保護猫カフェが移転のためクラウドファンディングに挑戦中 移転先の地名は「猫実」

黒猫
保護猫カフェにいるショーン君は奄美大島出身(猫の館ME提供)

 2013年4月に千葉県浦安市にオープンした、譲渡型保護猫カフェ「猫の館ME(ミイ)」。2016年末に、それまでの保護猫カフェをメインに物販も少し手掛けるという立ち位置から、猫専門ペットショップが経営する保護猫カフェへと大転換のリニューアルをし “猫を売らない猫のお店”として精力的に活動を続けてきました。そして来年、成猫をメインとした「保護猫カフェ部門」が引っ越しすることに。移転先の地名は猫の文字が入った「猫実(ねこざね)」だといいます。移転に伴いクラウドファンディングにも挑戦中。「猫の館ME」の代表・小倉則子さんにお話を伺いました。

(末尾に写真特集があります)

「いつか猫実で」を実現

――猫実、というのは猫好きの心をくすぐる地名ですね。この地は昔からご存じだったのでしょうか?

「もちろんです! じつは当初から『保護猫カフェを開くなら猫実で』と物件を探していたのですが、当時は時代が早すぎて(笑)、その地でよい物件に出会えませんでした。満を持してという感じです」

「猫実」バス停前(猫の館ME提供)

――開店予定は2022年2月22日。長年の願いがかなってこの地に引っ越しするわけですね。何かきっかけが?

「諦めきれずに『いつか猫実で』と思い、物件探しは続けていました。現在の環境は必ずしも良いものとは言えず、コロナ禍で限界も感じていたのです。今のキャットルームは、ストアの奥の部屋で北側に面していて窓がなく、猫たちに日なたぼっこをさせてあげられません。25平方メートルとお部屋が狭く、ソーシャルディスタンスを考えると定員を減らすわけですが、そうなると元々小規模なお店ではお客様の収容人数が数人になり収益が確保できず、これ以上の継続は厳しい。立地も最寄りの駅から徒歩25分と遠く、雨もりもします。いろんな点で営業の限界を感じていました」

「そんな中、今回は不動産屋さんのほうから猫実の物件を『貸してもいいよ』というお話がやってきて。断り続けられていた10年を考えると、せっかくのお話を断るのももったいないという思いと、内装工事費用が高くかかることになるので移転資金が正直足りない現実を冷静に考えると無謀かなとか、いろいろ葛藤はありましたが、悩んで悩んで移転の決断をしました」

保護猫カフェの猫たち
おやつタイム(猫の館ME提供)

おとな猫の魅力を伝えたい

――2013年以来、何匹の猫さんの新たな家が見つかったのでしょうか?すべておとなの猫ですか?

「(11月18日現在で)214匹の猫さんが卒業しました。生後半年くらいから10歳以上くらいまで、年齢はさまざまです。保護猫なので1歳以上の子は正確な年齢はじつはわからないのです。生後半年の子がいるというのは、私たちが保護した小さな命もあり、イレギュラーですが、隔離で子育てをした猫などもいるからです」

――成猫のよさ、成猫の譲渡の意義など、改めて教えてください。

「子猫は体調が急変したり不安定なことも多く、また小さければ小さいほど1日の食事の回数も多くなるため、家に誰かが一日中いないと育てるのが難しいです。一方、おとな猫は比較的健康状態が安定し、お留守番もできます。性格もわかっているので、穏やかに暮らしたい方は静かな猫さんを、子猫っぽいいたずら好きな猫を希望する方は、まだまだ子供のハートが残る甘えん坊な子を、シニアのご家族の場合は、自分たちの先のことを考え少し年齢が高い猫さんをという風に、譲渡希望者のライフスタイルに合わせて迎えたい猫を決めることができます。これを“マッチング”と呼んでいます。よい環境に移り、おとな猫の魅力など、もっと伝えていきたいですね」

保護猫カフェ
窓がない現在のキャットルーム(猫の館ME提供)

――通常、どのくらいの期間、保護猫カフェに滞在するのですか?

