猫エイズ陽性の猫のための保護猫カフェ 家族との幸せな出会いの場を目指して

保護猫カフェの猫
「保護猫カフェさくら2号店」の受付でお出迎えしてくれたハニー君

 猫免疫不全ウイルス感染症(FIV、通称猫エイズ)のことを正しく発信し、キャリアの猫たちにも家族を見つけて幸せを……野良猫の不妊手術に尽力する獣医師と、保護猫活動をするボランティアたちが願いを込めて、FIVキャリアの猫だけが待つ保護猫カフェをオープンした。

(末尾に写真特集があります)

猫エイズ陽性の猫だけのカフェ

 埼玉県越谷市。東武スカイツリーライン越谷駅から徒歩4分の建物の2階に、4月にオープンしたばかりの「保護猫カフェさくら2号店」がある。

 ドアを開けると、受付のカウンターで可愛いらしい茶トラ猫が出迎えてくれた。「僕を見て~」というようにアピールしている。

「この子は5歳のハニー君。このカフェには今、雌6匹、雄5匹の計11匹の猫がいます(6月16日時点)。トライアルに出た子もいます」

 同カフェの運営ボランティアスタッフの総括、高橋未里さん(26歳)が説明してくれた。

保護猫カフェ
天井からつるされた桜の花びら型ステップ。上に乗る猫も、下から見る人も楽しそう(保護猫カフェさくら提供)

 部屋の広さは52平米。ピンク色の天井には、桜の絵が描かれ、透明な桜型のキャットステップが取り付けられている。装飾などは運営ボランティアスタッフが考えたそうだ。

 じゅうたんを敷いた床にはテーブルと座布団が置かれ、2匹、3匹と集まり、いつしかゴローン。

「人が猫と添い寝することもできます(笑)。“保護猫とゴロ寝もできちゃう”のがお店のコンセプトなので。ここにいる猫たちは猫エイズ陽性ですが、カフェを通して、猫エイズについて知ってもらったり、いろいろ発信ができたらいいなと思っています」

 そもそも猫エイズは、猫免疫不全ウイルスの感染によって引き起こされるさまざまな症状のこと。人と猫の間でウイルスが感染することはなく、主に猫同士の激しいかみあいの傷から感染する。感染すると軟便などの症状が出ることもあるが、その後、“無症状”となることが多く、そうした猫を「FIV無症状キャリア猫」と呼ぶ。

 発症すれば口内炎など慢性の病気が進行するが、すべての猫エイズ陽性の猫が発症するわけではない。発症せずに、天寿をまっとうできる猫もいる。

「最近、『先住猫が猫エイズ陽性なので、2匹目も同じ猫エイズ陽性の子を迎えたい』と考える方が増えてきました。でもその一方で、陽性と発症を混同している方もいて、全体的には猫エイズの認知度は低いと思います」

気持ちよさそうにゴロゴロしている猫たち「僕らに会いにきてよ、様子がわかるから」(保護猫カフェさくら提供)

動物病院が運営する保護猫カフェ

「保護猫カフェさくら2号店」から徒歩2分のところに、一昨年5月にオープンした「保護猫カフェさくら1号店」がある。20匹以上の大人の猫がいて、オープンからの2年で150匹の正式譲渡が決まったという。

 カフェさくらは、1号店、2号店とも、動物病院が運営している。運営ボランティアスタッフの庄司正子さん(53歳)がいう。

「こちらの保護猫カフェは、野良猫の不妊手術を中心に行っている『いながき動物病院』(本院は越谷市)が運営しています。『いながき動物病院』で不妊手術や診察をしてもらっている自分たちのような保護主(ボランティア)の猫を、カフェで預かってもらい、新たな家族につなげるわけです。今は新型コロナの感染拡大を防ぐため一度に入店できるお客様の数は8人ですが、1号店からはしごする方も多いんですよ。お客様からボランティアになる方もいます」

保護猫カフェの猫
保護主の庄司さんに抱かれる2歳のニコルちゃん。「5年の間に猫エイズ陽性の子を10匹保護しましたが、声がかかりにくくて……」

 この2号店の開業は、コロナも影響している。1号店では以前は一度に20人のお客さんを入れていたが、コロナの影響で入店制限を余儀なくされ、猫が家族を見つける機会も減ってしまった。それを危惧した院長が、保護猫カフェを増やそうと決めたという。

「1号店がオープンした時に猫エイズ部屋を作る話もありましたが、その時はかなわなかったので、今回実現して私たちボランティアもうれしいです。広々した部屋で猫も楽しそうですし」

 長毛のキジのニコル、茶白のレフトとキジ白のジブリール、三毛のみかんと母猫のぼたん、パステルサビのゆら、トライアルが決まったという黒白猫のドロンジョ……カフェにいる猫はみんな可愛くて元気で、言われなければ猫エイズ陽性だということもわからない。

 このカフェに来て健康管理が行き届いたことで、ふっくらした子もいるという。

偏見を減らしたくて

 スタッフたちは、カフェに来たお客さんから、「どのくらい生きる?」「病気の子でしょ?」と質問をされることも多いという。そこで、いながき動物病院の稲垣将治院長に、あらためて猫エイズや、猫エイズ陽性の猫が置かれた状況について聞いてみた。

