愛猫が吐いた!獣医師に聞く、猫の嘔吐の原因とその対処法とは
猫は吐きやすい動物と言われており、健康上大きなトラブルがなくても嘔吐(おうと)することがあります。吐いたモノや種類、飼い主ができる対処法、病気が隠れている場合やすぐに病院へいくべきケースなどをシリウス犬猫病院院長の石村獣医師が解説します。
- 監修:石村 拓也
- シリウス犬猫病院院長、獣医師。東京農工大学農学部獣医学科卒業。横浜市の動物病院にて研鑽を積み、2017年3月にシリウス犬猫病院を開院。皮膚や耳の症例に精通している。川崎市獣医師会、日本獣医皮膚科学会、耳研究会、日本獣医輸血研究会所属。シリウス犬猫病院
そもそも猫は嘔吐しやすい動物
猫は吐きやすい動物と言われており、健康上大きなトラブルがなくても嘔吐することがあります。でもそれは何故なんでしょう。
猫では毛玉を吐くという行為が見られますが、これは毛づくろいの際になめて飲み込んでしまった毛玉を吐き出すためのもの。数カ月に1回程度毛玉を吐くだけなら、異常な吐き戻しではなく通常の生理現象と考えられるでしょう。また、四足歩行動物である猫や犬は、人と違い食道が地面と平行に走行しています。そのため、人よりも少ないエネルギーで吐き出すことができると言われています。
その他にも、猫は人や犬よりも食物が食道を通過する時間が長いことが知られています。勢いよくたくさん食べたりすると、フードが食道で停滞し嘔吐することも。原因ははっきりとわかっていませんが、猫の食道の構造に由来があるのかもしれません。具体的な違いとして、犬の食道は全体が横紋筋で構成されているのに対し、猫の食道の後ろ1/3は平滑筋という筋肉でできています。
このように猫は嘔吐しやすい動物と認識されることが多いです。それ故、異常な嘔吐が見逃されることもあるので注意が必要です。
猫が吐いたモノの色・種類と対応
まずは愛猫がどんな状況で吐いたのか、どんなものを吐いたのか、その後の様子などをしっかり観察してみましょう。まず、「吐く」と表現される症状は、正確には「嘔吐」と「吐出」に分けられます。
嘔吐とは?
嘔吐とは、食べたものが胃や腸から食道を経て口から吐き出される現象を言います。通常、流涎や悪心を伴い、おなかを波打つような動きをしながら吐きます。吐く前にはクチャクチャ気持ち悪そうにしたり、何度も飲み込んだり吐こうとしたりする素振りが見られます。
吐出とは?
吐出”とは食道の内容物が口から出てくることを言います。嘔吐と違い、おなかに力を入れずいきなりゲポッと吐くことが多いです。吐出を食事のたびに繰り返す場合は、口腔(こうこう)・咽頭(いんとう)・食道に原因のあることが多いです(例えば、食道炎や食道狭窄(さくしょう)、食道内異物など)。繰り返す場合は、早めに動物病院に相談しましょう。
「嘔吐」の場合は、以下の嘔吐物の内容に注意しましょう。
黄色い液体を吐いたとき
黄色い液体は、十二指腸から逆流した胆汁の可能性があります。胆汁は脂肪の消化を助ける働きをしている黄色い消化液です。胆汁は通常、肝臓で作られ胆のうに保存され、必要な時に十二指腸に分泌されます。しかし何らかの原因で胃腸の動きが悪くなったりすると、腸に分泌される胆汁が逆流し黄色い液体として吐いてしまうことがあります。
原因としては、胃が空っぽになる時間が長すぎたり、ストレスなどがにより胃腸の動きが悪くなることが考えられます。まずは早朝や夕方など、空腹時間が長くなりがちな時間帯に吐いていないか確認してみましょう。
対応としては、おなかが空いている時間を短くする、寝る前に軽くごはんを与えるなどして、胃が空っぽになる時間を出来るだけなくしてあげましょう。また、ストレスの原因として思い当たることがあれば解消してあげるといいですね。
