血液1滴で犬のがんを早期発見できるようにしたい 研究資金をクラウドファンディング
血液1滴から犬のがんを発見できるようになることを目指して、一般社団法人「ヒトと動物の臨床研究情報センター」(静岡県三島市)が、必要な研究資金2000万円をクラウドファンディングで募っている。募集締め切りは12月25日午後11時。
「もっと早くに見つけられていたら」
同センターの代表理事、伊藤博獣医師によると、犬の死因でもっとも多いのはがんで、4匹に1匹の犬ががんで亡くなっている。犬は人間の5~7倍の早さで成長するためがんの進行も早く、飼い主が異変に気づいて動物病院に連れて行ったときにはかなり進行していることがほとんどだという。「もっと早くに見つけられていたら、かなりの確率でがんを征圧できたのに……という場面に何度も立ち会ってきました」と伊藤獣医師は言う。
犬のがんは治らない病気ではない。早期段階であれば、転移の心配も少なく、手術でがんを切除すれば治る確率が高くなる。そのがんが犬の死因第1位になっているのはなぜなのか。40年以上にわたり犬や猫のがんの臨床や研究を行ってきた伊藤獣医師は、「早期に発見できていないことが課題」だと指摘する。
なぜ犬のがんを早期段階で見つけることができないのか。伊藤獣医師は3つの理由を挙げる。
一つ目は、犬は定期的な健康診断が浸透していないこと。二つ目は、人間の医療で使われている「腫瘍マーカー」のような、がんを発見する方法の確立が遅れていること。三つ目は、がんの診断に必要な設備をそなえ、かつ専門的な知識をもつ獣医師がいる施設が少ないこと。犬はCTやMRIなどの画像診断検査からがんを診断することになるが、一般的な動物病院ではこうした高度な診断機器がないことが多いため、設備と専門家がそろった大学の施設などで検査を受ける必要がある。
「犬をがんから救う第一歩は、簡単な方法で一般の診療施設でも、がんの確定診断ができるようになることです」と伊藤獣医師は話す。
犬の5つのがんについて解析
血液からがんを早期発見する手法は、人間の場合すでに確立されている。血液の中にある「マイクロRNA」という物質を解析することで、13種類のがんにかかっているかどうか判定できるようになった。
そこで同センターは、犬のがんも人間と同じように血液中のマイクロRNAを解析することで、がんを早期の段階から発見できるのではないかと考えた。がんになった犬と健康な犬の血液を比べたところ、特定のマイクロRNAで違いがあることがわかったという。
そこで、どのがんにかかると、どのマイクロRNAに違いがでるのかを詳しくしらべるため、犬がかかることが多い上位5つのがん(口腔内悪性黒色腫、尿路上皮腫、悪性リンパ腫、肥満細胞種、肝細胞癌)にかかった犬の血液を、全国14の大学や動物病院の協力を得て集めた。この5つのがんにかかった犬と健康な犬の血液の中にあるマイクロRNAを外部の検査機関に委託して解析し、どのような違いがあるのかを網羅的に調べる。
今回支援を募っている2000万円は、この解析を委託するための費用として使う。血液のサンプルはすでに600検体以上を保管しており、解析結果を得るには十分な数だという。
解析結果が出た後は、どのマイクロRNAをみれば5つのがんにかかっていると判断できるのかを調べていく。がんごとのマイクロRNAの違いがわかれば、その後約6カ月かけて検査用機器の開発を行う。順調に行けば、そのさらに1年半後には、血液を調べれば犬が5つのがんにかかっているかどうか、早期に見つけることが可能になるという。
犬のがんを克服できるように
伊藤獣医師によると、人間を対象にしたこうした医療研究の場合、国の研究予算や助成金を充てたりするのが一般的だという。一方、犬や猫などの伴侶動物を対象とした研究開発領域においては、今の日本では補助金や研究助成金の予算はほぼないに等しい。だが、欧米では数億から数十億円の寄付が集まり研究が進められているのをみて、日本にも新しい研究資金調達の仕組みが必要だと感じ、今回のクラウドファンディングに挑戦したという。
もし、今回の研究結果がうまくでた場合、CTなどの高額な画像診断を行う前に、安価な血液検査で犬のがんを早期発見できるようになるという。伊藤獣医師は「安価で判断できる仕組みがつくれれば、犬も定期的に健康診断を受けるきっかけになるのではないか。大切な家族である犬が1日でも長く健康に過ごせるように、犬のがんを克服できるように、この研究への支援をお願いしたい」と話している。
このクラウドファンディングへの支援は、こちらから。締め切りは12月25日午後11時。
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