カリカリ、ぺろぺろ……犬が「かゆがる」原因は? 知っておきたい症状と注意点
しきりと耳をかく。前脚をいつまでもぺろぺろなめる。柱や家具に背中をこすりつける……。そんな愛犬の行動が気になったことはありませんか? ちょっと体をかくぐらいなら、人間にもよくあること。しかし、犬がいつまでも同じ部位をかき続けたり、明らかに気にしすぎたりしているなら要注意。病気の予兆だったり、犬からの大事なメッセージであったりすることも。そこで、犬の「かゆみ」について、シリーズでお伝えします。
犬がかゆがっても「原因わからない」飼い主さんも
企画に先立ちsippo編集部で2022年3月、犬の飼い主さんにアンケートを行ったところ、214人から以下のような回答が寄せられました。
皮膚をかく、なめる、かむ、こすりつける、頭を振る……これらの行動や症状は、犬にとっては不快なおそれのある「かゆみ」のサインです。
また、アンケートでは「(体を)ガジガジかむのはストレスなのか」「よく同じところをカミカミして『なめ壊し』をしてしまうことがある。どういうときにそういったことをするのかを知りたい」など、同じ部位を必要以上にかんだり、なめたりし続ける愛犬の行動の理由や原因がわからない、と戸惑う飼い主さんたちからの声も届きました。
犬のかゆみにはどういった症状や種類があるのでしょうか。ペットの皮膚科医療とスキンケアに詳しい日本獣医皮膚科学会認定医の江角真梨子先生に聞きました。
かゆみの主な原因、アレルギー性皮膚炎
「私が診察したかゆみ症状のおよそ5割は、アレルギー性皮膚炎によるものです」と江角先生。かゆがる行動を目にして、「癖が直らないんです」と相談してくる飼い主さんが多いのだといいます。
アレルギー性疾患には、食物アレルギーのほか、環境要因によるアトピー性皮膚炎などがあり、体質に起因するところが多い病気でもあります。
では、犬のアレルギー性皮膚炎について整理してみましょう。
■症状はいつごろから始まるか
人間の場合、小児喘息(ぜんそく)や子どもの食物アレルギーなど、幼いころから症状が出るケースがあります。個人差はありますが、成長するにつれて症状が寛解することも。犬の場合はどうなのでしょうか。
「生後半年から1年で症状が出始め、じわじわと進み、3歳ごろまでに顕著な症状が現れることが多いようです。かゆみとの付き合いが長い犬だと、1歳未満から12歳ごろまでは症状が続く印象です。悪化を防ぐためにも、なるべく早い段階で治療をスタートさせることが大切です」
■アレルギーはどうやって判断する?
「小さいときから耳をかゆがる犬がいますが、実は耳のかゆみがアレルギーの兆候であることが多いんです。犬の耳の病気は大部分が外耳炎ですが、これもアレルギー性であることが多い。もし子犬がしきりと耳をかくようであれば、アレルギーの兆候である可能性があります」
■具体的な確認方法
「犬は話すことができないので、かゆいのか、そうではないのかの判断は難しい。かゆみを抑制する薬を数日間、与えてみて様子を見ます。それでかゆがる回数が減るなら、アレルギーである可能性が高い。治まらないなら、他の可能性を探ります」
■アレルギーが発症しやすい部位は?
「耳や目の周り、わきの下、四肢の末端や股などが、アレルギー性皮膚炎が出やすい部位です。一方、ノミアレルギーの場合は、背中に出る傾向があります」
■アレルギーを引き起こす原因は何?
「食物アレルギーは文字通り、食べ物によって引き起こされるもの。その他のアレルギーとしてはアトピー性皮膚炎と言われる環境要因(花粉やハウスダストなど)のものが多いですね。花粉の多い季節には、犬にもくしゃみや涙目などの症状が出ることもあります」。外部の環境によるアレルギーが気になる場合、散歩のときに服を着せるのも有効だといいます。
「一方で、食物アレルギーは年齢に関係なく、突然発症することがあるので要注意。つい最近まで普通に食べていたフードにアレルギー反応を起こすこともあります。長年アレルゲンを摂取し続けたことで許容量を超えてしまい、体が過剰反応するためで、老犬でも起こりうるのです」
■アレルギーを起こしやすい犬種は?
