坂上忍さん「命の尊さと儚さを伝えたい」 映画『リクはよわくない』インタビュー

 大の愛犬家、愛猫家として知られ、今や14匹の犬と8匹の猫と暮らしている坂上忍さん。そんな彼がさらに動物愛を深めるきっかけとなったのが、イタリアン・グレーハウンドの「リク」でした。その出会いと別れを描き、話題を呼んでいる絵本『リクはよわくない』がアニメーション映画化。9月4日、スペースFS汐留にて、映画の完成披露イベントが行われました。

(末尾に写真特集があります)

動物と生きることは、命の責任を負うこと

 イベントには、坂上忍さん、絵本のイラストを担当した野性爆弾のくっきー!さん、そして森川智之さん、松本梨香さん、という声優陣ふたりが登壇。…と思いきや、坂上さんの愛犬、トイプードルのテンくんも登場! 坂上さんを追いかけたテンくんが客席へ駆け出し、観客にあいさつして回るというキュートなサプライズも。

リクはよわくない完成披露
左から、松本梨香さん、くっきー!さん、坂上忍さん、森川智之さん

 坂上さんとくっきー!さんは、テレビ『坂上どうぶつ王国』でも共演する仲。さすが息の合ったやりとりで会場を盛り上げます。また、ずっと動物と暮らしてきたという松本さんは「小さなころ、深い川に近づく私に『そっちは危ない!』とほえて教えてくれたり、親に叱られた夜、犬小屋で一緒に眠ったりなど、感謝してもしきれない」という愛あふれるワンコエピソードを披露してくれました。

 すると森川さんも、「10数年前に旅立った愛犬の名前を愛車の名前に、そして会社名にもしてしまいました。私こそが犬なんです!(笑)」と力説し、会場を沸かせます。さらに坂上さんは、自身が絵本を手がけることになったきっかけをこう語ってくれました。

「毎年訪れている東北地方で、子供への読み聞かせを頼まれたんですよ。子供は正直なので、飽きられたらどうしようと内心ヒヤヒヤ。ところがすごい集中して、一生懸命聞いてくれた。絵本に携わってみたいと思ったのはそのときです。そして僕が手がけるのであれば、動物がテーマだろうなと考えるようになりました」

 ただ、子供向けの絵本だからこそ、盛り込みたい要素があったのだとか。

「動物と生きる楽しさに加えて、一緒に暮らすことの大変さ、責任、そして必ず訪れる別れ。さらにもし失敗したときの大きな後悔まで、伝えたいと思ったんです」

リクはよわくない完成披露
坂上さんはテンくんを、ほかの3人は映画のキャラクターのぬいぐるみを抱いて「はい、ポーズ!」

いつも「ワンちゃんファーストかどうか」を考える

 映画『リクはよわくない』は、5歳の「ぼく」が子犬のリクとの交流を通して、命の大切さを学んでいくストーリー。怖がりでやせっぽちのリクに対し、お兄さん犬4匹と一緒に遊び、ごはんを食べ、そうすれば元気になると信じて全力で愛を注ぐ、宝物のような日々が描かれています。

「映画で印象に残ったのは、満開の桜の下でリクがうれしそうに走り回っているシーン。僕がさせてあげられなかったことなので、強烈に胸に迫ってきました。また成長した『ぼく』が、これからもずっとたくさんの犬たちと暮らしていくと語るシーンも。絵本では自分に対しての覚悟を込めて描いたものですが、映像で観るとまたひと味違って、温かい気持ちになりました」

 坂上さんが動物と暮らす上で、いつも自分に問いかけていること。それが「ワンちゃんファーストかどうか」なのだそう。

「自分のやり方を肯定したいだけではないか、人間の生き方に寄せてしまっていないか、常に考えるようにしています。つい最近もこんなことがありました。毎日14匹の犬を6組に分けて散歩しているのですが、2組目の高橋(ヨースケ)、ブー太郎、ハルというチームは、高橋くんだけ11歳半。このところ歩くスピードが落ちていたのですが、まだ大丈夫と過信していたんです。

