海辺をさまよう猫を放ってはおけない 海と動物を愛する夫妻、野良猫たちの命つなぐ

 海辺に暮らす外猫たちの寿命は、あまりにも短い。生まれては消える命に心を痛めたのは、南房総に移住してきた海を愛する夫妻。周りの猫たちの面倒を見続けてきた。青い空と海に、不幸な猫は似合わない。

(末尾に写真特集があります)

看板猫のお出迎え

 房総半島の最南端、館山市の中心街から海岸線の房総フラワーラインを南へ約10キロ。川名漁港の船着き場のすぐ前に、海好きの集まる「西川名オーシャンパーク」、略してNOPの真っ白な建物はある。

 出迎えてくれたのは、人懐こい長毛黒猫の「もこ」ちゃんと、恥ずかしがり屋のさび猫「さびたん」ちゃん。1階はダイビングセンターで、2階には海雑貨ショップがあり、屋上で海を眺めながらドリンクも飲める、パークの看板猫である。もこは9年前にパークに迷い込み、さびたんは3年前に置き去りにされた子だ。

「南房総は温暖で、県民性も素朴で暮らしやすいところ。猫を可愛がる漁師さんもたくさんいます。それでも外猫の寿命はとても短い。ごはんももらえたりもらえなかったり。不妊手術せずに外に出して飼っていたり、生まれた子猫を捨てたりする風潮もまだまだあって」

「出会った猫たちの手術や保護・譲渡を続けてきましたが、やっと最近周りにノラ猫を見かけなくなって、ほっとしています」

 オーナーの石川文明(ふみあき)・寿摩(すま)夫妻は穏やかな笑顔でそう語る。

ご夫婦と猫たち
5匹の愛猫勢ぞろいの団らんの図。寿摩さんの足元でサビちゃんをグルーミングしてあげる(大きいけど)ちび丸ちゃん

海と動物を愛するふたり

 見るからに「海の男」、よく日に焼けた文明さんは、東京の大島育ち。犬も猫も鳥も魚も、「いっしょに息をしているものたち」はみな友だちだった。そして海をこよなく愛する少年だった。高知の里山育ちの寿摩さんとは、ダイビングを通して結ばれた。

 南房総に移住して17年。自宅近くや漁港で、ひもじそうにさまよう猫に出会うたびに連れ帰り、猫は増えていった。そのため、海辺に借りていた家を購入して、ふたりでリフォーム。壁は白ペンキで塗り、キャットウォークをぐるりと取り付け、猫たちが快適に暮らせることを最優先とした。

 これまでに夫妻は、地域のノラ猫を手術したり、ノラ母さんが産んで連れてきた子や、近辺をさまよう子たちを保護し、譲渡先を探してきた。自宅猫としたのは、譲渡の縁が見つからなかった子たち。多いときで8匹いたが、現在は5匹だ。知人が飼えなくなった犬のヒュー君も、猫たちと仲良く暮らしている。

 年齢を考えると、もうこれ以上は増やすわけにはいかないと、寿摩さんは思っているのだが、ひもじそうにうろつく猫を見ると、文明さんは言うのだ。

「5匹も6匹も、6匹も7匹も、同じじゃないか。ほっとけないよ、連れて帰ろう」

 折れて連れ帰る寿摩さんも、夫と同じく、ほっとけない同志なのである。

海を眺める猫

 自宅は、パークから車で5分。眼下に海辺が広がる家だ。

 現在の飼い猫は、5匹。猫に話しかけるとき、文明さんの穏やかな顔はいっそう穏やかになり、目じりが下がる。そんな夫を「猫おじさん」と呼ぶ寿摩さんだって、少女のように無邪気な顔になっている。

 ここでの一日は、人も猫も、海を眺めることから始まる。夫妻が仕事に出かけている間は、猫たちは思い思いにまったりと過ごす。

窓辺の猫
朝に夕に海を眺める自宅猫たち

 仕事を終えた夫妻にたっぷりと遊んでもらって海辺の夜は更けていく。なんと平和な時間が、ここには流れているのだろう。

 5匹とも、自宅周辺や漁港で生まれたり、捨てられたりしていた子たちだ。

 キジトラのゆずちゃんは、近くの漁港生まれ。9年前、弱って死にそうだったところを引き取った。ちょっと困ったような顔つきだけど、一番の勝気である。

 キジ白の女の子すずちゃんも、9年前にノラきょうだい2匹で保護され、譲渡の縁が見つからず石川家の猫に。おしゃべりが大好きで、脱走もしょっちゅうというアクティブ派。

 鼻周りの模様がユニークなキジ白のちび丸ちゃん。「7年前に保護したときはチビだったのに、今はデブ丸」と、寿摩さんは笑う。明らかに飼い猫だったと思われる状態で、パークに置き捨てられていた。スタッフのマルガリータさんの飼い猫になったものの、一時帰国のため、石川家に。