「だいたい1年未満で卒業しますが、人なれしていない子、年齢を重ねている子、疾患がある子は簡単ではありません。たとえばパンくんとネロくんという黒猫兄弟は、保護猫カフェに2015年から3年も入居していました。もともと私がキャットシッター業で通っていたお宅の前に姿を現した猫です。本来、直接の保護はしませんが、そのお宅の方から家族探しを手伝って欲しいとのことでカフェに入居。ネロくんはひとりでトライアルに出ましたが、鳴き続けてお客様が根負け……カフェに戻ってきた後、兄弟一緒に良縁に恵まれ卒業し、甘えん坊を発揮して幸せに過ごしています」

「すももという黒猫は、5年前にシニアで入居してきたのですが、3年の保護猫カフェ生活を経て、一昨年、私自身が引き取る形で159番目の卒業生となりました。カフェに来た当初は元のお家に帰りたいと思ったのか、毎晩悲しい声で鳴いていました。本当は甘えん坊だったのに全く知らない環境に来て混乱していたのでしょう。その後、口内炎で痩せて全抜歯……。体重は戻りましたが卒業は厳しいと感じ、療養も兼ねて私が引き取りました。今はゆったり暮らし、サロンで猫ヨガなどを開く時におもてなしをしています。難しいと思われる猫も、時間をかけて愛情を注げば心を開いてくれます。移転後コロナの心配がなくなったらヨガも講習も再開したいですね」

カレンダー
2022年のチャリティー壁掛けカレンダー(猫の館ME提供)

大規模なクラウドファンディング

――コロナ禍で、猫の館MEはどのような影響を受けましたか?

「保護猫カフェは “不要不急のお出かけ先”ですから、緊急事態宣言の際は当然、ご来館を控えていただくよう営業を自粛しました。その後、ソーシャルディスタンスを考え定員を半分の5人に制限し、現在に至っています。平日の影響は少ないのですが、問題は稼ぎ時の週末です。もともと小規模なお店で、週末に6人目以降のお客様はお断りするわけです。これでは全く収益が確保できず、正直とても経営は苦しいです」

「猫の館MEは、保護猫カフェ部門、キャットシッター業、猫用品などの物販を主な柱としています。保護猫カフェ部門に加えて、もう一つの柱のキャットシッター業も、コロナで立ち行かなくなりました。家族がお出かけしている間にお家で留守番する猫さんのお世話サービスですから、ステイホームで人々が旅行や出張をしなくなり、昨年は何カ月も仕事が0件という時期が続きました。シッター部門は本来、事業の大きな柱なので本当に大変でした。3つ目の柱の物販があったから何とか潰れずに来られましたが、それでも2つの事業を全てカバーはできていません」

事業概要図
猫の館MEの事業概要。「移転して譲渡を加速させたい」と小倉さん(猫の館ME提供)

――今回の移転に伴い、大規模なクラウドファンディングに挑戦したそうですね。目標額など、教えてください

「猫実の猫カフェの広さは今の約2倍になります。せっかく来たありがたい移転話なのに十分な移転資金がないため、周囲の勧めもあり初のクラウドファンディングに挑戦しました。現在プロジェクトが走っている最中です。最終目標額は1200万円という大規模なもの。基本的な内装工事から始まり、できれば猫たちが喜ぶ床暖房やキャットステップ、譲渡会コーナーに区切れる移動壁、今まではプリンターで済ませていた看板設置などを、3段階に分けて、ゴールを設定しています。ありがたいことに、最初の50時間で500万円を超えました」

「今回の移転では、商業猫カフェに引けを取らない魅力的な空間を作ることで保護猫のことをよく知らない一般の方にも自然に通っていただければ、入館料だけでもある程度収益が確保できるようになるのではないかと考えています。しかも、今回は駅から徒歩圏内でアクセスが良くなります。来館者数が増えればそれだけ譲渡のチャンスも広がるため、譲渡の加速が見込めます。お部屋も広くなるので入居する猫さんも増やせます。猫さんにとって良いことを実現するため、不退転の決意でプロジェクトを決断しました。保護猫カフェで1000万円規模のクラファンはそれほど前例がないかもしれませんね。ですが今までも、誰もやって来なかった前例のないことにチャレンジしている企業なので、今回も前進するしかありません」

いつか猫実祭を

――来年は、猫科のとら年、こういう年にしたい、こんな店にしたいというような抱負をお願いします。

「猫の日オープンに加え、なんて猫づくしなのでしょう!(笑)。猫さまのために前進するのは当然のこととして、せっかく珍しい猫の付く地名『猫実』の保護猫カフェをオープンすることになるので、そのうち近隣のお店さんと一緒に『猫実ねこ祭』のようなものを実現して、地域の町おこしのようなイベントも展開できたらいいなあ、と妄想中です」

「今度のお店は、地元の人に愛されている豊受神社の目の前なのです。もちろん猫実にある神社なので、御朱印帳に猫が描かれているのですよ。おちゃめですよね。なので、ご利用するお客様も、『猫の館ME』で猫さんと触れ合っていただき、豊受神社でおまいりして、他にも猫好きな方が経営しているお店もたくさんあるので、そんな“猫実巡り”をしてもらえたらうれしいです」

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◆猫の館MEのクラウドファンディングは12月27日午後11時まで。

藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は19歳の黒猫イヌオと、5歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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