 でもやっぱりおかしいと思い、ようやくコースを変えてみたら、すごく元気に歩いたんですよね。ああ、なぜもっと早くそうしなかったのか、自分を責めて責めて、めちゃくちゃ落ち込みました。『君はうちに来て、本当に幸せですか?』。全員にそう尋ねてます。でもへこたれてはいられない。だから常に試行錯誤。そんな日々の繰り返しです」

坂上忍と愛犬、リクはよわくない
テンくんの愛らしさに、思わず目尻が下がってしまう

リクが教えてくれた、命のリレー

 さらなる見どころは、ツトム、ヨースケ、マルちゃん、パグゾウというお兄ちゃん犬とリク、その個性豊かな5匹が繰り広げる愛らしいやりとり。愛犬家なら「あるある!」「わかる〜」とひざを打ちたくなるワンコエピソードが盛り込まれています。

「犬ってすごいんですよ。こんなに大勢で暮らしていたら、もちろんいがみ合いだってあります。でもね、こちらが手を出さなくても、犬同士でどうにか折り合いをつけている。血が繋がっていない、犬種だって違うにもかかわらず、お互いの凹凸を自然に埋め合う。それはもう見事としか言いようがない。僕たち人間が見習うべき点だと思いますね」

 坂上さんのなかで忘れられないリクとのエピソードを伺うと、命をもって教えてくれた大切なことについて、ゆっくり語ってくれました。

「リクが亡くなるときのこと、彼は僕のひざの上で静かに息を引き取りました。誰も気づかないなかで、マルちゃんだけがトコトコとそばに来て、亡きがらをずっとずっと見つめていたんです。その姿をただぼんやりと眺めていると、僕の頭の中にいろんな考えが降りてきました。

『こういう病弱な子がいることはよくわかった。ならばメソメソしている場合じゃない。リクが空けてくれたこのひと席に、誰かを迎え入れてあげなきゃいけない』。なぜかそう思ってしまった。あとから思えば、それがペットロスになるか、そうでないかの分かれ目だったのかもしれません。そしてもう数日後には、我が家に太陽くんがやってきたのですから」

坂上忍と愛犬、リクはよわくない
絵本のキャラクターのぬいぐるみ(左からマルちゃん、ツトム、リク、ヨースケ、パグゾウ)とともに

 命を見送った坂上さんは、また新しい命を迎え入れて、立ち直っていったのでしょうか。

「いや、違いますね。僕は多分、まだ立ち直ってなんかいないと思いますよ。だからこそ継続できているし、だからこそ絵本もつくった。答え探しや穴埋めはもちろん前向きな作業だけど、だからといって明確な答えがないことも、どこかでうっすらわかっているんです。

 でもそれでも継続することで『こんなことかなぁ』と、いつかどこかで感じることができればいいなと。変な話、ずっとペットロスですよ。それでも今、これだけの命を抱えちゃっているのでね。だから僕は、今日もせっせとうんちを拾う、明日も、明後日も(笑)。それを続けていく。ただそれだけです」

『リクはよわくない』
2021年10月1日(金)全国ロードショー
声の出演:森川智之 杉田智和 森久保祥太郎 花江夏樹 浅野真澄 松本梨香ほか
原作:「リクはよわくない」作:坂上忍/絵:くっきー!(インプレス刊)
監督:荒川眞嗣 
配給:東京テアトル/チャンスイン
『リクはよわくない』公式ホームページ https://riku-movie.com/
©坂上忍/くっきー!/インプレス/MMDGP/リクはよわくない製作委員会

(写真:土居麻紀子)

本庄真穂
編集プロダクションに勤務のち独立、フリーランスエディター・ライターとなる。女性誌、男性誌、機内誌ほかにて、ペット、ファッション、アート、トラベル、ライフスタイル、人物インタビューほか、ジャンルとテーマを超えて、企画・編集・ライティングに携わる。

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