50の質問で導くグリーフケア オンリーワンの、あなたと愛犬のハッピーエンディング

動物医療グリーフケアアドバイザーの阿部美奈子先生の新刊『犬と私の交換日記 〜獣医師が考えた愛犬とあなたの絆を深める50の質問』
『⽝と私の交換⽇記』。リサ・ラーソンさんが第三者の著書に作品提供してくれるのは、とてもレアなことなのだとか

 リサ・ラーソンによる個性的な犬たちのイラストが印象的な『犬と私の交換日記 〜獣医師が考えた愛犬とあなたの絆を深める50の質問』。著者である獣医師で動物医療グリーフケアアドバイザーの阿部美奈子先生に、本書に込められた思いや読むことによって得られる力についてうかがいました。

いつかはお別れとわかっていても……

 この本の大きなテーマは、阿部先生自らもそのケアの重要さを示されている「グリーフ」です。

 グリーフとは、「相手が亡くなったときに感じる悲しみ」だけではなく、愛情や信頼、尊厳といった、大切なものを失ったときの心情すべてを指す言葉。そして、まだ失う前でも「失うかもしれない」と想像したときに生まれる悲しみや苦しみは、やはりグリーフなのだといいます。

 ペットとして私たちが共に暮らす動物の大半には、人間よりも先に死が訪れます。飼い主さんたちは、いつか“このコ”を見送る日が来ることを理解したうえで、家族に迎え入れているはずです。

 でも人間って、ペットが若くて健康なときは、ついそんなことは忘れてしまいがち。ペットが年老いたり病気になったりすることで初めて、「失うかもしれない」という不安を感じます。そして、まだこのコは生きているのに、不安に振り回されたり悲しみに暮れたりしてグリーフを深めてしまいます。

「でもその状況、ペットにとって幸せなことなのでしょうか?」

 阿部先生は、ずっとその状況に心を痛めていたといいます。

 ペットの死期が近づくと、犬をはじめ多くのペットは医療にかかります。検査をすれば状況がよくないことは数値に表れるので、飼い主さんはどうしても一喜一憂してしまいがちです。

 でも、ペットたちは、自分の死が予測できるわけではありません。死や生、病気といった概念を持ちませんから、いま生きていれば、その生を懸命に生き抜くだけ。痛みや苦しみは感じていても、飼い主さんと一緒に過ごす時間や、自分に向けられる笑顔があれば最後まで幸福感を感じることはできるのです。

「ところがそんなとき、飼い主さんがツラそうにして笑顔を向けてくれない、自分の名前を呼んで涙を流していたとしたらどうでしょう。言葉は話せなくても動物たちはそれらをすべてキャッチしますから、自分の存在が大好きな飼い主さんを悲しませていると感じるでしょう。そう感じたら、このコからも笑顔が消えてしまいますよね」

飼い主の涙や不安が犬のグリーフに

 本書に豆知識的に掲載されているグリーフについてのQ&Aページでは、飼い主さんにとっての答えと犬にとっての答え双方が用意され、よりグリーフについての理解が深められます。

動物医療グリーフケアアドバイザーの阿部美奈子先生の新刊『犬と私の交換日記 〜獣医師が考えた愛犬とあなたの絆を深める50の質問』
各章の間に掲載されているQ&A。リサ・ラーソンさんのイラストが描かれた扉絵もかわいい

 例えば「グリーフはどんなときに起こるの?」という質問の、犬にとっての答えは以下の通り。

「飼い主と暮らした“当たり前の幸せな日常”を喪失したときに起こりえます(以下、解説文あり)」

 つまり、人間と同じように犬(ペット)にもグリーフはあるということ。そして、犬にとって安全なテリトリーである家での日常が変わってしまうことは、とても深いグリーフになる、そのことを飼い主は知っておく必要があると思います。

「例えば、寝たきりになっても食べる楽しみが残っているコなら、食事の時間を笑顔で迎えられるように飼い主さんも工夫をすればいい。『これしか食べてくれない……(涙)』ではなく、『今日も食べられたね!』と一緒に喜んであげたらこのコもうれしいんです。

 なくなっていく時間を悲しむのではなく、『まだこのコに、一緒に過ごす時間がプレゼントできる』と動物目線でプラスに切り替えることが、せっかく自分と出会ってくれたこのコと飼い主さんのハッピーエンディングにつながると思います」

回答するごとに、このコへの愛と感謝が

 とはいえ、最愛の“このコ”を失うかもしれないという悲しさと恐怖を払いのけて、弱ったペットにポジティブな気持ちを向けるのは勇気がいることです。愛しているからこそハッピーエンディングを迎えたいと思う一方で、愛しているからこそ失う悲しみも深いのですから。

 でも、だからこそこの本の存在意義があるのだと阿部先生は言います。

 副題にもあるように、『犬と私の交換日記』には50の質問が用意されていて、その答えを飼い主さん自らが書き込んでいくことで、飼い主さんとこのコとの世界に一冊しかない交換日記ができあがる構成になっています。

