「猫と建築社」の施工例。キャットステップの間隔のアドバイスもしてくれる(提供:猫と建築社)
「猫と建築社」の施工例。キャットステップの間隔のアドバイスもしてくれる(提供:猫と建築社)

なるべく多くの居場所を 「猫と建築社」に聞く、猫にとって居心地のよい空間とは?

 飼い猫には、家の中で居心地よく過ごしてもらいたい――。猫の完全室内飼いが主流の今、飼い主なら誰もが願うことではないだろうか。では、猫にとって居心地のよい場所・空間とは?

 長年の猫との暮らしや、福島の被災猫や地域猫活動のボランティア経験を活かし、“猫と暮らす家”の設計を行う建築設計事務所「猫と建築社」の代表を務める中村裕実子さんに、猫にとって居心地のよい場所と、猫も人も暮らしやすい空間づくりについて聞いた。

(末尾に写真特集があります)

「猫と建築社」とは?

 猫好きの人なら、思わず二度見してしまう社名「猫と建築社」とは、中村裕実子さん、幸宏さんご夫婦で営む建築設計事務所「neno1365(ネノイチサンロクゴ)」のいち部署のような位置づけで、“人も猫も快適に暮らせる家”を目指し、なるべく猫がストレスなく過ごせる室内環境を整える家づくりを提案している。

夫婦
「猫と建築社」の中村裕実子さん、幸宏さん夫婦(提供:猫と建築社)

 中村さんご夫妻のご自宅では、元被災猫の「千葉ちゃん」(千葉のお土産の箱が好きだったため命名)、元野良猫の「うにこ」、元はよその家で飼われていた「茶目子」の3匹の猫たちが暮らす。裕実子さんは猫と暮らす中で、「猫はダーッと走った先に爪とぎがあると喜ぶんだな」など、感じたことを設計に生かしている。

3匹の家猫
中村家の3匹の猫、うにこ、千葉ちゃん、茶目子(提供:猫と建築社)

 裕実子さんは、猫の居場所についてこう話す。

「一生を家の中だけで過ごす猫のために、なるべく多く居場所を作ってあげてほしいです。猫は快適な場所を自分で探すといいます。できるだけ猫が自由に自分の意志で移動して、一番快適だと思う場所でくつろげるようにしてあげたい。家族が長時間いる場所には特にたくさんの居場所を、各部屋にも色々な高さ、様々な方角に猫がいられるスペースがあるとよいと思います」

 リフォームで可能な家づくりは猫と建築社の施工例、すぐにでも可能な空間づくりについては中村さんご夫婦のご自宅から、その工夫を詳しく見ていこう。

猫も楽しい「爪とぎ防止」

 通常のリフォーム業者への依頼や、市販品を使っての「爪とぎ防止」というと、ツルツルした素材を壁に貼り、猫が爪とぎできないように家を守ることを目指すが、裕実子さんの提案はあくまで「猫ファースト」だ。

「猫は引っかきたいのに引っかけないなんて、かわいそうじゃないですか(笑)。それで、引っかきたい猫と、引っかかれちゃ困る人間の折衷案として、猫が引っかきたいポイントに“サイザル麻タイル”を貼るんです」

猫の爪とぎ
壁にサイザル麻タイルを貼り付けて、猫も人も大満足(提供:猫と建築社)

 サイザル麻タイルとは、通常は脱衣所などに使用する床材で、市販の爪とぎポールに巻かれている麻ロープと同じ素材でできている。これを壁に貼ることで、猫はひっかきを存分に楽しむことができ、見た目もナチュラルでオシャレ。「10年経ってもまだ使える」というほど、耐久性もバッチリなので、猫も人も満足できる結果が得られるというわけだ。

 そして、猫と建築社の依頼で最も多いのは、玄関からの脱走防止や、キッチンや階段などへの侵入防止扉の設置だという。猫の安全のために、キッチン侵入を防ぐ扉をつけて欲しいという依頼には、猫にも人にも楽しみが増える提案が。

