大人の猫にはオリジナルな可愛さがある 絵本「ねこはるすばん」著者の町田さん
人気の絵本「ねこはるすばん」(ほるぷ出版)。発売1周年を記念して、著者の町田尚子さんが20歳の愛猫「白木」との日々を描いた書き下ろしミニ絵本「おとな猫もいいもんだ」が付いた“特別版”が、数量限定で発売されています。作品には何度も猫が登場し、自身も2匹の猫と暮らす愛猫家でもある町田さんに、猫たちへの思いを聞きました。
「私が引き取りたいです」
――ミニ絵本「おとな猫もいいもんだ」を作られたきっかけを教えてください。
動物愛護団体の方が、「子猫はもらわれやすいけど、大人の猫はなかなか難しい」とおっしゃっていたと聞きました。私は20歳の猫「白木」と、推定11歳の猫「さくら」の2匹と暮らしています。「大人の猫の良さ」みたいなものだったら、伝えられるかなと思いました。子どもたちにも伝わるように、大人の猫をテーマにした絵本を描きましょうか、と提案しました。
――子どもの頃から、動物は身近な存在だったのですか?
子どもの頃は、セキセイインコをたくさん飼っていました。野良猫はインコに悪いことをするイメージがあって、どちらかというと猫にあまりいい印象はなかったんです。
2009年に迎えた白木は、仕事でつながりのある方のお宅で飼われていました。3匹の猫がいて、白木は2匹と折り合いが悪く、いじめられていたそうです。いつも1匹でいる、そんな話を時々聞いていました。
あるとき、「いじめられて不憫(ふびん)だから、私が引き取りたいです」と言ってみたところ、引き取らせてもらえることになりました。ちょうど引っ越しを考えていたタイミングでもあり、ペット可物件に引っ越して、その1週間後ぐらいに白木がやって来ました。
――白木は、町田さんが初めて飼う猫だったそうですね。町田さんの家に来た当初の白木の様子はどうでしたか?
すぐに仲良くなれると思っていましたが、全然なつかず、びっくりしました。さあ、どうしようかと思って。
私と白木は1Kのアパート暮らしでしたが、白木は私とすれ違うときは走るし、とにかく近くに来ない。今思うと絶対にやってはいけないことでしたが、すごく一緒に寝たかったので、ベッドに白木を連れて行って布団を掛けて寝ようとすると、パーッと逃げられる。そんなことを毎晩繰り返していました。
3日目ぐらいの夜、一緒に寝ようとしたときに、捕まえそこねて追いかけっこになってしまって。そうしたら、白木が初めて怒りました。私はショックだったのですが、そこでハッとしました。「白木は怖かったんだ」と。白木の気持ちを全くくんでいなかったことに、その日初めて気がつきました。
そこで白木に謝って、真剣に話をしました。私がどうして白木と暮らしたいと思ったのか、どういう経緯でここに連れてきたのか。私は猫を飼ったことがないからちょっと扱いが分からないんだとか、すごく一緒にいたかったんだとか、今までのことを全部きちんと声に出して話しました。
そうしたら、いつもはベッドの上に連れてくると逃げていた白木が、その日はベッドの足元の方でぱたって倒れて寝たんですよ。追いかけられて疲れていただけなのかもしれないんですけど。もしかして白木にも私の思いが伝わって、「そういう人だったんだ」って分かってくれたのかも、と感じたのです。だから次の日からお互いちょっと変わったというか。
私には白木の気持ちを考えようという思いが生まれたし、白木もなんかこの人だめな人なんだなって思って、諦めるところを諦めて、教えるところを教えなきゃならないんだな、っていう風に思ってくれたように、私は感じました。
私は、知らないことがあまりに多かったんですよね。例えば、一緒に居たいし触りたいけど、無理に触っちゃいけないんだなって、当たり前なんですけど思うようになって。そこから白木をめちゃめちゃ観察しました。
ずっと見ていると
――ミニ絵本に、「人間と猫がなかよくくらす方法を、白木からおそわることにした」とあります。
白木は元々むすっとした顔をしているから、ずっと怒っているのかなと思うと、ものすごく機嫌よくゴロゴロいうこともあるし、ぱっと見て分からないことが多かったです。それでも、白木をずっと見ていると、今だったら触ってもいいのかなとか、ちらっと分かる気がしてくるんです。もう全部思い込みかもしれないんですけどね。そのときにちょっと触らせてもらうとか。お互いにちょっとずつ、ですね。どちらかというと、私は近くで見たがるタイプで、白木の方が諦めて我慢することが多かったと思います。
――今は一緒に寝ているのですか?
