ペットロスの悲しみ抱え、それでも生きなければ 映画「ハウ」出演の池田エライザさん

動物たちへの思いを語る池田エライザさん

 声を失った保護犬が主人公の映画「ハウ」が8月19日に公開されます。人と犬の絆を丁寧に描いた本作。物語のカギとなる人物を演じた3人の出演者に話を聞きました。1回目は池田エライザさん。もうひとりの主人公・赤西民夫(田中圭さん)の同僚・足立桃子役を演じています。自身がともに暮らす猫をはじめとした、動物たちへの強い思いを抱きながら、作品に臨んでいました。

ペットショップで半額に割引されていた猫

――インスタグラムで飼い猫について投稿するなどしています。どんな子たちですか?

 猫のシャンプーを飼い始めたのは2年ほど前です。パピーミル(子犬工場)の問題を知り、保護犬や保護猫を迎えたいと考えていたタイミングでした。でもある日、飼っている小鳥のフードを買うためにたまたま入ったペットショップに、シャンプーがいたんです。すごく小さなケージに、大きな体をぐったりと横たえていました。長いこと売れ残っていたせいか、半額に割引されていました。「どういうことなんだろう?」と気になり、何日かそのペットショップに通いました。そうしているうちに、ぐったり具合がただごとじゃないと気付きました。なんとか助けたい。そう考え、うちに迎える決断をしました。

――ぐったりしていた原因はわかったのですか?

 すぐに動物病院に連れて行き、検査をしてもらったところ、致死率がとても高いウイルス感染症にかかっていることがわかりました。そのことをペットショップに連絡すると「同額の猫と交換できますよ」と言われ、それがまた何とも言えないほどショックでした。交換できるわけがありませんよね。すべてのペットショップがそうだとは思いませんが、改めて問題の多いビジネスだと思いました。

――大変な闘病生活だったのでは。

 およそ4カ月間、毎日同じ時間の投薬が欠かせませんでした。その間はマネジャーさんにお願いして、なるべく午後9時には帰宅できるよう仕事を調整してもらいました。家族も手伝ってくれて、やっとのことで寛解の状態にまで持って行けました。シャンプーの命にかかわることなので、大変ではありましたが、苦にはなりませんでした。

「先住猫ファースト」で2匹目を迎えた

――最近になってもう1匹迎えたとか。

 シャンプーが寛解状態になり、それから1年ほど経ってから、かかりつけの獣医師さんに相談した上で、もう1匹お迎えすることになりました。留守番させることも多い仕事なので、2匹いたほうが楽しいかなと考えて。それがビスケです。もちろん、「先住猫ファースト」でシャンプーに接しながら、しっかり時間をかけて2匹の距離を縮めるようにしました。とにかく快適な環境を提供したいという一心です。家族が増えるので大変なことは確かですが、やっぱり、うちにきて良かったと思ってもらいたいじゃないですか。

――猫2匹との生活はにぎやかですよね。

 チュールをあげようとする前の「圧」がすごいです。私のひざの上に乗って、ずっとフミフミしながら、ちらちらチュールのほうを見て「チュールくれ、チュールくれ」と訴えかけてきます。わかりやすい性格の猫たちで、コミュニケーションもしっかり取れているので、日々楽しいですね。ちなみにシャンプーは「らんま1/2」から、ビスケは「HUNTER×HUNTER」から名前を取っています。

――猫たちとどんな関係を築いているのでしょう。

 私のことをお母さんだと思っているみたいです。ちょっとしたストーカーのような感じ。どこにでもついてきて、ドアが閉まってしまうと「ニャアー」と主張して。私が体調を崩すと、「今日は動かないじゃん、どうしたの」という感じでオロオロします。そして元気になったら「遊ぶ? 遊ぶ?」とテンションがあがる。お互いよく話し、察し合える、まさに家族ですね。

 猫同士の関係で言うと、ビスケはおてんばきわまりなく、シャンプーは病気もあっておだやかに静かに過ごしてきた姫。シャンプーはビスケの元気さにドン引きしているような時もありますが、ビスケに甘がみの強さや爪の引っ込め方を教えているみたいです。ビスケはシャンプーと一緒にいることで、猫としての遊び方がどんどんうまくなってきています。その関係の中には、あまり人が介入しすぎないようにしています。

それでも生きて行かなければ

――映画「ハウ」で演じている足立桃子も猫を飼っています。劇中ではその関係はあまり描かれていませんが、どのようなイメージを持って演じましたか?

