犬の皮膚病を解決したい!獣医師に聞く 犬の皮膚病の原因とその対処法を解説
犬が動物病院にかかる理由のトップにあがるのが、「皮膚疾患」。よくある皮膚病の症状や原因、対処法などを、皮膚科専門医でアジア獣医皮膚科専門医協会理事でもある永田雅彦先生に教えていただきました。画像を交えて解説します。
代表的な症状
愛犬の皮膚の異常は目に見えやすく、飼い主が気付きやすいため、飼い主の悩みのタネになりやすいです。しかし、皮膚は環境や気候、体調などによって常に状態が変化するもので、犬種による違いや個体差もあります。その皮膚の状態が病気かそうでないかの線引きは難しいところです。以下に、よく見られる症状をあげます。
かゆみ
飼い主が訴える症状としていちばん多いのが、かゆみ。ただ、かゆみ自体は「体についた害のあるものを払おうとする」という、生きるうえで必要な感覚であり、それ自体が病気というわけではありません。
また、かゆみは自覚症状であり、クセや緊張でかいていたり、痛みがあってこすっていたりなど、別の原因でかくしぐさをしている可能性があるので、注意が必要です。
毛が抜ける
かゆみの次に多いのが、脱毛。被毛はもともと、一定のリズムで生えたり抜けたりしていますが、そのプロセスに不調があると、毛が少なくなってしまいます。
その他、こんな症状も
かさぶた、フケ、斑点、皮膚が赤い、黒い、発疹(赤いブツブツ)、皮膚や毛が脂っぽい、臭いといった異常が見られることもあります。
皮膚の色や表面の状態を見て、明らかにいつもと違う場合や、明らかにかいたりなめたりしている場合、見ていて飼い主が不安に感じる場合は、動物病院で相談しましょう。
犬の皮膚病の種類と原因
「皮膚の異常=治りにくい」といったイメージがありますが、アレルギーや寄生虫、感染症など原因がはっきりしている場合、原因を取り除けば完治を目指せます。ただ、複数の原因が複雑に絡み合っているケースも多く、そのことが診断を難しくしています。
皮膚の異常が治りにくい理由として、犬種の性質や環境、体質が関係していることも多く、その場合は対症療法だけでなく、生活を見直してうまく付き合っていく必要があります。
皮膚の異常の原因として日常的に見られるのは、以下の6つです。
原因1)寄生虫(ノミ、ダニ、シラミなど)
ノミ、ダニ、シラミなど寄生虫が犬の体について、皮膚にかゆみや炎症を起こすことがあります。室内犬に寄生虫が大量につくことは少ないと思いますが、仮についたとしても投薬によって完治させることができます。ノミ、ダニ等が付きやすい外の環境に出る場合は、予防薬を投与しておくことが大切です。
なお、これら寄生虫に対してアレルギーになっていると、少し刺されただけでもひどいかゆみや炎症が生じるので注意してください。
よくみられる寄生虫症のひとつが、疥癬(かいせん)です。タヌキなど野生動物が運んでくるヒゼンダニの寄生により、強いかゆみが生じます。
原因2)感染症(細菌、真菌、酵母など)
犬の皮膚に細菌、真菌、酵母などの菌が増殖すると、かゆみや炎症が起こります。かくことで皮膚が傷ついて、炎症が増幅、さらにかゆみを引き起こすといった悪循環に陥ることもあります。
例えば「膿皮症」は、犬の皮膚にもともといるブドウ球菌が過剰に増殖し、皮膚が膿んでしまう病気です。
いわゆる「マラセチア皮膚炎」は、犬の皮膚にもともといるマラセチアという真菌(カビ)の仲間が増殖している病気です。犬の体表にいるマラセチアはパキデルマティスと呼ばれる種類が多く、皮脂を好むので脂性の犬に多く見られ、皮脂のたまりやすい脇や指の間に病変が出たり、外耳炎を引き起こすと推測されています。
「皮膚糸状菌症」は、水虫の原因になる皮膚糸状菌という真菌(カビ)が皮膚に侵入し増殖して発症する病気です。
原因3)アレルギー
アレルギーは、さまざまな異物から身を守るための免疫の働きが過剰に働くことで発症します。食べ物が原因で起こる食物アレルギー、プラスチックやゴム、薬品などに触れて起こる接触皮膚炎などがあります。
「治りにくい皮膚の異常=アレルギー」というイメージがありますが、アレルギーが原因であれば、同じ条件で同じ徴候が出るという特徴があり、その原因物質を取り除くことができれば健常な生活を送れます。
原因4)心因性(ストレスなど)
ストレスなどが原因で、手足やお腹などを噛んだり、繰り返しなめたりすることがあります。ライフスタイルの改善によってストレスを軽減したり、行動療法や投薬などを行ったりして、改善を目指します。
