ペットショップで販売されるスコティッシュフォールド=太田匡彦撮影(写真は本文と直接関係ありません)
ペットショップで販売されるスコティッシュフォールド=太田匡彦撮影(写真は本文と直接関係ありません)

人気の「折れ耳」スコティッシュは遺伝性疾患 猫が苦しむ恐れ自覚を

 犬種や猫種に特有の遺伝性疾患がいくつも存在します。それは、人が純血種として固定化してきた結果として生じたものです。ただ、人が交配の組み合わせを決めて繁殖、販売する犬猫では、一部の遺伝性疾患は「予防」が可能です。ある3匹の柴犬(しばいぬ)の死をきっかけに、発症すれば死に至る遺伝性疾患「GM1ガングリオシドーシス」=動画=については、繁殖、販売の現場で対策が進み、発症する犬はほとんど見られなくなりました。一方で、適切な予防が行われていなかったり、問題が放置されていたりする種や疾患があります。その典型とも言えるのが、人気猫種のスコティッシュフォールドです。

 猫ブームの影響で、純血種の猫をペットショップで買う消費行動が浸透してきた。この数年、販売頭数は右肩上がりで増えている。なかでも人気なのがスコティッシュフォールドだ。アニコム損害保険の調査では、2021年まで13年連続で人気1位の猫種となっている。

 だが猫種名の由来であり、人気の理由にもなっている「折れ(fold)耳」を、骨軟骨異形成症という、優性遺伝する遺伝性疾患の症状だと知る消費者は、どれだけいるだろうか。原因となる遺伝子を両親から受け継げば重症化して四肢に骨瘤(こつりゅう)ができ、歩く際に脚を引きずるようになったりする。多くの人が飼う、片親からだけ原因遺伝子を受け継ぐことで耳が折れている猫でも、年齢を重ねると四肢の関節が変形する。これらは獣医学的に、痛みが生じると考えられる状態だ。折れ耳スコティッシュの多くが、あまり動きたがらなかったり、動きが遅かったりするのは、痛みのためだと推定されている。動物の遺伝性疾患に詳しい専門家らが、この猫種の繁殖・販売を問題視するゆえんだ。

 そもそも「病気の猫」をあえて繁殖、販売しようとすることに問題があるのだが、実は、小泉進次郎環境相(当時)が「悪質な事業者を排除するために自治体がレッドカードを出しやすい明確な基準にする」と表明して今年6月に施行された環境省令でも、「遺伝性疾患等の問題を生じさせるおそれのある組合せによって繁殖をさせないこと」と定められている。違反した業者には、動物愛護法に基づく改善勧告や業務停止命令などが出される可能性がある。

 スコティッシュの骨軟骨異形成症は優性遺伝するから、折れ耳同士で繁殖すれば75%以上の確率で折れ耳の子猫が生まれ、折れ耳と立ち耳とで繁殖した場合でも50%以上の確率で折れ耳が生まれる。販売されている「折れ耳の子猫」の側から見ると、両親または片親は必ず折れ耳だということになる。つまりペット店の店頭に折れ耳のスコティッシュがいる時点で、省令が禁じる「遺伝性疾患を生じさせるおそれのある組み合わせ」による繁殖が行われたことは明らかなのだ。

 ところが全国のペット店では今日も平然と、折れ耳のスコティッシュが売られている。親犬、親猫の遺伝子検査を進めれば「予防」が可能なほかの遺伝性疾患についても、柴犬で発症するケースが多い「GM1ガングリオシドーシス」など一部を除いて、効果的に減らせていない。人気の犬種・猫種ではむしろ、原因遺伝子を持つ割合が増えている疾患もある。

 業者の自主性に任せていても解決が難しいようなら、法令をもって事に当たるしかない。だが、実際に業者を監視・指導する自治体の現場で、法令の適切な運用ができていない。環境省は自治体に対して法令をしっかりと周知し、少なくとも外見で判断できるスコティッシュが繁殖・販売されているケースについては、業者への指導や処分を徹底するよう促すべきだ。

 また消費者にも、自らの嗜好(しこう)が犬猫たちを苦しめる可能性があることを自覚してほしい。ニーズがなければ、業者もあえて繁殖させないのだから。(太田匡彦)=朝日新聞デジタル2021年10月22日掲載+09:00>

朝日新聞
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