もう犬とは暮らせないと思っていた でも一歩踏み出したら、幸せと「色」が戻ってきた

青空の下、気持ちよさそうに笑うミックス犬「桃太郎くん」
ミックス犬「桃太郎くん」。うひゃー気持ちいいー! ……と言っていそう

 先代のあおくん(フレンチブルドッグ)は、家族はもちろん、誰からも愛されるワンコだった。

「運動オンチで、ドッグランでもランしない(笑)。私たちのひざの上でまったりするのが好きで、猫みたい。ちょっとドジで、本当に愛すべきキャラでした」

(末尾に写真特集があります)

愛犬の死で、すべての「色」が消えた

 7歳のときに悪性リンパ腫が発覚。「余命3週間」と宣告されるも、諦めきれず抗がん剤治療や温熱療法などに踏み切った。すると奇跡的に完全寛解。以降、短頭種ならではの皮膚や呼吸器系の弱さはあったものの、家族とともに穏やかな日々を過ごし、13歳を迎えた。

 ある日、一緒に寝ているあおくんの息が荒いことに気づき、病院に駆け込んだ。すぐに酸素吸入などの処置がされたが、3日後、誤嚥性肺炎であおくんは虹の橋へ旅立った

フレンチブルドッグ「あおくん」
先代犬のフレンチ・ブルドッグ「あおくん」。これまた笑顔がステキなイケワン

「長患いで苦しむこともなかったし、私たち家族もできることはやり切った。ある意味、納得して見送ることができたと思っています」とお母さんは振り返る。しかし言葉とは裏腹に、心はついていくことができなかった。

「これまで見てきた当たり前の光景から、すべての『色』が消えてしまいました」

 悲しみにくれるお母さんを励まそうと、家族は旅行やハイキングに連れ出してくれたが、どこに行ってもあおくんのことばかり考えてしまう。ペットロスという言葉では処理できないほどの喪失感だった。

「時が経てばきっと、と思いながらも、この悲しみを超えられる日なんて本当にくるんだろうか……と」

 犬を失った悲しみは犬でしか埋められない、と言われる。しかしお母さんは、あおくんを失ったことがあまりにも辛く、次の子をという気持ちにはなれなかった。

「新しい子をあおの代わりにするのは違うと思ったし、あおの代わりになる子なんていない、とも」

弾ける笑顔に「この子だ!」

 しかし、次に迎えるなら保護犬をという思いも、心の隅っこにあったという。そんな中、Facebookを眺めていると、特にフォローしていたわけでもないのに、ある保護犬ボランティアの投稿がタイムラインに流れてきた。

 おそらく友達がシェアしたのだろうが、なぜか気になったお母さんはその団体のHPにアクセス。すると、弾けるような笑顔の一匹のワンコの写真が目に飛び込んできた。

「この子だ!」

 シェパードの血が入っている?と思わせる風貌の雑種で、フレンチブルドッグのあおくんとはまったく似ていない。なのに、お母さんは運命の出会いを直感した。

笑顔で散歩中のミックス犬「桃太郎くん」
こちらが初めて桃太郎くんを目にしたときの写真

 すぐに連絡をとると、週末に譲渡会があるという。そしてご対面。山で保護されたので詳しくはわからないものの、おそらく月齢10カ月ぐらい。写真以上のとびきりの笑顔を見せてくれたその子に、お母さんの心は決まった。審査は厳しかったもののトントン拍子に話は進み、翌週からトライアルがスタートした。

「最初こそちょっとキョドキョドしていましたが、すぐに好奇心を発揮し遊び始めました。すでに10キロを超えていたのですが、無邪気さは子犬そのもの」とお母さん。

 名前は「桃太郎」に。預かりボランティアさんの家で「キリッとしているから」とつけてもらった名前だ。

「先代のあおもそうですが、色の名前をつけたい、そして次に迎えるなら『桃』にしようと考えていたのです。私がつけたい名前と、預かってくれていた方の思いがつながっているようでうれしくて、そのまま引き継がせてもらうことにしました」

 ボランティアさんの家でラブラドールレトリーバーのお兄ちゃんと仲良く過ごしてきた桃太郎くんは、社会化も問題なし。大型犬になることが予想されたので専門のトレーナーに一度指導してもらうと、すぐにお散歩も気持ちよく歩けるようになった。

