猫を連れて海外に引っ越し 経験者に聞く必要な準備と現地のペット事情とは
夫の転勤で、愛猫3匹とともに日本からシンガポールに転居したりょこさん。その後、再びの転勤でマレーシアへ。転勤先でも猫を迎え、現在は6匹の猫と夫婦2人で暮らしている。
今回は、オンラインツールを使ってマレーシアのりょこさんに取材し、猫を連れての海外転居で苦労したことや発見したこと、シンガポールやマレーシアのペット事情について伺った。
出国・入国の検疫が難関!
りょこさん夫婦が日本からシンガポールに移り住んだのは2017年の1月。日本で一緒に暮らしていた愛猫、パズー(雄・当時5歳)、シータ(雌・当時3歳)、ムスカ(雄・当時5歳)の3匹を現地に連れて行くために、約4カ月前から検疫の準備を行った。
「日本での出国検疫の手続きとシンガポールの入国検疫の手続きは同時進行で進める必要がありました。我が家は3匹いることもあり、仕事をしながらの手続きはとにかく大変でしたね」とりょこさんは振り返る。
りょこさんが出国準備をしていた2016年当時の一般的な手続きは、マイクロチップの装着、狂犬病の予防接種、混合ワクチン、ノミ・ダニ駆除、内部寄生虫駆除、日本の出国検疫とシンガポールの入国検疫の申請など。中でも時間と手間がかかったのは、狂犬病の予防接種だ。1回目の接種から1カ月空けて2回目の接種、その後、抗体の確認をするために動物病院で血清を作ってもらい、専門機関で抗体検査にかける必要があった。
「あらかじめやることを整理して手順を考えておかないと、確実に混乱してしまいます。夫は英語が堪能なこともあり、我が家はなんとか乗り切りましたが、もし自力での手続きに自信がなかったら、輸入代行業者にお任せすすのがおすすめですよ」とりょこさん。もし現地に到着して手続き漏れが見つかったら、最悪の場合猫たちが空港から出られないということも。業者に任せれば費用はかかるが、手続き漏れの心配がなく自分たちの引っ越しに専念できると話す。
動物が大切にされるシンガポール
シンガポールは、猫を大切にするイスラム教徒や生き物全般を大切にする仏教徒が多い国。りょこさんは現地での暮らしで幾度となく、人々の猫に対する優しさを体感した。
「まず、動物病院での対応が違います!日本では、診察におびえる猫をキャリーケースから引っ張り出す光景がよくみられますが、シンガポールの病院では、猫が自分からキャリーを出てくるまで待っていてくれることがよくありました。中には、キャリーケースを工具で分解して猫に触れずに診察台に出した病院もありました。診察中も先生やスタッフがとてもチヤホヤしてくれるので、うちの猫たちは病院が大好きになり、動物病院に近づくとウキウキしていたものですよ(笑)」
もちろん、街の人々も例外ではない。
「都市部に住んでいる野良猫は多くが避妊・去勢されており、餌をもらって家猫のように肥えています。地域猫がけがをしているときも、誰かが見つけてその日のうちに医療にかけてやっているようでした。みんなが猫に優しいので、外の猫たちも人懐っこい子が多かったですね」
およそ3年間、シンガポールで暮らしたりょこさんは、現地での生活をこう振り返る。
「シンガポールはみんなが猫に優しいし、気候もあたたかく過ごしやすい。おまけに動物医療も発達しているので、私が猫に生まれ変わったらどうにかしてシンガポールで暮らしますね(笑)」
猫と暮らす住居探し
再びの転勤でりょこさん一家がマレーシアに転居したのは2020年の2月。りょこさんによると、マレーシアもシンガポール同様、動物を大切にする人が多く、猫を飼いやすい環境だという。
シンガポールとマレーシア、二つの国で猫と暮らしたりょこさんに、それぞれの国でペットと暮らす際の住居探しについて伺った。
