猫を保護して人生が変わった22のストーリー 「私の前に現れてくれてありがとう」
SNSの人気者、クスっと笑える話、感動的な物語……。個性豊かな保護猫たちのエピソード22話を収録した『猫にひろわれた話』(猫びより編集部編)が辰巳出版より発売中です。同社の猫専門誌「猫びより」と「ネコまる」の取材記事を再編集したもので、印象的な装画は人気の猫漫画『俺、つしま』の作者、おぷうのきょうだいさんの描きおろしです。担当編集者に本に込めた思いも伺いました。
猫が人を選んでいる?
本書には、保護した猫との出会いによってその後の考えや生き方が変わった人々が続々と登場します。どのエピソードも魅力的、そしてその内容は唯一無二です。
大阪市天王寺区にある鉄道ジオラマが楽しめる喫茶「ジオラマ食堂 てつどうかん」のオーナーである寺岡さんは、コロナ禍で店をたたむかという状態の時、店の隣の保育園からたまたま子猫を預かり、その母猫と他の子猫あわせて4匹を迎えました。
すると運命が思わぬ方向に動いたのです。
店舗に子猫が脱走してジオラマが破壊されたので、金属製の丈夫なものに改造。そして、“巨猫に占拠されたジオラマ”として動画に撮ってYouTube等に配信すると大反響となり、鉄道模型もどんどん届き……「私たちのほうが救われた」「今度は自分が厳しい境遇に置かれた猫を助けたい」という思いから、ジオラマ食堂の2階に、猫のシェルターと猫のペットホテルを併設した保養施設を開いたのです。ジオラマ食堂にも今は14匹の猫がいるそうです。
猫との出会いは不思議で、「猫が人を選んでいるのではないか?」と思うことが多々あります。この人ならなんとかしてくれるはず、共に幸せになれるぞ、と予知でもするように。
たとえば、岐阜県の山のふもとに住んでいた恵美さんの家の窓から、ふいに入ってきて家猫になったキジの子猫チビタ。3年目に、外で両前脚の先がつぶれる大けがをします。獣医師はトラバサミにかかったのだろうと診断し、「安楽死か、両肩からの切断」を勧めました。
しかし恵美さんは、安楽死も肩からの切断も拒否します。そして、知り合いの器用な整体師に義足を作ってもらおうと考えて、獣医師に頼んで両前脚の先だけを切断します。なぜか、いつもなら動物病院で大暴れのチビタがその治療を受け入れ、特製の義足で歩けるようになり、先生に「奇跡」といわしめます。
……それから15年。チビタは18歳の今も元気。ジャンプしたり毛づくろいをし、近頃は脚の傷も癒えてきて、義足をつけずに過ごす時間も増えたとか。もしチビ太が恵美さんと出会わなければ、今も生きていたかどうかわかりません。
「現れてくれてありがとう」の気持ちを絵に
猫にひろわれた、という一見変わったタイトルについて、辰巳出版の小林裕子さんにお聞きしました。
「『猫びより』に携わってきて、多くの猫好きさんが“人が猫を幸せにしている”のではなく、“猫が人を幸せにしてくれている”と実感していることがわかりました。また、“この猫は私に保護されるためにあの時私の目の前に現れたのではないか”と思わずにはいられない、猫との出会いを経験している人も少なくありません。多くの猫好きさんの“私を幸せにしてくれてありがとう”“あの時、私の前に現れてくれてありがとう”という気持ちをこのタイトルに込めたつもりです」
挿画は、おなじみの『俺、つしま』の作者、おぷうのきょうだいさんの描きおろしで、大きな猫が女性を抱いたイラストで、印象的です。
「猫にひろわれた人を表すために、猫が人を抱いている構図をリクエストしました。よく、(人間の)子どもが子猫をひろって“ねえ、うちで飼っていい?”と親に尋ねるシチュエーションがありますが、おぷうのきょうだいさんが、その逆の世界を表現してくださいました。“これは私だ!”“この絵だけで泣ける”といった感想をいただいています」
今年は2月22日がスーパー猫の日だったこともあり猫への関心がかなり高まっていますが、「保護猫の認知もだいぶ広まった」と小林さんはいいます。
「著名人の方が保護猫と暮らし始めたという話題がネットニュースになったり、テレビ番組でも保護猫を扱うことがとても増えたと思います。しかし一方で、いまだにメディアで『人気の猫種ランキング』などの特集を組み、特定種の人気をあおっていることがあるのは残念です。また、ペットを飼うならペットショップというイメージもまだまだ強いです。ペットの殺処分をなくすためにも、ペットと暮らす時の最初の選択肢が“保護猫・保護犬”となってほしいと願っています」
命のバトンをつなげるミルクボランティア
本書には、ミルクボランティアのエピソードも載っています。
ミルクボランティアとは、母猫とはぐれた猫の赤ちゃんを生後2カ月ごろまで育てて、新しい家族につなぐ保護活動です。夜中も数時間おきの授乳で大変な労力ですが、命のバトンを次につなげる、大事な活動です。
ミルクボランティアをする「みやこねこ」のかおりさんによれば、毎年のように、壁の隙間から救出される「壁猫」と称される猫がいるそう。ある時、同じ壁の隙間から短期間に次々と乳飲み子たちを救出し、かおりさんのところで生き別れていた「壁猫3きょうだい」が“再会”して、無事にみんな幸せをつかんだそうです。
これから子猫が増えるシーズンですが、巻末には子猫を保護した時に「どうすれば命を守れるか」という具体的な説明も載っていて、いざという時におおいに役立ちそうです。
読んでいるうちに保護猫との距離がぐんと縮まるような、いとしい一冊です。
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