じゃれる犬2匹
預かり親さん家での写真。一緒に暮らしたぐぅたお兄ちゃんと

 びっくりするほど手がかからなかった桃太郎くん。「もちろん家具をかじったりクッションを破壊したりと子犬ならではのいたずらはしたけれど、それすらもかわいくて」とお母さんは目を細める。

「素直でまっすぐ。桃太郎はひまわりのような子です」

厳しいリハビリも、一緒だから頑張れた

 お母さんの生活は再び「色」で彩られるように。しかし、桃太郎くんがきてから2年ほどしたころ、お母さんはマラソンの練習の途中に転倒し骨折。4カ月に及ぶ入院生活を強いられた。

「痛みよりも桃太郎と離れ離れになることがさみしく、つらかった。週末ごとに外泊許可を出してもらい、担当医にも呆れられました(笑)」

 退院後の厳しいリハビリには、桃太郎くんが毎日付き合ってくれた。「私の歩調に合わせてゆっくり歩いてくれる。最初は足がうまく動かせずきつかったのですが、桃太郎が一緒だから頑張れたのだと思います」

 完治したお母さんと桃太郎くんは、飼い主と愛犬が一緒に出場するドッグマラソンに参加。ブービー賞だったが、「ゴールしたときの桃太郎の顔がまるで優勝したかのようなとびきりの笑顔で、大会の写真コンテストで賞に選ばれちゃいました」とお母さんは笑う。

飼い主女性とミックス犬「桃太郎」
ドッグマラソンに出場して、写真コンテストで入賞したときの写真。いい笑顔!

 アウトドアやスポーツ大好き一家は、あちこちに出かけレジャーを楽しんでいる。忘れられないのが、福島県裏磐梯の森の中を桃太郎くんと一緒にスノートレッキングしたこと。お父さんもお母さんも旅行が大好きなので「日本中を桃太郎と旅するのが夢」。

 アクティブな一方で、お母さんは編み物やアクセサリー作りなど家の中で静かに過ごすのも好きで、そんなとき桃太郎くんはまったりと寄り添っていてくれるという。「最近は私の方が守られてる感じ。孫を見守るおじいちゃんみたい」と笑いながら、お母さんはこう続けた。

「桃太郎との日々は毎日がスペシャル。今は楽しくて楽しくて仕方ない。これからも一緒に幸せになっていきたいですね」

空いた穴は埋まらないけど、素晴らしい日々はまた訪れる

 今もあおくんの誕生日は毎年家族で祝う。「帰ってきてるなと感じることも。あおに作ったごはんは弟が食べまーす、と話しかけてます」とお母さん。

「あおを失って空いた穴が埋まることはありません。今もあおを思い出して泣いてしまうことはある。でも、もう二度と犬とは暮らせないと思っていても、勇気をもって一歩踏み出したらまた楽しく、素晴らしい日々が訪れた。あおと桃太郎のおかげで、犬がいる暮らし、人生の幸せを噛み締めています」

スノートレッキング中の飼い主女性とミックス犬「桃太郎」
スノートレッキングのときの写真。雪原をワンコと歩くの、楽しそう!

 桃太郎くんを迎えたことをきっかけに、保護犬のお散歩ボランティアを行ったり、古タオルなどの支援物資を提供するなどの活動もするようになったというお母さん。桃太郎くんを中心に仲間が増え、世界が広がったという。何より保護犬の愛らしさを知ることができた。

「保護犬は育てるのが難しいのでは、と思われがち。もちろん大変な子もなかにはいますが、こちらが愛をもって接すれば、これ以上ないほどのパートナーになってくれる。そして、幸せなワンコも増える。犬を迎えるときに保護犬が選択肢のひとつになるといいなと、心から願っています」

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◆記事でご紹介した桃太郎くんのお母さんが以前「STORY with PET」に投稿したストーリーはこちら
中津海麻子
フリーライター。「酒とワンコと男と女」をテーマに、ワインや日本酒や食、ペット事情、人物インタビューなど幅広く取材、執筆。JALカード会員誌「AGORA」、同機内誌「SKYWARD」、「ワイン王国」「朝日新聞デジタル &w」「好書好日」などに寄稿。

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