透明の液体や白い泡を吐いたとき
白い泡が混じったような透明の液体を吐くときは、胃液を吐いている可能性が考えられます。こちらも黄色い液体を吐くときと同様、空腹が原因の可能性や胃腸運動が低下していることが考えられます。
勢いよく食べ、その後未消化のフードを嘔吐
たくさんの餌を勢いよく食べることで、胃がびっくりしてしまったり、胃の許容量を超えてしまった場合にこのような現象が起こります。吐いた後ケロッとした様子で、吐いたものを再度食べる猫ちゃんも多いです。1回の食事で食べすぎないよう、食事回数を増やしたり早食い防止のお皿などをうまく活用するのもおすすめです。
ピンク色や赤色の液体を吐いたとき
ピンク色や赤色の液体を吐いた場合は、口腔内や胃、食道といった、口から近い部分で出血が起こっている可能性が考えられます。通常の胃液は無色透明です。口の中や食道、胃、そのほかの内臓からの出血や、腫瘍(しゅよう)からの出血などの可能性が考えられます。
茶色いものを吐いたとき
茶色のものを吐いた場合、消化中のフードが胃の中で混ざってペースト状になり、その内容物を吐いている場合が考えられます。
しかし、食べたものに血液が混ざって茶色くなっている場合もあるので注意しましょう。通常血液は真っ赤ですが、出血から時間が経つと血液は酸化されて茶色~黒っぽく変色していきます。嘔吐物に血なまぐさい匂いや、鉄がさびたような匂いがした場合は、消化管からの出血がある可能性や消化器系の病気の可能性があります。
吐いたものに異物が混じっていた場合
吐いたものに、フードやおやつ以外のものが混入していたら注意しましょう。誤飲誤食の可能性があります。中毒症状や腸閉塞など、場合によっては命を落としてしまうこともあります。早めに動物病院に相談しましょう。
毛玉
ご存じの通り、猫は毛づくろい(グルーミング)が大好きですね。猫は毛づくろいによって飲み込んで胃にたまった毛玉を吐く習慣があります。猫の舌はザラザラしており、毛づくろいの際に体毛を体内に取り込みやすいのです。消化管内に取り込まれた体毛は通常、消化されないため糞便(ふんべん)と一緒に排出されますが、ときに胃内で塊となって毛玉を形成することがあります。
胃に残った被毛がたまり毛玉になると不快感を感じ、猫は時々この毛玉を吐きだします。毛玉を吐くのは悪いことではありません。ただし、頻繁に嘔吐を繰り返すと脱水や胃炎・食道炎などの原因になるので、ブラッシングで抜け毛を除去したり、抜け毛を便と一緒に排出する毛玉ケア用フードなどを利用したりするといいでしょう。
うんちのようなものを吐いた
うんちのようなものを吐いたとき、実はその正体は毛玉である可能性も。まずは嘔吐物が毛玉でないか確認してみましょう。
また、吐いたものの臭いも重要です。うんちのような臭いがする場合は要注意です。腸閉塞を起こしている可能性が考えられます。腸閉塞とは猫の細い小腸に異物や毛玉などが詰まったり、消化管内に腫瘍ができることによって腸が閉塞(へいそく)し、腸内容物がうまく流れなくなっている状態です。すぐに動物病院に相談しましょう。
緑のものを吐いた
まずは緑色のもの、例えば植物などを摂取していないか確認してみましょう。猫にとって中毒を引き起こす危険植物は、700種類以上あると言われており、摂取が少量だとしてもとても危険な場合があります。嘔吐物をチェックし、植物がないか、家にある植物をかじった跡がないか等を確認してみてください。室内に観葉植物等を置く場合は十分な注意をこころがけましょう。中毒を起こして嘔吐している場合は早急に治療が必要です。すぐに動物病院に連絡してください。