 ペットロスが、この映画の一つの大きな要素としてあります。家族としてずっとそばにいた大きな存在が、いなくなる寂しさと、恐怖と、いなくなったあとの喪失感。それを私は、実家で飼っていた犬を亡くした時に経験しました。小学校高学年の頃のことです。朝起きたら亡くなっていて、なんとか登校はできたのですが遅刻してしまって。その時にあるクラスメートから「犬が死んだくらいで遅刻するなよ」と言われ、たいへんなケンカをしました。一方で先生は「つらいよな」と共感してくれて。

 そういう経験があったので、私が劇中で桃子を演じる際には、それでも生きていかなければいけない、それでも生活が続いていくというところに、重きを置いていました。ちょっと思い出すだけで涙が出てくるような心を持ちながら、仕事に行かなければいけない、学校にいかなければいけないという人が、現に今もたくさんいます。演技でそれを過剰に見せるというわけではなく、そういう心情をなるべく丁寧に出していければいいなと。だから、桃子はちょっとボサボサな髪形で、あまり余裕がない感じに見えます。

映画『ハウ』より (C)2022「ハウ」製作委員会

――ミイ(サビ猫)はどのような猫だったのでしょう。

 きっと、桃子にすごく性格が似ています。マイペースな感じとか。桃子とミイ(サビ猫)とは、表裏一体な感じを意識しました。だから劇中、ハウと離ればなれになった田中圭さん演じる赤西民夫が、「買ったらいいじゃない、新しいの」と言われる場面があるのですが、この言葉に納得のいかない桃子の素のままの反応についてはとても共感しながら演じられました。家族を失っているのに、「買うとか」「新しいの」とか、本当におかしいです。

――ハウ(ベック)との共演シーンはありませんでした。

 たまたま現場が一緒になったことが1度だけありました。映画のなかでハウは大人びていますが、演じたベックは実際には子どもっぽいところがありました。本番中は天才的な演技を見せますが、OKがかかると「おもちゃー!」という感じで無邪気なところを見せ、それがとてもかわいかったです。撮影現場には人がたくさんいるのですが、皆さん、ベックにストレスをかけないように配慮しながら撮影を進めていたのがとても印象的でした。

人と動物、互いに共存できる社会を

――動物に十分な配慮がなされている現場というのはいいですね。人と動物との関係について、思うところはありますか。

 愛玩動物という概念がなくなればいいなと思っています。人の利益のために存在しているのではなくて、等しく地球上に存在していて、お互いが快適に共存できるような世界です。そこに向かっていくために、よりよい手段、よりよい制度を模索できるはずです。最善を探り続けることは決して悪いことじゃない。今ある人と動物の関係や仕組みが、最善な方向にかわっていけばいいなと思います。

 畜産動物についても考えることがあります。「小鳥を飼っているのにニワトリを食べるのか」などと言われることがあり、ヴィーガンの方と話をする機会もありました。ヴィーガンになってみようとトライした経験もあるのですが、お弁当一つ買うのにも苦労して……。なかなか難しいなと思いました。でも週に1、2日でもそういうライフスタイルに挑戦してみる人が増えれば、市場に出回っているものも変わってくるのではないかと気付きました。一人でも多くの人が、スーパーの店頭で平飼い卵を選ぶ。そういうことからでも始められれば、なるべく動物にストレスをかけなくて済む社会につながる。何かいい手段はないか、皆で考えていきたいですよね。

――「ハウ」という作品には保護犬、保護猫がでてきます。

 はい、この作品では、保護犬を飼うという選択肢を提示しています。そういう制度があり、捨てられてしまった犬や猫の保護活動に取り組んでいる方がたくさんいるということを知る、いい機会になるはずです。作品自体はあくまで心温まる、優しさにあふれたお話です。説教臭かったりはしません。でも保護犬、保護猫のことが、とてもいい描かれ方をしているんです。せっかくなので、見てくださった方々が、いろいろな角度から動物たちのことを考えてくれたらいいなと思っています。

 いけだ・えらいざ/1996年生まれ、福岡県出身。2011年、映画出演をきっかけに女優として注目を集め映画、ドラマのほか歌手としても活躍の場を広げる。主な出演作に「ルームロンダリング」「SUNNY 〜強い気持ち・強い愛〜」「真夜中乙女戦争」など。20年には「夏、至るころ」で映画監督としてもデビューした。
『ハウ』
8月19日(金)全国ロードショー
原作:『ハウ』斉藤ひろし(朝日文庫)
出演:田中圭 池田エライザ 野間口徹、渡辺真起子、モトーラ世理奈、深川麻衣、長澤樹、田中要次、利重剛、伊勢志摩、市川実和子、田畑智子、石田ゆり子(ナレーション)、石橋蓮司、宮本信子
監督:犬童一心
脚本:斉藤ひろし 犬童一心
太田匡彦
1976年東京都生まれ。98年、東京大学文学部卒。読売新聞東京本社を経て2001年、朝日新聞社入社。経済部記者として流通業界などの取材を担当した後、AERA編集部在籍中の08年に犬の殺処分問題の取材を始めた。15年、朝日新聞のペット面「ペットとともに」(朝刊に毎月掲載)およびペット情報発信サイト「sippo」の立ち上げに携わった。著書に『犬を殺すのは誰か ペット流通の闇』『「奴隷」になった犬、そして猫』(いずれも朝日新聞出版)などがある。

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