ていると、まさにそのことを考えさせられます。

 ハウは、民夫のもとに戻ろうとする道中で、いろいろなコミュニティーに身を預けます。ハウがいることで、なかなか前に進まなかった何かが動きだしたり、ちょっと欠けていた何かが埋め合わされたりします。そしてハウが立ち去っても、ハウがそこにいたということを出会った皆が前向きにとらえます。その時々のハウの役割、存在とはなんだったのか、自分のことに置き換えて思い浮かべてみてください。もちろん、難しいことを考える必要はありません。ぜひ純粋に、このすてきな作品を楽しんでください。そうして見た人それぞれが、自分なりの「答え」に気付いてくれたらいいなと思っています。

 わたなべ・まきこ/1968年、東京都出身。1986年からモデルとして活動を開始。88年に「バカヤロー! 私、怒ってます」で俳優としてデビュー。主な出演作に「殯の森」「37セカンズ」「浅田家!」「護られなかった者たちへ」など。
『ハウ』
公開表記:8月19日(金)全国ロードショー
原作:『ハウ』斉藤ひろし(朝日文庫)
出演:田中圭 池田エライザ 野間口徹、渡辺真起子、モトーラ世理奈、深川麻衣、長澤樹、田中要次、利重剛、伊勢志摩、市川実和子、田畑智子、石田ゆり子(ナレーション)、石橋蓮司、宮本信子
監督:犬童一心
脚本:斉藤ひろし 犬童一心
太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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