「切り株ニャンコ」として人気者だった地域猫 21歳で家猫となり悠々生活

 生後半年で捨てられ、地域猫として可愛がられていた「元気」ちゃんは、大きな切り株の上がお気に入り。なつっこい性格から「切り株ニャンコ」として多くの人に親しまれてきた。そんな元気ちゃんも、21歳に。ある事情がきっかけで家猫となり、悠々生活を送り始めた。

(末尾に写真特集があります)

家猫暮らしもまた楽し

 元気ちゃんは、利発そうな青緑の目を持つ21歳のキジトラおばあちゃん。この家にやってきてまだ2カ月足らずだが、外がよく見渡せる2階のスペースが気に入って、のんびり暮らしている。階下には、先住猫が2匹いるけれど、地域で女ボスを張っていた元気ちゃんにしたら「若造」である。気心が知れるまで、まずは2階と1階で住み分けている。

「そのうち少しずつ仲よくなってくれるでしょう」と、元気ちゃんを迎えたG夫妻もゆったり構えている。

抱っこされる猫
G夫妻に甘える元気ちゃん

 しかし、元気ちゃんは、これまでいろんな人に抱っこされたりなでられたりする暮らしを長いこと続けてきたので、ひとりぼっちが大の苦手なのだ。

 できるだけひとりにはしないでいるが、お父さんやお母さんが階下に行ってしばらくすると「にゃーおん、にゃーおん」と大声で呼ぶ。

「トイレ終わったわ。きれいにしに来て」

「小腹がすいた。おやつが食べたい気分だわ」

「ちょっと。誰かかまいに来てちょうだい」

 そのコールがしょっちゅうなので「ナースコールおばあちゃん」という別名をもらってしまった。

「住み分け暮らしが解禁になるまで、私たちは元気おばあちゃんの専属ナースとして呼びつけられたら駆けつけます」と、夫妻はおおらかに笑う。

おやつももらう猫
おやつをもらう元気ちゃん

兄弟で捨てられて

 元気ちゃんは、捨て猫だった。生後半年くらいの時、千葉県内のとある場所に兄妹2匹で捨てられた。

 そこは、商店も立ち並んでたくさんの観光客も行き交う広大な私有地。当時は子猫が遺棄されることも多く、ノラ猫が繁殖を繰り返し、ゴミは荒らされ、生まれた子猫をカラスが襲うというような「猫だまり」だった。猫たちは商店の方たちや近隣住民のお世話でいのちをつないでいた。

 そんな状況に心を痛めた女性が、地域猫として面倒を見たいと、土地の所有者に頼み込み、ボランティア団体を立ち上げたのが、2002年のこと。

 繁殖して増えないように全頭去勢不妊手術をし、地元商店の方たちの協力を得て、給餌とねぐらのお世話を続けてきた。

 2012年に前任者から現場責任を引き継いだグループは、元気ちゃんたちが地域猫としてより暮らしやすくなるよう願って、活動を続けた。活動報告書を近隣に配布したり、土地所有者に報告を上げたり。所有者からは「ごくろうさまです。猫が増えないよう、これからも管理を続けてください」という言葉ももらっていた。

 副代表の齊藤さんは語る。

「当時は、25匹から30匹くらいの猫がグループを作って、広い敷地内に別れて暮らしていました。商店街の人たちもよく面倒を見てくださいました」 

 元気ちゃんのお兄ちゃんは「マルちゃん」という名のキジ白で、「ギャング」というあだ名を持つボス猫に成長した。去勢手術後は、すっかりやさしい猫になり、みんなの人気者だった。10キロを超えていた時期には犬と間違えられることもあったという。

 敷地内には、大きな切り株があって、マル・元気兄妹はそこがお気に入りだった。マルは病を得て、齊藤さんが保護し、最後は腕の中で見送った。

 残された元気ちゃんには健康不安はなく、切り株の上で通る人をいつも和ませた。

女の子に抱っこされる元気ちゃん(2011年)

「出勤前に小一時間元気を抱っこしていくサラリーマンの人もいたし、近くの幼稚園の帰りにいつも切り株の上で元気を抱っこするのが日課の女の子もいました」と、齊藤さんは言う。

心ない観光客が増えた

 この場所は、地域猫のモデルケースにもなりつつあったのだが……。

「猫に会いに行ける場所」として知名度が上がっていくと、元気ちゃんは、いつでも会える「切り株ニャンコ」としてテレビにもたびたび取り上げられ、有名写真家の写真集にも載って、一躍人気者に。

 よそから人がたくさん集まれば、困ったことも付随する。餌の持ち込みが増え、ばらまき餌や置き餌が腐ってカラスが集まったり、おやつの包装などのごみが捨てられたり。商店街の人たちが立てた「餌はやらないで」という立て札も効き目はなかった。

 地域環境美化のためにも、公認団体として正式にきちんと活動させてもらいたいという齊藤さんたちの申し出は、代が変わった土地所有者から断られてしまった。

 この夏、近隣住民が餌やりをしていた観光客に注意したところ、逆切れされて怖い思いをするという出来事が起きた。そのため、近隣住民、土地所有者、市の環境保全課、齊藤さんたちのグループが集まって今後のことを話し合った結果、「地域猫活動は今後認めない」ことが決まってしまった。猫たちのハウスはすぐ撤去された。

 他の猫はまだ若いが、元気ちゃんは21歳になる高齢猫。ハウスなしではこの冬はとても越せまい。グループの一員で、元気ちゃんに毎日ご飯を運んでいたGさんは、齊藤さんと「元気が外での暮らしがきつくなる前に、どっちかが引き取ろうね」と以前から話し合っていた。元気ちゃんはまだまだお達者に見えるが、何かあってからでは遅い。

 人を集める人気者の元気ちゃんを引退させることで、困った観光客が減るのではないかという期待もあった。

「長い外猫生活、お疲れさま!」

なでてもらう猫
きょうは、可愛がってくれていた齊藤さんが遊びに来てくれた

 元気ちゃんに会うことを楽しみにしていた人は地元にとても多い。そんな人たちのために、齊藤さんたちの作ったポスターが町の店先などに貼られている。

 ポスターを見て、元気ちゃんが保護されて家猫となったことを知り、涙を流して喜ぶ住民もいる。

地域に今も貼られているポスター

 敷地内にまだいる猫たちは、商店の人たちが土地所有者に迷惑をかけないように気を配りながらお世話を続けてくれている。譲渡先探しも齊藤さんたちによって続けられている。

 外にいる猫たちの暮らしは、優しい人たちに見守られていても、けっして安泰ではない。「猫天国」などとうわべだけの脚光を浴びることで、この場所のような置き餌やごみ問題だけでなく、連れ去りや虐待、さらなる捨て猫問題が起きる不安も出てくる。

「外猫たちが人々に可愛がられるのはうれしいことです。でも、周りに配慮のない愛情の注ぎ方は、結果として、その子たちの暮らしを追い詰め、居場所を失わせてしまうことがあることをどうか知ってほしい」と齊藤さんたちは願いながら、きょうも地区内のあちこちで見つかる飼い主のいない猫たちを救うべく、地道な活動を続けている。

 元気ちゃんのお気に入りの場所は、切り株の上から、お父さんお母さんのひざの上になった。

「一日も早く先住猫たちとなれて、穏やかに過ごしてほしい」と、G夫妻は願っている。

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」は11年目。

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猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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