離島で“ワケあり”の保護猫39匹と暮らす夫婦 「保護活動の受け皿になりたい」

 奄美群島の南西部に位置する、鹿児島県大島郡・沖永良部島。その中でも、集落から離れた静かな土地に、手作りのログハウスを構えて41匹の保護犬、保護猫たちと暮らす夫婦がいる。

 保護動物たちとの島での暮らしを紹介するYouTubeチャンネル、『島のネコヤギチャンネル』を運営する、ご主人の「ネコヤギ」さんに、離島での保護動物たちとの暮らしについて教えてもらった。

(末尾に写真特集があります)

島内外から保護猫を受け入れ

 ネコヤギさんが沖永良部島に来たのはおよそ24年前。「当時私は離婚したてで、一から人生をやり直そうと、勤めていた船橋の中学校を辞め、求人雑誌で仕事をみつけたこの島に飼い猫と共に移住しました。その後、離婚した女房が『反省してるなら』とこちらに来て復縁(笑)子供にも恵まれ、そのころから徐々に保護猫が増え始めました。現在は、娘が通学のために島を出て、女房と保護猫39匹、保護犬2匹でにぎやかに暮らしています。動物たちの世話は、主夫の自分が担当していますよ」。

 ネコヤギさんによると、もともとは12匹前後だった猫が急激に増えたのはここ2年ほど。保護団体に収益を寄付する目的で動物たちとの暮らしをYouTubeで公開したところ、逆に自分たちが視聴者から支援をもらうようになり、「それに見合った活動をしなくては」と保護猫の受け入れを増やした。

2匹の子猫
自宅から1㎞ほどの場所で保護し、ミルクから育てた子猫たち(ネコヤギさん提供)

 保護猫は島で保護した猫のほか、県外で保護活動をしている知人から引き取った猫も10匹ほどいる。観光地に遺棄された子や、虐待され片目を失った猫、猫エイズ(FIV)や猫白血病(FelV)キャリアで引き取り手が見つかる可能性が低い猫など、いずれも“ワケあり”の猫たちだ。

「自分たちが“保護活動”をしているという意識はなく、ただの猫好きが、行き場のない猫を家族に迎えて世話をしているという感じですよ。理由があって譲渡できない猫たちを、必要な医療を受けさせて終生育てる場所がないと、保護活動をしている人たちの受け皿がないでしょう?どんなに個人の保護活動家が譲渡を頑張っても、持病や障害のある子達は引き取り手が見つかりにくいものですから」

猫にとっての理想郷

 ネコヤギ家は、島の中でも民家が集まる集落からは少し離れた場所にある。車の往来のある道路はなく、人通りも少ない。南の島なので、冬でも気温が10℃を切ることはめったにないという。

 家は夫婦の手作りのログハウスで、猫たちがゆったり暮らせる広さがある。壁も床も木なので、猫にとっては天然の爪とぎ状態。最近になって、キャットウォークも取り付けた。広々とした室内でゆったり過ごす猫たちは、皆“ワケあり”だったと思えないほど穏やかな顔つきをしていて、猫にとっての暮らしやすさが伺える。

テーブルの上のたくさんの猫
毎朝のごはん光景。この時間に1匹1匹の様子を観察し、猫たちの健康チェックを行う(ネコヤギさん提供)

 整っているのは環境だけではない。ネコヤギさんは、どんなに頭数が増えても、毎朝、ごはんをあげるタイミングで1匹1匹の健康状態をチェックする。

「食欲がない子は排泄物の状態を確認し、持病のある子にはこのタイミングで投薬します。大変そう?いえ、楽しいですよ。娘は子供のころから猫たちと暮らしてきて、学校の作文にも“うちは15人家族です”なんて書いていましたね」

 ネコヤギ一家は、行き場のない動物たちを“保護シェルター”のような規模で受け入れながらも、1匹1匹に“1対1”の愛情を注いで、守り、育ててきた。

島で唯一の獣医師、川内先生

 ネコヤギさんらと共に、小さな命に向き合おうとする人物もいる。島で唯一の獣医師である川内先生は、もともとは牛の獣医だったが、5年ほど前から島の犬や猫など小動物の避妊・去勢手術をはじめた。

「先代から続く病院には、最新の設備なんてものはないんです。だけど、彼の避妊・去勢手術は、ちょっと信じられないくらいうまい。一流の腕だと断言できますよ。それに、イケメンです(笑)」とネコヤギさん。

猫を診察する獣医師
持病のある子猫のタビの診察を行う川内先生(ネコヤギさん提供)

 ここ数年は、ボランティアと川内先生で、定期的に島の野良猫たちの避妊・去勢を進め、地域猫化する動きもあるという。

「この島に川内先生がいなければ、うちの頭数を増やすこともできなかったでしょうね。二人三脚といったらおこがましいですが、本当に先生あっての今の生活なんです」

完全自走を目指して

 ネコヤギさんは、まもなく61歳になる。現在、保護猫の最年少は1歳。あと15年生きると考えても、そのころ自分は76歳だ。ネコヤギさんの現在の目標は、いつか娘が島に帰ってきて猫たちの世話を引き継いでもらえるように、環境を整えること。YouTube運営も、その一環だという。

「今は、支援者からの寄付の一部を動物たちの飼育費用に当てていますが、YouTubeチャンネルの登録者数が10万人を超えれば、支援なしでも収益だけで動物たちを養うことができるようになる。行き場のない保護動物たちの受け皿として、きちんと自走できるようにしておきたいんです」

サビ猫
2年前、犬の散歩中に保護したサビ子(手前)の動画が、寄付が増えるきっかけになった(ネコヤギさん提供)

 もちろん、収益を増やすことだけがYouTubeチャンネルの目的ではない。自分が発信することで、行き場のない不幸な猫がいることや、小さな命と暮らすことの大変さ、喜びを広く知ってもらうこともできる。今後は、奄美のノネコ問題に取り組む知人からも撮影素材を受け取り、『島のネコヤギチャンネル』での発信も考えているという。

 どんなに保護活動をしている人が頑張っても、人間のせいで憂き目に会う猫は次から次へと出てくる。それは、一度でも野良猫問題を意識した人なら身にしみて感じていることではないだろうか。

「猫が幸せに暮らせる環境で、保護活動の受け皿になる」。そう話すネコヤギさんの思いは、不幸な動物たちだけでなく、助けても助けても助けきれない命に向き合う人々の希望になることだろう。

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原田さつき
広告制作会社でコピーライターとして勤務したのち、フリーランスライターに。SEO記事や取材記事、コピーライティング案件など幅広く活動。動物好きの家庭で育ち、これまで2匹の犬、5匹の猫と暮らした。1児と保護猫の母。猫のための家を建てるのが夢。

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