アレルギーを発症しやすい犬種というのもあります。柴犬やトイプードル、チワワ、パグ、フレンチブルドッグ、ゴールデンレトリバー、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズーなどによく見られるといいます。
「柴犬に多いのは遺伝的要因だと思われますが、特に湿度が高く蒸し暑い6月ごろに症状の悪化が多いという学会発表もあります」
アレルギー以外の「かゆい」病気
犬のかゆみの原因は、アレルギー性疾患以外にもあります。どんなものがあるのか、見ていきましょう。
●寄生虫によるもの
ノミやダニといった寄生虫が、犬のかゆみの原因になることがあります。こうした寄生虫は、散歩中に犬の体についてしまうこともあります。
「愛犬の健康のためにも、エチケットのためにも、通年、駆虫対策(駆除)はしていただきたいですね」。かゆみを引き起こすおおよその寄生虫を駆除できる薬もあり、寄生虫の可能性がある場合は試験的駆虫をして改善するかどうか見極め、原因を探ります。
こうした寄生虫が恐ろしいのは、人に害を及ぼす可能性もあること。室内飼育が広まったこともあり、同居家族の中に幼児や高齢者がいる場合は特にリスクが高まります。冬でも室内が温かい家が増え、ノミ・ダニの繁殖できる環境がそろっているため一年中の対策が必要なようです。
「特に新たに犬を迎えた時などは、皮膚感染やおなかの寄生虫を確実にチェックしましょう。薬に抵抗を持たれている方も多いですが、安全性が高いものがほとんどなので、安心して使ってほしいと思います」
●感染症
1.膿皮症
犬の皮膚に常在するブドウ球菌が通常以上に増殖してしまい、引き起こされる病気です。
「犬の汗腺は肉球まわりだけだと思われていますが、実は体表にも汗をかいている。中性から弱アルカリ性といわれるpHを維持し、細菌の過剰な増殖から皮膚を守っていると考えられています。多汗症というものがありますが、体表からの汗が過剰に出てしまうようなことがあるとバランスが崩れて細菌が増殖しやすくなり、こうした病気が引き起こされます」
2.マラセチア
こちらも皮膚に常在するカビの一種(真菌)が増殖することで起きる病気です。犬種による特性があり、コッカー・スパニエルやウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、シー・ズーに多いようです。
●脂漏症
皮脂が過剰に分泌されることで引き起こされ、夏場、背中に出ることが多い病気です。毛が脂っぽくベタベタして体臭が強くなるのが特徴で、アレルギーと複合的に発生することも。かゆみ止めの投薬やシャンプーの回数を多くするなどのケアで対応します。
老犬ならではの肌トラブルも
体力が低下して免疫力が落ちてくると、寄生虫や細菌についての耐性も弱くなります。その結果、前に挙げた常在菌が増殖しやすくなるリスクも上昇します。そのほかにも、シニア犬には次のようなケースが考えられます。
●ホルモンの異常
副腎皮質ホルモンの過剰や甲状腺機能の低下など、ホルモンバランスの乱れによって引き起こされる病気も、二次的にかゆみを伴うことがあります。
●腫瘍(しゅよう)
皮膚の腫瘍で、皮膚型リンパ腫とも呼ばれます。全身的にフケが大量に出たり、強いかゆみがあったり、口周りや鼻の色が抜けてきたりする場合などは要注意。
そのかゆみ、本当に病気?
以上のような犬のかゆみ症状は、体の変調や不調によるものです。江角先生は、犬の心境の変化で起こるかゆみの可能性もあると指摘します。
「例えば在宅勤務が始まって飼い主さんが昼間、多く家にいるようになったら、前脚をなめるなどのかゆがる行動が増えたという話もあります」。普段、近くにいなかった人がいるようになって、構われ過ぎるなど環境変化がストレスになったとみられるケースです。
人間ではストレスに起因するかゆみがあることは知られています。犬のストレスがかゆみを引き起こすというメカニズムはまだ詳細は解明されていないものの、人と犬のかゆみのメカニズムが類似していることから、犬にもあてはまると考えられるといいます。
「人との関わり方で言っても、人とたくさん遊びたい犬もいれば、なるべく放っておいてほしいという犬もいます。赤ちゃんが生まれたり、新しいペットがやってきたりと、家族構成に変化があったときも要注意です」
もちろん、体をかいたり、なめたりするのが癖だという犬もいます。では、ただの癖なのか、ストレスなのか、病気なのかを見極めるにはどうしたらよいのでしょうか。
「人がいないとき、犬だけで過ごしているときどうしているかをペットカメラなどで録画して確認する方法があります。飼い主さんがいないときは特にかゆがる様子がない。人がいるとかゆがる。そんな場合は、かゆみではないかもしれません。また、かゆがっているときの動画があると、獣医師の診断にも役立つのでお勧めです」
愛犬の行動が本当にかゆみからくるものなのか、かゆいのであればその原因は何なのか。犬が見せるかゆみのサインについて、獣医師と話をして初めてわかることや判断できることもあることから、江角先生は「ぜひ気軽に動物病院で相談を」と呼びかけます。
愛犬の変化に気付くためには
では、こうした愛犬の体や心の変化に早めに気付いて適切に対処するために、飼い主さんはどのように犬と向き合っていくのが望ましいのでしょうか。
「犬がかゆみを感じるときは、集中しているときでもやはり、かゆがるもの。遊ぶ時間を増やすなどした結果、かゆみ行動が減るのであれば、実はかゆみではなかった可能性も考えられます。日頃からしっかりと犬との対話の時間を設けて、犬の性格や何がうれしいのか、嫌なのかを把握しておくこと。そして、愛犬それぞれに合った関わり方をしていくことが大事です」
- 話を聞いた人:江角真梨子 獣医師
- Vet Craft代表。日本獣医皮膚科学会認定医、日本コスメティック協会指導員。大学動物病院での勤務や獣医皮膚科医としての経験で得た知識をもとに、小動物の皮膚科診療にあたる。ペットの皮膚疾患やスキンケアについて、セミナー等を通じて普及啓発にも努めている。
次回は犬のかゆみに対して、自宅でどんなケアができるのか、そして病院に行ったほうがよい症状の見極め方について、伝えます。
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