原因5)内臓疾患・腫瘍
内臓やからだの不調で、皮膚に異常が生じることもあります。例えば甲状腺機能低下症にかかると、甲状腺ホルモン不足による脱毛が見られることもあります。体の内に原因があるので、脱毛は体の片側だけではなく左右対称に発症するという特徴があります。原因となっている疾患を治療することで、皮膚の完治を目指します。
原因6)体質
皮膚の異常に体質が関わっていることもあり、その場合は完治ではなく、日常生活に支障が出ないよう、うまく付き合っていく必要があります。「アトピー」もそういった体質のひとつであり、皮膚の一番外にある表皮の構造や機能が健康な個体と同じではないと言われています。アトピーとアレルギーは混同されますが、アトピーはアレルギー管理だけで完治させることはできません。
人の医療では「アトピー性皮膚炎」の標準的な診断基準がありますが、犬の場合はまだ使い勝手のよい基準が浸透していません。慢性再発性のかゆみに対して、感染症やアレルギー、内臓疾患、心因性などを考えながら、アトピーを疑うことが多いです。
皮膚病になりやすいパーツ
皮膚の異常は、胴体や足、耳など全身のどんなパーツにも表れます。どこに表れるかは病気や原因によって異なります。
パーツ1)シワやたるみのある箇所、こすれやすい箇所
シワやたるみがあると汚れが溜まりやすく、また細菌も繁殖しやすくなり、皮膚の異常が起こりやすくなります。また、皮膚同士がこすれやすい箇所は、皮膚が傷つきやすく、炎症などが起こりやすい場所と言えます。脇やそけい部、指の間、短頭種の顔のしわなどは要注意です。
パーツ2)犬がなめたり噛んだりしやすい箇所
手足やお腹などは、犬が自分でなめたり噛んだりして皮膚を傷つけやすい場所です。
皮膚病になりやすい環境と対処法
皮膚病になりやすい環境は、犬種の特性や、その子の体質などによって異なります。
環境と対処法1)夏や梅雨
犬の皮膚トラブルは圧倒的に夏に多く、これには2つの理由があります。1つは、気温の上昇により体が温かくなるとかゆみを感じやすくなること。もう1つは、多湿でもある暖かい環境下では、ブドウ球菌などの菌が繁殖しやすくなることです。夏や梅雨になると皮膚トラブルが出やすい犬の場合、ブラッシングやシャンプーなどのスキンケアで調整しましょう。
環境と対処法2)犬種の特性に合わない気候やライフスタイル
元来、水鳥猟に使われていたレトリーバー犬種は、皮膚から出る脂によって水をはじいています。したがって、高温多湿な日本で、水から離れて生活していると、皮膚に異常が出やすくなるようです。夏場は、水遊びをしたり沐浴をしたりするだけで、改善することがあります。
グレート・ピレニーズやバーニーズ・マウンテン・ドッグのように、寒冷な山岳地帯原産の犬にとっても高温多湿な日本の夏の気候は合わず、ブドウ球菌が増殖しやすくなるようです。犬の居場所の温度・湿度管理に気配りをしてみるとよいでしょう。
また、狩猟犬や牧羊犬など活動的な仕事をするために作出された犬種が、作業意欲の満たされない生活をしていると、心因性の皮膚障害を起こすことがあります。散歩やドッグスポーツなどで十分な運動量を確保したり、知育玩具で頭を使わせたりと、本来の作業意欲を満たす機会を提供してあげましょう。
愛犬の犬種の特性を知り、もともとどのような環境でどんなライフスタイルをもっていたかを想像し、できるだけ愛犬が快適に暮らせるよう工夫してあげてください。
環境と対処法3)体質に合わない食事
人間同様、食べ物が体に合わないことで、皮膚に異常が出ることもあります。皮膚に異常が見られたら、原因の一つとして食事を考えてみましょう。アレルギーだけではなく、栄養や嗜好も考え、皮膚だけではなく食べ方や排泄のようすも見ながら、適正な食事を探してみましょう。
皮膚病でよくある疑問
質問1)皮膚病にお勧めのシャンプーや洗浄の頻度は?
犬種の特性や環境、また個々の犬の体質によって、合うシャンプーのタイプや洗浄方法は違います。皮膚は日々変化しているので、「シャンプーは月1回」などと決めず、夏は多めにするなど、状態を見ながら調整するとよいでしょう。皮膚病のときに、シャンプーを頻繁にするようすすめられることもありますが、皮膚が弱っているので、むしろ通常よりも慎重に行ってください。強い刺激を与えず、それぞれの愛犬の肌に合う洗い方を考えてみましょう。
質問2)人間の薬は使っていい?