それ以外にも、濃縮された胆汁を吐いた可能性も考えられます。内臓系にトラブルを起こしていないか注意が必要です。
猫が嘔吐した際の飼い主の対処法とは
猫が嘔吐をしたとき、まず何をすればいいのでしょうか。ここでは飼い主ができる対処法を紹介します。
対処法1
まずは嘔吐物がどんなものなのか、吐いた後の猫の様子、他に症状はないか等を確認しましょう。すぐに病院を受診した方がいい危険な嘔吐なのかの見極めが大切です。嘔吐物を病院に持参する場合は、ティッシュなどに包むと水分が吸収されてしまうため、ラップなどに包んで持参するといいでしょう。難しければ、写真や動画を撮影しておくのがおすすめです。
対処法2
吐いた直後に、水やフードを与えるのはやめておきましょう。胃や腸にトラブルが起きているところへ与えると、刺激となって再び胃腸運動を起こし状態がさらに悪化する可能性があります。
すぐ病院に行くべき嘔吐のケースは
猫は健康な場合でも、食べ過ぎて吐いたり、体内にたまった毛玉を吐き出したりと、普段から比較的吐きやすい動物です。しかし、以下のような症状がある場合は、すぐに病院に連れて行った方がいいでしょう。
- 何度も嘔吐をする
- 元気がなく、ぐったりしている
- 他の症状を伴う(食欲不振、下痢、発熱など)
- 嘔吐物に異物が混ざっている
- 嘔吐物から便臭がする
- 吐こうとしているのに何も出ない
- 週に2回以上嘔吐
- 体重が減ってきた
これらの場合は、すぐに動物病院を受診することをおすすめします。緊急性の高い病気が隠れていることがあります。また、何度も嘔吐したり下痢などの症状がある場合は、体が脱水状態になることも。早めに病院に相談しましょう。
猫が嘔吐してしまう原因とは
猫が嘔吐してしまう原因は直接的な消化器の病気だけではありません。吐く原因でもっとも多いのは食事内容や急性の胃腸炎ですが、猫が吐く場合には、その背景に色々な原因が隠れていることも多いです。
原因例1 食事
- 早食い、丸のみ、過食
- 急な食事内容の変更
- 脂っこいものの摂取
- 異物の摂取
- 不適切な食事(ゴミ漁り、腐ったものの摂取など)
- 食事アレルギーなど
猫の嘔吐の原因で多いのは食事です。フードの早食い、一気にたくさん食べたりはしていませんか? 一気に流れ込んできたフードに胃が対応しきれず、食後に吐くことがあります。また、肉食動物である猫はフードを丸のみする傾向があるため、消化が間に合わず嘔吐することも。その他、食べた後すぐに遊んだり走り回ったりして、まだ消化されていない餌を吐いてしまうこともあるようです。
原因2 胃腸のトラブル
- 胃腸炎、胃潰瘍(かいよう)
- 便秘
- 誤飲による消化管内異物
- 毛球症
- 炎症性腸疾患
よくある胃腸のトラブルとしては急性胃腸炎、便秘、消化管内異物などがあげられます。嘔吐物に血液や異物などがないか注意しましょう。
原因3 薬物・中毒性物質
洗剤・殺虫剤・殺鼠剤(さっそざい)などの薬物、ネギ類・チョコレート・毒性のある植物などの猫にとって中毒性物質を口にしてしまうと嘔吐する場合があります。胃洗浄や解毒処置が必要になることもあるので、危険なものは放置しないようにしましょう。
原因4 感染性のトラブル
- 猫パルボウイルス感染症
- 大腸菌、サルモネラ、カンピロバクターなど細菌性の胃腸炎
- 回虫などの寄生虫
ウイルス、細菌、寄生虫感染によって嘔吐する場合があります。特に、猫パルボウイルスによる汎白血球減少症は致死性の高い感染症のため、免疫力が低い子猫は要注意です。猫汎白血球減少症はワクチンで予防できる病気です。
原因5 代謝性・内分泌疾患
- 尿毒症(腎不全)
