冬は犬や猫の誤飲に注意! 対処法や気をつけたいポイントを獣医師が解説
クリスマスから年末年始にかけて、誤飲で動物病院を訪れる犬や猫が増えるそうです。アニコム損保によると、2016年度に契約を開始した犬で誤飲による請求のあった2万1182件数のうち、いちばん多かったのが12月で1962件でした。誤飲は犬だけに限りません。アイペットでは、2018年の1年間に猫の保険金請求が多い傷病(手術編)の1位が異物誤飲でした。
犬や猫が“本来食べてはいけないもの”を食べると、嘔吐や下痢をしたり、消化管が傷ついたり、とても深刻な事態になることも……。防ぐには、どんなことに気を付ければよいか、獣医師の白井活光先生(苅谷動物病院グループ総院長)に伺いました。
前菜のピックやプレゼントのリボンの誤飲も
まずは白井先生に、“食事にまつわる誤飲”と、“食べ物以外の誤飲”で多いもの(ペットにとって危険なもの)を挙げてもらいました。
食事にまつわる誤飲しやすいもの
・焼き鳥の串や肉を縛る糸、前菜のピック
・脂っぽいお肉
・鳥や魚の骨
・ネギ類やチョコレート
・お菓子の個別包装
・アルコール(日本酒、ワインなど)
装飾や日用品で誤飲しやすいもの
・クリスマスツリー(モールやオモチャや電飾、雪代わりの綿)
・プレゼントを包むリボン
・ゲームの電池(乾電池、ボタン電池)
・ポインセチアなどの鉢や、ユリ類の切り花
・使い捨てカイロ
・飼い主の薬やマスクのゴム
料理中から気を付けて
――12月は犬や猫の誤飲が増えるのですか?
「冬は確かに誤飲で来院する犬や猫が多いです。ごちそうを用意したりお酒を飲んだり、部屋を飾ったり、飼い主さんも開放感を覚える季節だからこそ、事故も起きやすいのでしょう」
――料理に使う串や糸などの誤飲も多いのですね。
「犬はバーベキューや焼き鳥など“串ごと”食べてしまうことがあるのですが、胃に穴が開く可能性があります。野菜やウィンナーなどをピックで刺す前菜も危険です。飲みこむと消化管に刺さり、開腹手術になることも。猫は焼き豚やロールチキンを縛る“たこ糸”を飲むことがあります。串や糸など料理のための道具に注意するのはもちろん、キッチンに入れず、ゴミ箱も開けられないようにするのが大事です」
――よい匂いの肉料理は、ペットにも魅力的なのでしょうか?
「そうですね。でもフライドチキンやから揚げなど“脂の多い肉料理”を大量に食べると、犬も猫も急性膵炎になる可能性がありますし、食べ慣れないものを食べればひどい腸炎を起こすこともあります。鶏については昔から、骨を食べると裂けた骨が(のどや胃に)刺さって危ないと言われていますが、僕が診て驚いたのは、豚のスペアリブを犬が丸のみした例です。太めの骨の先の片方が胃の中に入り、もう片方が口からはみ出た状態で体内に引っかかり、飼い主さんが慌てて連れてきました。全身麻酔をして骨を口から抜いてことなきを得ました」
チョコレートは犬や猫に危険
――致命的な中毒を起こす食材には、どんなものがありますか?
「忘れてならないのはまずネギ類です。野菜そのものをかじらなくても、たとえばタマネギを使ったハンバーグやミートローフ、スープや鍋に溶け出した汁も危険です。犬猫に有害な物質(有機チオ硫酸化合物)によって、赤血球が壊れたり、腎障害を起こすこともあるのです」
「チョコレートも犬や猫には危険で、カフェインやテオブロミンといった成分が毒になります。板チョコ(ブラックチョコ)を半分くらい食べると、興奮して血圧や心臓に影響を及ぼすので、チョコをたっぷり使ったケーキなどは要注意。飼い主のおつまみになるナッツ類も、犬や猫が食べると興奮などの症状(ナッツ中毒)が出ることがあります。
中毒ではないですが、犬がお菓子をがつがつと包装紙ごと食べるのも危険です。先日、お土産のちんすこうを包み紙ごと一袋分を食べた犬がいて、内視鏡で包み紙を取りだしました」
――年末年始は家飲みの機会も多いと思いますが、犬がお酒を飲むとどうなりますか?
「犬も急性アルコール中毒になることがあります。以前、『テーブルにあった日本酒を知らない間に飲んでしまった』と、犬が病院に連れて来られたのですが、息が酒くさく、足がふらついていました。肝臓酵素が上昇していたので、1日点滴して代謝を早めて改善しました。飼い主さんが酔っ払ってペットの様子をみていなかった、ではシャレにならないですよね」
誤飲で起こる症状例 こんな時は要注意
・嘔吐する
・吐きそうで吐けない
・食欲がなくなる
・ぐったりしている
・呼吸がしづらそう
・よだれがでる
ツリーの飾りは大きめが安心
――12月になると、クリスマスツリーを飾り付けする家庭が多いと思います。食べ物以外の誤飲を防ぐために、どんなことに気を付ければいいのでしょうか?