「日本と同じように、まずは猫可物件を条件に探します。私が探してみた限りでは、当時のシンガポールでは、外国人が住む家はほとんどが分譲賃貸。マンションの管理規約にはペットについての記載がないのが一般的で、家賃やクリーニングなどの条件をオーナーに直接交渉すれば、許可をもらえることが多かったです。ただ、宗教上の理由から、オーナーがイスラム教徒の場合犬は不可となることがあるようですね。
マレーシアの場合も分譲賃貸が一般的。その部屋のオーナーがペットを許可していても、マンション自体の管理規約ではペット不可だったりするので注意が必要です。また、こちらは借りる側もイスラム教徒が多いので、やはり犬は不可となる部屋が多いようです。ペットを飼いやすいという観点では、マレーシアよりシンガポールの方が見つけやすかったと思いますね」
りょこさんは、現地住居での猫の脱走対策にも気を配った。
シンガポールやマレーシアのマンションは、リビングのドアを開けると直接共用廊下につながっていることが多い。そこで、りょこさんたちは、愛猫たちの脱走対策のために、「プライベートエレベーター」のある物件を選択した。プライベートエレベーターとは、マンションの縦の列が同じ部屋の住人だけが使えるエレベーターのこと。プライベートエレベーターのある部屋はドアを開けても共用廊下にはつながらず、自分たちが使うエレベーターホールに出るので、2重扉と同じ役割を果たしてくれる。
「我が家の甘えん坊、パズーは私たちが外出すると必ずついて来たがるので、シンガポールでも、マレーシアでも、プライベートエレベーターは必須条件で探しました!」とりょこさん。
現地で暮らしたことがない人にとっては見落としがちな部屋の構造。海外で暮らすことになったら、愛猫のためにも脱走対策をどうするかはしっかりとチェックしておきたい。
猫を連れて転居する選択肢を
日本、シンガポール、マレーシアと3カ国で暮らし、転勤のたびに猫を迎えてきたりょこさん一家。
シンガポールで愛猫の1匹、ムスカを亡くし、現地の保護猫カフェから迎えたハク(雄・4歳)、マレーシアで新たに保護したカンタ(雄・1歳)、シャルル(雄・1歳)、クロトワ(雄・1歳)の3兄弟が家族に加わって、現在は2人と6匹でにぎやかに暮らしている。
猫たちとの海外転居生活の中で、特にりょこさんの記憶に残っているのが、シンガポールでハクを迎えた時のこと。
「現地の保護猫カフェにいたハクにとって、日本語は聞きなれない言葉。我が家に来た当初は、褒めたり叱ったりしても、声のニュアンスから読み取れないようでした。でも、猫同士は違いましたね。パズーとハクは初対面から『にゃにゃにゃにゃっ!』とあいさつし合い、お互いに鼻をツンツンすると、すぐに意気投合。そのままパズーがハクを連れて部屋を案内し始めました。国が違っても、『猫同士は言葉が通じるんだ』と、感動しましたね」
今では大の仲良しになったパズーとハク。猫たちがのびのびとコミュニケーションを取り合う姿は、コロナ禍で街がロックダウンを行い、外出を禁じられた辛い時期にも、りょこさん夫婦の日々に癒やしを与えてくれた。
最後にりょこさんは、海外転居にペットを連れて行くか迷っている人に自身の経験からメッセージをくれた。
「何があるかわからない世の中だから、大変な海外転居こそ、大事なペットと同時に引っ越すことを考えてみてください。私の周囲では、『少しの転勤だから』とペットを預けて転居したものの、コロナパンデミックで帰国できなくなり、長い間ペットに会えなくなったという人が数人います。私たち自身、シンガポールからマレーシアへの転居の際、コロナが迫ってきたことで、いつ出国できなくなってもおかしくない状況に。当初の予定を変更して、猫と人間と手持ちのスーツケースだけで慌てて引っ越しましたが、猫たちを預けてとりあえず人間だけ引っ越したりしていたら、しばらく会えなくなっていたところでしたから……」
猫を連れての海外転居は、情報が少なく悩む場面も多そうだ。りょこさんの経験をヒントに、大切な家族と一緒に海外生活を満喫してほしい。
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