10年前の震災と先月の大地震 どちらも経験した私が、犬と暮らす人に伝えたいこと

トイプードル「メープル」と「クレープ」
10年前の震災を経験したメープルちゃん(右)と、その後家族になったクレープちゃん(えふさん提供)

 仙台市内のペット可マンションで、トイプードルのメープルちゃん(11歳)とクレープちゃん(6歳)を飼っている、ニックネーム・えふさん。10年前の東日本大震災、そして先月起こった福島県沖地震、両方を経験して感じたことをうかがいました。

(末尾に写真特集があります)

自宅にいたのは中学生の息子と愛犬だけ

 午後のひととき、突然襲い掛かった地震。10年前、えふさんは職場にいました。マンションの自宅には、卒業式の練習を終えて昼過ぎに帰宅していた長男(当時中学2年生)と、愛犬のメープルちゃん(当時1歳半)だけ。

 電話は通じないし街は停電していました。

「息子に聞いたところ、ぐらっときたとき、とっさにメープルを抱っこしたらしいんです。でも、ちょっとゆれが収まったとき、避難訓練で『逃げるための出口を確保する』と教わったことを思い出して、玄関を開けにいった。その時、抱いていたメープルを床におろして、玄関から戻ってみたら、もう姿がなかったそうなんです」

トイプードル「メープル」
3月9日に撮影された、当時2歳のメープルちゃんの写真。その2日後に未曽有の震災に襲われるとは想像すらしていなかったでしょう

 家具という家具はすべて倒れ、冷蔵庫の扉も開いて、中のものが散乱しました。水洗トイレはふたがしてあったにも関わらず、床じゅうが水浸し。

 メープルちゃんは怖がって、どこかに潜んでしまいました。声をかけても鳴き声すらしません。不穏な余震も続いています。玄関が空きっぱなしだから、もしかして出ちゃった? 長男君は必死で呼びかけを続けました。

 やがてご主人が帰宅。倒れた家財道具をどかしながら、大人も加わって探しますが見つかりません。「まさか、家具の下敷きになって死んでしまったのでは……」

 最悪を想定したころ、どこからともなく、メープルちゃんが姿を現しました!

避難所は受け入れてくれない

 メープルちゃんを確保して安心したお父さんは、近くまで車で帰ってきていたえふさんを迎えに行きます。そのときは車に、長男とメープルちゃんも連れていました。

「何が起きてもおかしくない状況でしたから、わずかな時間でも家族が離れ離れになるのが怖かった。もしかしたら二度と家には入れないかもしれない。そんな思いだったと思います」

 一旦、家族そろって家に戻ったもののとても暮らせる状況ではありません。避難所に行こうか……と思っていたところ、近所の人たちから聞こえてきたのが「ペットを連れていると、避難所には入れないらしい」という声。

「ペット可のマンションだったので、かなりの方々が何かしら動物を飼っていました。みんな不安で、情報交換をしていたんです」

 結局、えふさん家族は、隣県の被害の少なかったご主人の実家に向かうことにしました。連絡が取れないので心配だし、仙台よりも被害が少ないのでは?と考えてのことでした。

散歩中のトイプードル「メープル」
2011年4月下旬に撮影された散歩中の写真。このころにようやくライフラインが復旧したそう。震災直後は写真を撮る余裕もなかったとえふさんは振り返ります

 とりあえず、持てるだけの荷物を用意。メープルちゃんのペットフード、ペットシーツ、リード。ペットキャリーはなかったので、お出かけ用のワンコバッグ(バッグ型キャリー)に入れて、キャリーの中でリードも固定しました。人間は持てるだけの着替えと、貴重品のみ。

 そうして、普段なら1~2時間で行ける実家に、5時間ほどかけて到着したのです。

緊急地震速報を怖がるようになった

 震災の前まで、えふさん宅では、メープルちゃんをケージで飼っていました。

 夜寝る間はケージの中。夫婦が会社に出かけ、長男が登校したあともケージでお留守番。一番最初に帰宅するのが長男なので、帰ってきたらケージから出して遊ばせてあげる、という生活でした。