- 甲状腺機能亢進症
- 糖尿病性ケトアシドーシスなど
高齢になってきて嘔吐が多くなってきたら、これらの病気に気をつけましょう。「多飲多尿」などの特徴的な症状も見られることがあります。
原因6 その他の内臓疾患によるトラブル
- 膵炎(すいえん)
- 肝不全
- 腫瘍
- 子宮蓄膿症(ちくのうしょう)
- 横隔膜ヘルニアなど
原因7 腫瘍
- 腺がん
- リンパ腫
- 平滑筋腫、平滑筋肉腫
- 炎症性ポリープなど
嘔吐に伴う注意したい症状
症状例 下痢
突然の嘔吐と下痢がみられる場合は、急性中毒の可能性を考える必要も。嘔吐と下痢を併発している場合は、脱水症状も悪化するためさらに注意が必要です。
また、特に免疫力の十分でない子猫に激しい水溶性下痢と嘔吐がみられたら、猫パルボウイルスによる汎白血球減少症感染の可能性があります。だらだらと続く嘔吐や下痢がみられる場合は、腸に慢性的な炎症が起こっていたり、膵炎を起こしている可能性も考えられます。早めに動物病院を受診しましょう。
症状例 食欲不振
胃の動きが悪くなっている場合、元気や食欲が低下することがあります。また、他にも消化器系の腫瘍や慢性的な疾患(腎臓病など)が考えられます。全身の状態が悪くなるような腫瘍や慢性疾患では体重も徐々に減少していく傾向があります。愛猫の健康管理のためにも、普段から通常時の体重を量っておくようにしましょう。
吐くのを防ぐためには?
予防法1
猫は食道の通過時間が犬よりも長いとされています。特に錠剤・カプセルを投与した際は食道内に停滞することがあるので注意が必要です。薬を投薬する際は時に必ず一緒に水を飲ませたり摂食させたほうがいいですね。食道炎になるリスクが低くなるでしょう。
予防法2
毛玉による嘔吐を減らすため、定期的なブラッシングを実施しましょう。グルーミングによる大量の体毛の取り込みを防ぐことができます。
また、毛玉を吐くのが苦手な猫には、飲み込んだ毛が便と一緒に排泄(はいせつ)されやすくなる毛玉対策用のペットフードに変えてあげるといいですね。猫が毛玉を吐くのは必ずしも悪いことではないのですが、頻繁に嘔吐を繰り返すと脱水や胃炎・食道炎などの原因になることもあるので注意が必要です。
予防法3
食事に対するアレルギー反応で嘔吐することもあります。食事内容を変更すると症状が改善することも。
予防法4
餌を急いで食べるせいで吐いてしまう猫には、浅いお皿や早食い防止用の食器を利用するといいですね。一気に食べ過ぎるのを防ぐことができます。
予防法5
消化管内寄生虫や猫パルボウイルス感染症などは、駆虫薬やワクチン接種で予防が可能です。
予防法6
異物誤飲を防ぐため、常に室内を整理整頓しておきましょう。ごみ箱をあさらないようにふたつきのゴミ箱にしたり、小さなおもちゃやヒモなどは猫の届くところにおかないようにしましょう。また、猫にとって有毒な観葉植物などは置かないようにしましょう。
予防法7
ストレスが原因の嘔吐の場合は、ストレスの原因をなくすか、発散させる工夫をしてみましょう。ストレスの原因もさまざまですが、多くは環境の変化に対するものです。可能なら以前の環境に戻したり猫がリラックスできる空間づくりを。たまったストレスは、遊びなどで発散させてあげましょう。また、飼い主との十分なコミュニケーションも重要です。
まとめ
猫は人間よりも吐きやすい動物です。しかし、猫の嘔吐は状況によっては危険を伴うことも考えられます。愛猫の様子をよく観察し、いつもと様子が違うと感じた場合は、早めに動物病院を受診しましょう。
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