動物医療グリーフケアアドバイザーの阿部美奈子先生の新刊『犬と私の交換日記 〜獣医師が考えた愛犬とあなたの絆を深める50の質問』
各質問ページには、飼い主さんが自由に書き込んだり、写真を貼ったりできるよう、大きく余白が設けられています。右下には、過去事例などを交えた、阿部先生からのアドバイスが

 筆者が実際に質問への回答を書きながら感じたのは、うちのコになったその日から、私はこのコにどれだけの幸せと癒しをもらってきたのだろうという、深い感謝の気持ちでした。

 私たちはペットの世話をしてあげているつもりでいながら、このコをハグしたり、もふったり、一方的にグチを聞いてもらったりして、とてつもないグリーフを日々ケアしてもらっています。

 仕事が上手く行かなかったり、人間関係でトラブルがあったり、コロナウイルスのせいでこんな世の中になってしまったり。「なんだか私、すごく不幸かもしれない!」と憤りたくなっても、足下を見るとこのコがいつだってニコニコしながらそばにいてくれる。

 50の質問ひとつひとつに答えるうちに、このコのそんなありがたさ、無償の愛に気づくことができ、「こんな世の中だけど、このコに出逢えた私って実はラッキーじゃん!」と感じられるようになりました。

グリーフを知ることは生きる力になる

「このコはこの世に一頭しかいない、このコにとっての飼い主さんもあなたしかいない。一人と一頭が出会った奇跡が、お互いにオンリーワンの存在なのだという証が、50の質問に答えていくことでカタチになる本です。

動物医療グリーフケアアドバイザーの阿部美奈子先生の新刊『犬と私の交換日記 〜獣医師が考えた愛犬とあなたの絆を深める50の質問』
「Question26 このコが好きな散歩コースを教えてください」 あなたなら、どんなことを書きますか?

 奇跡がカタチになって手元に残れば、このコが亡くなった後も心の支えになりますよね。また、このコの最後が近づいてきても、『今、このコが何を望んでいるのか』をキャッチできることでしょう。『このコに出逢えてよかった』という思いで笑顔の時間を増やせるかもしれない。

 その何が大切かというと、このコを亡くしたことでうまれる壮絶な悲しみを耐える力になるということ。その力につながって亡くなった後も幸福感を感じることができる、そのための一冊なんです」

 50の質問は、実際に阿部先生がカウンセリングで聞いている質問ばかり。コロナ禍で、現在お住まいのマレーシアから帰国できなくなったことも影響して、「私が直接会わなくても、日本中、世界中の飼い主さんたちが、ご自身のグリーフ、我が子のグリーフを理解し、互いにグリーフケアを成立させる方法を編み出したい」と願ったことが、この本の誕生を後押ししたといいます。

「宗教を持っていない人が多い日本では、ペットの存在がどうしても心の拠り所になってしまいがち。だからこそ、失ったときの悲しみも大きく、立ち直るのに時間がかかってしまいます。グリーフを知ってケアすること、グリーフをコントロールする力を身につけることは、今の時代、いっそう重要性が増していくことでしょう。

 ペットロスが怖いから動物を飼うのはやめようではなく、この本を読んで、このコとの出会いや絆の素晴らしさを実感する飼い主さんが増えてほしいですし、そんな飼い主さんを見て「うちでも飼ってみようかな」と思う人が増えたらいいですね。さらに、ペットを通して人と人ともつながって行く、そんな世の中になったら幸せだなと思います」

動物医療グリーフケアアドバイザーの阿部美奈子先生の新刊『犬と私の交換日記 〜獣医師が考えた愛犬とあなたの絆を深める50の質問』
最終章のコラムでは、幸せな最期を迎えたワンちゃんとご家族の物語を紹介。実際の事例から学べることもたくさんあります

 読み進め、自分で書き込むことで、このコの存在がいまより100倍いとおしくなること間違いナシの『犬と私の交換日記』。

 今はまだ若くて元気なこのコの飼い主さんも、これからこのコを探したいという未来の飼い主さんも、そしてすでに虹の橋を渡ったこのコと夢の中でふれあっているという飼い主さんも、あらゆる飼い主さんに“今”読んで欲しい一冊です。

⽝と私の交換⽇記
著者:阿部美奈⼦(獣医師・動物医療グリーフケアアドバイサー)
絵:リサ・ラーソン(陶芸家)
サイズ:A5判/144P
本体価格:1,200円+税
Home of Grief Care(『犬と私の交換日記』枻出版社 公式note)
本書発売に伴い、公式noteがオープン!
阿部美奈子先生からの読者へのお便りや、本書購入者を対象としたオンライン上のイベントなどを実施予定です。
>くわしくはこちら
阿部志穂
フリーライター、国家資格キャリアコンサルタント。これまでもっぱら“ヒトの働き方”について執筆。黒柴・古太(8歳)がやってきてイキモノと過ごす日常に目覚める。もの書き歴25年なれど、イキモノ書きとしてはビギナー。日々学びながら発信していきます。

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