「メープルはとにかく、緊急地震速報の音におびえるようになりました。ひっきりなしの余震で音は鳴りっぱなし。そのたびに人間が悲鳴を上げたり、あたふた騒いだり。物が落ちて大きな音がしたり。それで覚えちゃったんですね」

 夜はケージに入って寝る習慣だったのに、片時も人間から離れようとしなくなりました。ちょっとの物音におびえ、寝る時も抱いていてもらわないと眠れないほどに。

トイプードル「メープル」
最近のメープルちゃん。10年経ってもまだ若々しい姿。未来に進むイメージで撮ってくださったとか

 幸い、ご主人の実家は、仙台よりも被害が少なくてすみました。いったん避難所へ行っていたご両親も戻ってきて、停電・断水はあるものの、そこで10日ほど過ごすことができました。

「仙台の家に戻ってみて、仕事にも復帰。家を少しずつ片付けながら、マンションが被害を受けたので書類を提出したり、雑務に追われました。ライフラインが完全復旧したのは4月上旬のことでした」

この10年で変わったこと・備えたこと

 2021年2月13日。バレンタインデーの前夜遅く、ふたたび東北地方を最大震度6強のゆれが襲いました。そのときのえふさん宅はどんな様子だったのでしょう。

「中学生だった息子は独立して、今は私たち夫婦と犬2匹、11歳になったメープルと、同じトイプードルで6歳のクレープだけです。先日の地震で、家の中が散らかったのはあの時と同じ。トイレの床は今回も水浸しでした。が、家具類はすべて転倒防止の補強をしてありましたし、上にのっていたものが落ちたり、流しにあった食器が割れた程度です」

トイプードル「クレープ」
震災のあと、新しく家族になったクレープちゃん

 10年前の教訓から、食器は極力減らして使う分だけにし、食器棚もえふさんの背丈より低い、小さいものに変えました。

「10年前、冷蔵庫の中身が飛び出していたのを思い出して、私、とっさに冷蔵庫をおさえてたんですよ。考えてみたら危険ですよね。でも頭の中では『食べものが散乱して、メープルとクレープが食べちゃったらどうしよう』って、どうでもいいことを考えていました(笑)」
どんなに備えているつもりでも、恐怖はよみがえるし、頭は混乱するものです。

 そのほか、どんなことが変わったでしょう?

「メープルは10年前の被災を境に、どうしてもケージでは寝られなくなりましたが、クレープは昔のメープルのようにケージで過ごすようにしつけています。実は10年前、家を片付けていたら、メープルが使っていたケージがつぶれていたのがわかったんです。すぐそばに本棚があって、重たいものが落ちたんですね。もし息子が帰宅してケージから出していなかったら、ケガをしていたか、死んでいたかもしれない。そう思うとぞっとしました」

 今、クレープちゃんのケージは何があっても物が倒れてこない、落ちてこない位置にセットしてあります。

 10年前、入手が困難だったペットフードやペットシーツ、マナーパンツや予備のリードなどを入れた犬用防災持ち出し袋も作り、取り出しやすい場所に置いています。

愛犬用持ち出し袋の中身
えふさんが用意している持ち出し袋。中身はドッグフード、おやつ類、水飲み、水入れ、トイレシート、マナーパンツ、うんち袋、トイレットペーパー、おしりふき、リード、ハーネス、服、ブランケット等

 最後に、同じように犬を飼っている飼い主さんに伝えたいことは?

「家では首輪をはずしている、という方が結構いると思うのですが、首輪はできればつけてあげて欲しいです。災害のさなかに犬を捕まえようとしても、首輪がないとつかむところがありません。犬もパニックになりますから、扉を開けた瞬間に飛び出すことだってあります。できれば日ごろから首輪やネックレスなどつけて、万が一の時に、すぐにリードをつけられるようにしておけば、飛び出しのリスクが減らせるのではないかと思います。車に乗せる時も飛び出さないように車内で固定。それだけでも家族がはぐれるという悲劇は避けられると思います」

(写真提供:えふさん)

えふさんのInstagram:@maple13.crepe28

浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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