愛犬を看取って押し寄せた後悔 はたして延命は正しい選択だったのか

横たわる犬
介護が始まったころのクーパー。「悔いのない看取りは飼い主の心も救ってくれる」と橋本さん(写真提供:橋本さん)

 いつかやってくる愛犬の介護と、その先にある別れ。15歳の愛犬を見送った橋本さんは、「自分が無知だったことで、結果的に最期までつらい思いをさせてしまったのではないか」と後悔しているという。愛犬の介護を経験して気づいたこと、終末期の過ごし方や乗り越え方を聞いた。

初めての介護、ホームセンターで介護グッズ探し

 子どものころから犬が身近にいた橋本さんは、今までに7頭の犬と暮らしてきた。初めて自分の手で介護から看取りまで行ったのは、6頭目のヨークシャー・テリアのクーパー。名前をつけたのは橋本さんで、思い入れのある愛犬の1頭だ。

「クーパーは10歳をすぎてからだんだん寝る時間が長くなり、筋肉も少しずつ減って活発に走らなくなってきました。それから目が白くなったり歯が抜けたりしてゆるやかに歳をとってきましたが、急に衰えが進んだのは15歳になったころから。狭いところに入ると後退できず、くるくる回る徘徊(はいかい)も始まって、動物病院で認知症と診断されたんです」

 今から15年ほど前は老犬介護の情報が少なかったので、ホームセンターへ行くたびにアンテナを張って探していた。たとえば狭いところに詰められるクッションや、家具の角を覆うカバーなどが役に立ったという。今なら100円ショップでも手軽にそろえられる。

「徘徊の対策には子ども用のビニールプールが役立ちました。クーパーがぶつかっても痛くないし、へりに沿って好きなだけ歩いていられます。トイレシートを敷いても歩いているうちにぐしゃぐしゃになってしまうので、人用の大判の介護シートを敷いていました」

 じゃばら状の風呂のふたをつなげてサークルを作ったこともあった。プラスチックなのでぶつかったときの衝撃をやわらげられると思ったが、小型犬には高すぎて閉塞感(へいそくかん)があり、倒れたときに危険なのでやめた。当時は動物用の介護グッズが少なく、試行錯誤を繰り返していたという。

ヨークシャー・テリア
初めて介護と看取りをした愛犬のクーパー(写真提供:橋本さん)

夜鳴きを改善できたが、床ずれの対策は難しい

 クーパーは認知症の症状が出てから、3カ月後には自力で起き上がれなくなった。介助をしなければ寝たきりの状態だが、橋本さんは心身に良い刺激を与えるために外へ連れ出したり、起こしてマッサージをしたりすることに。

「進行を遅らせるには、五感を使わせることや起き上がった体勢を維持することが大事だと思ったからです。クーパーは後ろ足がうまく動かせなくなっても、歩行補助ハーネスをつければ前脚でゆっくり歩けました。できることは自力でがんばってもらうことも必要ですね。昼夜逆転して夜鳴きが始まったときは、外出やひなたぼっこを増やしたら収まりました」

 橋本さんは工夫しながら介護をしてきたが、最も難しかったのは床ずれの対策。人用の体圧分散マットやビーズクッションをはじめさまざまな介護グッズを試したが、満足いくものにはたどり着けなかったという。

「寝たきりになってから痩せてしまったので、骨が皮膚を圧迫してしまうんです。数時間おきに体位を変えたりしても床ずれの傷がなかなかふさがらなくて、痛々しい姿になってしまってかわいそうでした」

 現在はより良い介護グッズが登場しているので、早めに導入すれば床ずれを予防できるかもしれないという。

食事はスプーンより手であげるほうが食べてくれた

 寝たきりになってから食が細くなっていったので、シニア用フードを温めてにおいを出したり、鶏肉をトッピングしたりして食欲の維持に努めた。

「クーパーはスプーンではうまく食べられませんでしたが、私が体を起こして支えながらフードや鶏肉をつまんであげると食べてくれたんですよ。持病がなかったので、いろいろな好物をあげられたのもよかったかもしれません」

 それから3カ月が過ぎると飲み込む力が弱くなってきたので、液状にしたフードや水をシリンジであげていた。しかし口や鼻から漏れてしまうようになり、誤嚥(ごえん)を心配した橋本さんは、動物病院での点滴に切り替えることに。衰えていくクーパーのためにできることをしたいと、延命治療にかじを切った。

良かれと思った選択が苦しみを長引かせてしまったかもしれない

「16歳を迎える前に、クーパーは老衰で静かに亡くなりました。私は看取ることができましたが、途端に罪悪感が押し寄せてきたんです。亡くなった悲しさよりも、苦しみを長引かせてしまったという後悔。介護をしているときは必死で、何でもやってあげたいと思っていました。それは一緒にいたい、別れたくないという私の気持ちを押しつけてしまっていたのではないかと」

ポメラニアン
現在の愛犬、ポメラニアンのココは9歳(写真提供:橋本さん)

 犬は自分の最期を飼い主に委ねることになる。日本では人の医療で認められていない安楽死も、飼い主が望めば選択できる。

「長生きしてほしいという私の気持ちより、クーパーの痛みや苦しみを解放することを優先するべきでした。当時は延命治療以外の方法を知らなかったので、最期までつらい思いをさせてしまったように思います。安楽死を選びたかったわけではありませんが、たとえば緩和ケアやセカンドオピニオン、東洋医学などの選択肢を知っていたなら、クーパーを痛みや苦しみから開放してあげられたのではないかと思います。もっと納得のいく介護ができたかもしないという思いは今でも消えません」

 橋本さんはクーパーを看取ってから4年後、保護犬のココを迎えた。将来の介護に備えて動物関連の資格を取得したという。

「クーパーの介護は手探りのことが多かったので、ココのためにも知識を増やしておきたいんです。東洋医学やアニマル・コミュニケーションなど、いろいろな選択肢をもつことにつながるので。実は安楽死を引き受けてくれる獣医師にもいろいろなお話をうかがっています。安楽死について考えたくありませんが、有効な治療もないままひどく苦しませるだけの状況になってしまったとき、何も知らない何もできない飼い主ではいたくないのです」

 より良い別れのために、愛犬の最期に備える。かかりつけの獣医師と安楽死について、話し合っておくことも必要だ。橋本さんは自分の経験やクーパーから教えられたことを伝えていきたいと考えている。

「誰のための選択なのか。看取りだけでなく、愛犬との暮らしで常に考えるべきだと思います」

金子志緒
ライター・編集者。レコード会社と出版社勤務を経てフリーランスになり、動物に関する記事、雑誌、書籍の制作を手がける。愛玩動物飼養管理士1級、防災士、いけばな草月流師範。甲斐犬のサウザーと暮らす。www.shimashimaoffice.work

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