 サビちゃんは、6年前の西川名生まれ。譲渡の縁がなかったため、石川家に。シャイなサビちゃんは抱っこが苦手なのに、寝るときは夫妻の体の上に乗ってくる。

 末っ子のキジトラ、ミーツーちゃんは、4年前に、家に勝手に入り込んでいた押しかけ猫だ。テラスの格子戸の隙間を潜り抜けて留守中に入り込み、勝手に食べたり寝たりしていたらしく、ある日気づくと、部屋の中にいた。食べて大きくなって、格子戸から出られなくなったのだ。先住猫とはとっくに仲良くなっていた。

猫
キャットウォークを歩く、末っ子ミーツ―ちゃん

つながるいのち

 5匹は譲渡先の縁がつながらず、手元に残したが、もらわれてしあわせになった子は20匹近くになる。

 地元の住人がもらってくれたり、お客さんがもらってくれたり、お客さんの知り合いがもらってくれたり。

4649」と書かれた段ボール箱に入れられ、上に重しを置かれて、パークに捨てられていた子猫がいた。「よろしく」という勝手な意味らしい。その子テトは、東京の女性菓子作家にもらわれていき、SNSや雑誌で人気の有名猫になっている。ここからもらわれていって、飼い主さんと一緒にしあわせそうな顔を見せに来る子もいる。

 ダイビングサービスに出入りのお客さんは猫好きが多く、事務所入り口に置かれた募金箱に集まったお金が、手術代や餌代の補助となってくれた。

募金箱
ダイビングセンター入り口には、猫募金箱が

 そして、気がつけば、お腹の大きなノラや、捨てられて衰弱した子猫や、ひもじそうにうろつく猫を近辺で見かけることがなくなっていた。

どの子もしあわせに

「ここまで来るまでには、いろんなことがありましたよ」と、寿摩さんは、振り返る。

 パークで手術済みの猫の世話をしていることで、猫を集めているように見えるのか、近所から苦情が来ることもあった。「うちは雄猫だから手術はしない」という言葉に悔しい思いをしたこともあった。朝、パークにやってきたら捨て猫きょうだいがいて、「またか」と悲しい思いもした。保護したのに、儚はかなく消えていった命に涙したこともあった。

 それでも、コツコツと保護を続けてきたのは、愛する海のそばで、ひもじく短い一生を終える猫の姿など見たくないから。

 苦情を言う人には、「いつもご迷惑をおかけして申し訳ありません」と、低姿勢で接する。不妊手術を不要と考えている人には、せっせと手術をすることで不幸な命がなくなっていくことを見てほしいと願ってきた。

 西川名の海は、海流に恵まれた穏やかな海。水中生物の宝庫である。波風を立てると、人も猫も暮らしにくくなる。海を愛するふたりは、そのことをよくわかっている。

黒猫を抱く男性
温和なもこちゃんは、パークの人気者

「自分たちにできることは限られているけれど、頼ってきた子や出会ってしまった子を見捨てることはできなかったなあ」

「この地で、縁あって出会った猫たちや地元の人たちと、これからも仲良く穏やかに暮らしていけたら。そして、いろいろな町で暮らすどの子も、穏やかに暮らしていけますように」

 そう言ってほほ笑むふたりのそばに、猫たちが、「お父さん、お母さん、遊ぼうよ」と寄っていく。窓から見える海の色は、きょうも穏やかなトパーズ・ブルーだ。

(文・佐竹茉莉子 写真・芳澤ルミ子)

■西川名オーシャンパーク
住所:千葉県館山市西川名849-4
TEL:0470-29-1411
公式サイト:http://nop.chips.jp
Twitter:@nishikawana
Facebook:@nishikawana

■海雑貨&BAR Aperitivo
西川名オーシャンパーク2F
Twitter:@BAperitivo

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