かゆみに効く一般的な人の塗り薬を緊急避難的に使用しても、おそらく問題はないでしょう。ただし、かゆみの塗り薬にはステロイドが含まれている製品もあり、長期間使うと副作用が出ることがあるので注意してください。
また、犬は皮膚に薬を塗ると、その場所をなめる習性があります。なめることでかゆみを悪化させたり、体調不良を起こしたりするリスクがあります。治療が必要と思ったら、かかりつけや救急病院の受診をおすすめします。
質問3)なかなか治らないときはどうする?
かかりつけの病院で原因が特定できず、なかなかよくならないなら、かかりつけ医と相談しながら皮膚科専門医を受診するとよいでしょう。
質問4)他の犬や人にうつる?
皮膚病の原因がアレルギーや心因性、内臓疾患・腫瘍、体質であれば、犬にも人にもうつりません。寄生虫や感染症はうつる可能性があります。「膿皮症」や「マラセチア皮膚炎」のように、犬や人の皮膚にもともと住んでいる菌が関与している場合には、うつることはありません。また、薬が効かないやっかいな菌が伝播すると、薬での治療が必要になったときにうまくいかないことがあります。
「疥癬」は犬同士でうつりやすく、感染したら他の犬と隔離する必要があります。疥癬の原因となるイヌヒゼンダニは、人にも寄生し、手足やお腹など、動物と触れやすく柔らかい肌にブツブツやかゆみが生じます。
「皮膚糸状菌症」は、土壌などの環境中にいる糸状菌が原因で、他の犬や人にも感染することがあります。抵抗力が弱い子犬や老犬、免疫力の低下している犬とともに、人にも感染しやすいので注意が必要です。
質問5)皮膚病になりやすい犬種や年齢は?
どんな犬種、年齢も皮膚病になる可能性がありますが、特に注意が必要な犬種や年齢もあります。乾燥した中国大陸原産のシー・ズーは、肌の乾燥を防ぐかのごとく脂っぽい皮膚をしているので、日本のムシムシした梅雨場や暑い夏にトラブルを起こしやすくなります。
フレンチ・ブルドッグやパグなどの顔にしわが多い犬種は、しわに汚れが溜まりやすく、かゆみや炎症を起こしやすいです。
柴犬はアトピー性皮膚炎が発症しやすい体質があると推察されています。
年齢に注目した場合、皮膚の機能が未熟な子犬期や、体の機能が衰えてくるシニア期の皮膚には注意しましょう。
質問6)皮膚病の治療費はどれくらい?
病気によっても異なります。
いわゆるかかりつけのクリニックでは、診察料1,000〜3,000円程度に加えて、処置や検査、薬の内容によって数千円〜数万円程度。専門医の場合は、診察料10,000〜20,000円程度、また一般的な検査や処置、薬であれば、合計30,000〜50,000円ぐらいのことが多いでしょう。ちなみに専門医の診療は、診断や治療の方針を導くのが目的なので、通常、受診回数は限定的です。治療費に不安がある場合は、遠慮せず動物病院に相談しましょう。
まとめ
愛犬の皮膚の異常は、皮膚や体からのメッセージとも言えます。いつもとようすが違う場合は、ただ経過を見るだけではなく、かかりつけ医に相談しましょう。特に「犬が困っている」ように見えるときは、早く医療機関を受診してください。
体質や犬種の特性が原因の場合、皮膚のトラブルを治す絶対的なマニュアルはありません。シャンプーやブラッシングの頻度や方法、住環境、ライフスタイルなどを見直し、どうすれば愛犬が快適に暮らせるか考えながら、日々の生活で調整してあげましょう。
かかりつけの動物病院がその手伝いをしてくれます。
- 監修者紹介
- 永田雅彦(ながたまさひこ)獣医師。アジア獣医皮膚科専門医協会理事。一般社団法人日本獣医皮膚科学会前会長。獣医療者の教育、臨床の研究開発、全国の動物病院への遠隔医療を柱に動物医療に貢献する『ASC』代表。日本大学卒業後、コーネル大学留学などを経て、1994年『どうぶつ皮膚病センター』、1997年『ASC』設立。2011年より『どうぶつの総合病院専門医療&救急センター』で皮膚科部長、診療統括、院長を経て、2021年に退職。現在、全国のクリニックの皮膚科サポートとともに、合同会社sasaeを設立し、良質な医療に不可欠な動物医療教育サイトの運営、全国的な地域中核病院づくりに取り組んでいる。
- 筆者紹介
- 山賀沙耶(やまがさや)フリーランス編集ライター。北海道大学文学部卒業後、編集プロダクション、出版社勤務を経て、独立。現在は雑誌や書籍、ウェブメディアを中心に、犬やアウトドアなど幅広い分野で活動中。犬メディアとのかかわりは、約20年前の編集プロダクション時代から。プライベートでは、2頭の雑種犬と外遊びを楽しむのが至福の時。
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