「猫エイズ陽性の猫は、発症するまで普通の猫と変わらないにもかかわらず、譲渡の条件として圧倒的に不利な状況です。猫エイズに対する偏見が譲渡を困難にしています。発症していない猫は、健康な猫と変わりありません。そこを知ってほしい。発症したとしても、薬を飲みながら症状をコントロールできる時期が長くあります」

保護猫カフェのお客と猫
4歳のぼたんちゃんとまったりくつろぐお客さんの男の子「可愛いね」(保護猫カフェさくら提供)

 猫を飼う人が夢として口にする“目指せ20歳”となると、容易ではないかもしれない。それでも前向きに捉えてほしい、と稲垣院長がいう。

「若い時から猫エイズ陽性で、20歳まで生きた猫は見たことがありません。すごく長くは生きることはできません。しかし10歳を超える猫はたくさんいます。10年間も一緒にいることができたら、猫にとっても飼い主さんにとっても十分幸せな時間だと思います」

 稲垣院長が保護猫カフェさくら2号店を開設したのは、猫の保護に尽力するボランティアたちの負担を軽減すると同時に、猫エイズ陽性の猫にも幸せを味わってほしかったからだ。

「たくさんの猫を抱え忙しいボランティアさんの元では、本当の幸せはつかみにくいと思ったのです。とにかく、2号店をお客様が訪れることで、猫エイズについて正しく知ってもらう機会が増えたらうれしいです。実際に“普通の猫となんら変わらない”ということを、見て触って体験していただくだけでも、意義があります」

保護猫カフェ
1号店は30回以上訪れていて、この日初めて2号店を訪れたという上田さん。「猫エイズ陽性の子は他の猫と変わらないですね」

 猫エイズを勉強した上で店を訪れるお客さんもいる。この日有休を使ってカフェに来たという50代の上田さんは、「家では飼ってないが猫が好きでいろいろ調べている」という。

「猫エイズのことは知っていましたが、私はカフェで猫に遊んでもらっているので、猫エイズ陽性であるとかないとかは、関係ないです。可愛くいい子ばかりでとても癒やされます」

 入場料は1時間1100円、330円でおやつをあげることもできる。オリジナルグッズも売っている。売り上げが保護猫たちの譲渡活動に使われるので、カフェに来て遊ぶだけでも「猫助け」となるのだ。

白黒猫
新たな暮らしをはじめた元ドロンジョこと、みよしちゃん(ご家族提供)

正式譲渡が決まった!

 取材後しばらくして、「5歳のドロンジョがトライアルを経て、正式譲渡が決まった」という知らせが届いた。

 ドロンジョは越谷市の公園の地域猫で、昨年けがを機に、餌やりさんが一時保護。その後ボランティアの庄司さんが家で世話をし、4月に保護猫カフェさくら2号店に来た。

 そのドロンジョを迎えた家族は、埼玉県在住の30代夫婦だ。

1号店が混んでいたので2号店を訪れたところ、ドロンジョに会い、「愛くるしい見た目や人懐こさにひかれた」という。

 猫を飼うのが初めてで、猫エイズについては、「聞いたことはあるが詳しくは知らなかった」という。

 迎えるにあたり葛藤はあったようだ。夫婦が打ち明けてくれた。

「エイズという言葉にインパクトがあるため、受け止めるのに時間がかかったし、猫エイズを詳しく調べる中で不安があったのは事実です。でも、動物を迎えて“命と向き合う”ことに関しては、猫エイズでもそうでなくても変わらないと思い、家族になることを決めました。名前は、おいしくて大好きな飲食店の名から『みよし』と付けました」

 みよしちゃんはトライアルの初日から家を探検し、数日で夫婦に慣れ、ケージを開けると「なでて~」と甘えた。1週間すると、なでられながらウトウト眠るようになったのだとか。

「動物と暮らすことが初めてで最初は緊張しましたが、可愛くて毎日、癒やされています。家に来てくれてうれしい!可愛さが日に日に増して、家猫らしい顔つきになってきました。猫エイズ陽性の子はストレスなく生活することが一番ということなので、幸せに暮らしてほしいと思っています」

 こんな家族の言葉に、送りだしたスタッフたちも「勇気づけられた」という。7月には、牛丸君という猫(取材後入店)がトライアルに出たそうだ。

 今後について、稲垣院長はこんなふうに話してくれた。

「(保護猫カフェを通し)ひとりでも多くの方に猫の問題や活動について知っていただき、『猫は保護猫を飼うのが当たり前』、『野良猫は不妊手術するのが当たり前』という新しい常識を定着させることが、最終的な目標です」

保護猫カフェさくらホームページ

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藤村かおり
小説など創作活動を経て90年代からペットの取材を手がける。2011年~2017年「週刊朝日」記者。2017年から「sippo」ライター。猫歴約30年。今は17歳の黒猫イヌオと、3歳のキジ猫はっぴー(ふまたん)と暮らす。@megmilk8686

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