この12年間、白木のためにベッドの半分をずっと空けているんです。でも来ないですね。ベッドの半分のところに枕を置いて、そこを白木のものにして、私は端の枕のないところで寝るんです。寝る前に白木を枕の上に乗せてブラッシングすると、ゴロゴロいうんです。でもご機嫌にさせて、じゃあおやすみって寝ると、降りていっちゃうんですよ。それでも、いつ来てもいいように、ベッドの半分は空けておきます。
天真爛漫な猫「さくら」
――その後、2匹目の猫を迎えられました。
2017年の5月の終わりに、縁あってさくらを迎えました。すごく性格がいい子で、人見知りも猫見知りもしない、天真爛漫(らんまん)な子です。
さくらが来て、生活はだいぶ変わったような気がします。私と白木の2人だと、平和なんですけど、抑揚がない日々を過ごしていました。さくらが来てから、白木の感情が表れたというか。それまでは要求もしないし、怒りもしない。それが、さくらが来てからというもの、元気なときは毎日さくらに何か怒っているんです。「嫌な時は怒っていいんだよ」と、さくらに教わったのかもしれません。
さくらは白木に対して、しつこくはないけど一緒に遊びましょうとか、一緒に寝たっていいじゃない、ぐらいの気持ちはあるけど、白木は1人になりたいタイプなんです。さくらは白木をグルーミングして怒られています。
――ミニ絵本に「猫を想うとき、馬を想う」という町田さんのエッセーがあります。人間が馬の家で暮らすことを想像して、それを人間と暮らし始めた猫の気持ちに置き換えています。
白木の気持ちを考えようと思ったときに、自分に置き換えるとどうなのか考えて、私が馬の家で暮らすことになったらどうなるんだろうと思ったんです。これは怖いだろうなとか、馬が善意でやっていても伝わらないなとか、想像しやすくなる。そういう意味で、常に心の中にあることです。
――大人の猫の魅力を教えてください。
大人の猫には、「私だけにわかる魅力」みたいなものがあると思います。私は白木のことを、100パーセント可愛いと思っていたんですよ。そうしたらあるとき、友達から「尚子さんは、ぶさいくな猫専門だもんね」と言われて。白木って一般的に言ったら可愛くないの?とそのとき初めて知りました。
猫はみんな可愛いけど、大人の猫には、自分にしかわからない可愛さ、オリジナルな感じがあって、よりいとしくなると思います。
――町田さんの絵本「ねこはるすばん」に登場する猫は、留守番の時間を満喫していますね。
猫を留守番させることに後ろめたさを感じている方が、ちょっと気が楽になってくれたらいいなと思います。猫は猫で、自分の時間を楽しんでいるかもしれません。だから、そんなに気にすることはないのかな、と思うのです。
私もずっと、白木と一緒にいたくて、家を空けられなかったんです。あるとき泊まりで出かけなくてはならなくなり、ペットシッターさんを頼みました。「この子は本当に人見知りで怖がりだから、そっとしておいてください」と伝えて出かけました。
留守中にシッターさんからメールが来るのですが、家に入ったら白木がベッドで寝ていて、逃げもしなかったと。ご飯をあげて遊びました、しまいには、帰りに後追いされましたって書いてあって。えーっ!と思いました。私は後追いされたことがないのに、どういうこと?って。人によって見せる顔が違う、というのは学びましたね。
留守が多い方には、大人の猫がいいのかなと思います。大人の猫は、過ごし方を知っているし、留守番中に一人の時間を楽しんでいる猫も多いかもしれませんよ。
(編集部から:取材後の2022年1月29日、白木は空に旅立ちました)
(磯崎こず恵)
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