「ツリーの飾りは犬や猫のオモチャになってしまうので、細かなものをたくさん飾らない方がいいかもしれません。猫はひもに興味を持つので、ひもでなくS字フックで飾りをつけたり、猫の口より大きな飾りを取り付けると安心です。電飾も手に届くところにあれば、はたいたり倒す可能性があるし、コードをかじれば感電するかもしれません。
感電すると口の中をやけどするだけでなく、肺水腫になり、呼吸が悪くなるのです。また、雪代わりに綿を飾ることがありますが、ペットが食べると、小腸で詰まることがあります。腸閉塞になれば開腹が必要です。そう考えると、いちばん安心なのは電飾のない、壁に貼るような飾りになりますね」
――冬場に欠かせない温かな靴下や手袋も、犬や猫にはオモチャになりそうです。
「大型犬だと、手袋や靴下を遊びながら食べてしまうことがありますからね。靴下を丸のみしたら、嘔吐させるための液体を注射して口から吐かせたり、内視鏡で取り出さないとなりません。猫の場合、毛糸の手編みのマフラーなどはリスキーですね。猫は毛糸に限らず、ひもやリボンなどにも目がありません。
プレゼントを包んでいたリボンの片方が胃に引っかかってもう片方の先端が腸に流れると、腸がじゃばらのようになり、腸閉塞になったり壊死を起こしてしまいます。リボンの先に小さなオモチャなどをつけて遊ばせる人もいますが、飲んでしまうことがあるので、やめたほうがいいですね」
電池はどの大きさも危ない
――家にゲームがある家庭は多いですが、気を付けることはありますか?
「幼い子にもペットにも言えることですが、ボタン電池を飲み込まないようにすることです。胃に穴が開くことがあります。また、単1くらいの大きな電池を大型犬がかじったケースを診たことがあるのですが、電池から漏れた液体で口の中がひどくただれ、徹底的な洗浄が必要でした。電池はどのサイズも、犬がイタズラしないところにしまってください」
――植物はどうでしょうか。クリスマスシーズンになると花屋の店先に並ぶ真っ赤なポインセチアはきれいですが、ペットの命を脅かすことがあるようですね。
「知っている方も多いと思いますが、ポインセチアの葉や樹液は犬や猫に有毒な物質が含まれ、胃腸障害や皮膚炎などを引き起こします。クリスマスローズやシクラメンの根も危険なので、そうした鉢植えは室内に置かないこと。
切り花にも致命的なものがあります。代表的なのはユリで、これは猛毒です。以前、体に黄色い花粉をつけた猫が、『ユリの花をなめた』と飼い主に連れて来られました。点滴して解毒のための活性炭を飲ませ、3日程の治療で持ち直しましたが、急性の腎臓病が進行すると助からないこともあります」
マスクのゴムを食べてしまうことも
――他に、飼い主の必需品がペットの命取りになるようなものはありますか?
「飼い主さんが風邪を引いた時に飲む薬や、向精神薬、降圧剤など、薬類は管理に気をつけるべきです。薬の誤飲は猫より犬の方が多いですが、人用の量を飲めば、ぼーっとしたり、すごく血圧が下がってしまう。飲んで1、2時間くらいして病院に来た時にはたいてい薬が吸収されているので点滴が必要です。
薬のまわりのアルミ泊は猫も食べることがありますが、角がとがっていて吐かせるのが怖いので、内視鏡で取ることが多いです」
「先日、在宅ワーク時に周囲の音を遮るために使っている、プラスチックの耳栓を犬が飲んだ例がありました。使い捨てカイロをかんでしまう犬や猫もいます。また、今年はとくにマスクのゴムの部分を猫が遊んで食べる例が多いようです。ゴムが短いので胃にひっかかることはあまりないですが、便で出ない時は、吐くための注射を打つことになります」
ペットが誤飲したときは
・慌てない
・くわえた異物とおいしいものを交換する
・水や塩を飲ませない
・のどに物が詰まった時はすぐに病院に電話して指示を仰ぐ
家では吐かせようとしない
――ペットの誤飲を防ぐには、どんなものが危険か、事故につながりそうなものを知り、ペットの目に見えるところに置かないことが必要ですね。それでも口にしてしまった時、
飼い主は何をすればいいのでしょうか?
「たとえば、犬が飾りなどで遊んでいる時に『だめだめ』というと、飼い主のその反応を犬が面白がることがあります。異物を口にしたのを見て、慌てて『わーっ』と大声を出すと犬は飲み込んでしまうことも多いので、おいしいおやつなどを用意して交換するようにします。異物を口から落下させて、回収しましょう」
――自宅では、無理には吐かせないほうがいいのですか?
「昔は誤飲したものを塩で吐かせることがありました。たまたまそうした古い書物を読んで家で実行すると、食塩中毒になってしまうことがあります。薬を飲んだ場合も、家で水を飲ませるとペットの体に吸収されてしまうので、水は飲ませないで下さい。基本的に、異物は家で“吐かせようとしない”こと。
ただし食べ物やオモチャなどの塊を飲んで、のどに引っかかった時(吐こうとして吐けない)は別です。小型犬では2、3㎝のリンゴが引っかかることもありますが、動物病院に行くまでの間に窒息するので、速やかに病院に電話して、(かまれないように舌を引っ張るなど)異物を取るための指示を受けてほしいと思います」
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- 白井活光獣医師
- 苅谷動物病院グループ総院長。獣医学博士。1998年日本大学大学院卒業。同グループ「三ツ目通り病院」や「葛西橋通り病院」の院長を歴任。2015年から現職。日本臨床獣医学フォーラム専務理事。専門分野は総合臨床。
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