キッチン侵入防止扉の施工例。4つのお目目がじー……(提供:猫と建築社)

 飼い主さんがキッチンにいると、扉の外からじーっと猫たちの熱い視線が……。

 猫にとっては、扉によじ登る新たな遊びが加わった。飼い主さんは、登る猫をお腹側からも眺めることができ、「思いがけない楽しみも増えて、猫の新たなかわいさを発見できて幸せです」と、大満足だという。

キッチン侵入防止扉。猫は楽しく、飼い主はキッチンから猫のお腹を見られて新たなかわいさを発見!(提供:猫と建築社)

“余剰空間”を作る

 中村さんご夫婦と3匹の猫たちが暮らす家には、アイデアが満載だ。

「猫の空間づくりで一番のポイントは、猫は高さが使えること。同じ広さでも、たくさん場所を用意しやすいです」と話す中村さんのお宅では、本棚に板を渡して、猫の通路を作っている。階段状の本棚を駆け上がって上下運動ができ、板の上から外の景色を眺めてまったりすることもできるので、一石二鳥だ。

家猫
本棚に板を渡して作った猫の通り道(提供:猫と建築社)

 また、猫の隠れ家にぴったりな押入れは、猫のために半分空けているという。

「猫は、奥行きがあって暗くて高さもある押入れのような、籠れる空間が大好きです。来客時は空気が通る程度残して引き戸を閉めると隠れられますし、掃除機をかけると押入れに逃げ込みます(笑)。昔ながらの押入れだと、壁材が漆喰になっていて、温度・湿度を一定に保ち、消臭効果もあるので猫には快適なようです」

押し入れに猫
先代猫のうぅちゃんも押入れの上段が大好きだった(提供:猫と建築社)

 中村家では、押入れのほかにも、あえて余計な空間を作って猫の居場所を増やしている。

「猫ってどこでも乗ったり入ったりできるので、色んなところに“余剰空間”を作るんです。例えば、奥行きのある本棚なら、文庫本を入れると手前にスペースができて、そこにいるのも猫は好みます。また、大きな絵を飾るのでも、壁に貼らずに床に立てかけたりすると、後ろに空間ができて、そこに隠れるのも猫は好きですね。あえて家具は壁にぴったり付けずに後ろに猫が入れる隙間を空けてみるのもよいと思います。もちろん、安全には気を付けて」

本棚に猫
「なぜそこに」という場所によくいる猫の千葉ちゃん(提供:猫と建築社)

猫によって、過ごし方は様々

 猫のための空間が豊富な中村家の猫たちは、どんな場所で過ごすのを好むのだろうか。

「各々で全然違いますが、千葉ちゃんは押入れが好きです。茶目子は外に出たい猫なので、季節を問わず家中の窓という窓を一日中歩いて楽しんでいますね。うにこはシニアに入ってきたので、寝ていることが多いですが、基本的に人のそばが好きです。どこの家の猫も、結局家族と一緒にいることが多い気がするので、家族のそばに居場所があると特によいと思います」

黒白猫
引き出しから顔を出す猫の千葉ちゃん(提供:猫と建築社)

 猫と建築社の依頼は100件100通りというほど、各家庭によって異なるという。家の違いだけでなく、猫の年齢や性格、猫の好みの違いを組み合わせると、何通りにもなるからだ。

 ご家庭の猫に合わせて、なるべくたくさんの猫の居場所を作ってあげよう。

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安田有希子
2015年からsippoにて「猫アレルギーですけど」の連載開始。2匹の元保護猫と暮らして4年目に猫アレルギーが発覚するも、平和に暮らす。猫の好きなパーツは、小さく並んだ門歯。幼少の頃「うちのタマ知りませんか?」のすごろくに大ハマりした年代。栃木県出身。

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