犬や猫の夏の留守番、安全のためにどう工夫する? トラブル回避策を獣医師が解説
本格的な暑さを迎える季節、ペットを家に置いて出かけるのは心配ですね。頼りにしているエアコンが、何らかの理由で止まったり故障したりすることもあるかもしれません。犬や猫を安全に留守番させるためには、どんな工夫をするべきか。獣医師の白井活光先生(苅谷動物病院グループ総院長)に聞いてみました。
ペットを守るために
最初に、白井先生が勧める「夏の室内でペットを守る10項目」をご紹介しましょう。
【夏の室内でペットを守る10項目】
●エアコンは犬猫に合う温度にする(犬は約25℃、猫は28~29℃)
●室内を自由に行き来できるようにする
●直射日光が当たる部屋のカーテンは閉める
●窓を少し開けて空気の流れをよくする
●部屋に十分な飲み水を置いておく
●風呂場は開けて、おけやたらいに水を少しためておく
●ゲルタイプの保冷剤は使わない
●リモコンはペットの手の届かないところに置く
●家電リモコンやペットカメラを上手に使う
●ペットがどこにいるか確認して外出を
エアコンは個々の体調に合わせて
――ペットの夏の留守番をテーマに行ったsippoのアンケート(300人回答)では、犬と猫の約8割の飼い主さんが留守中にエアコンを使っていました。地域や住宅にもよりますが、室温や湿度は何度に設定すればよいのでしょう?
「犬種に関係なく、犬は室温25℃、湿度50℃程度をお勧めしています。猫は犬よりもやや高めで室温28~29℃、湿度は犬と同じく50℃くらいを目安にするといいと思います。猫は冷風が苦手ですが、10年前には診なかった熱中症を、近年では毎夏1、2例は診ているので、“猫はエアコンをつけなくて大丈夫”と思い込まないほうがいいでしょう」
――とくに、暑さや湿度に注意が必要な種類はありますか?
「気道が短く、呼吸による体温調整が苦手な短頭種のペットたち(犬はフレンチブルドッグやパグやブルドッグなど、猫はペルシャやヒマラヤン、エキゾチックショートヘアなど)には配慮が必要です。体温調節の苦手な高齢のペット、体に熱がこもりやすい肥満のペット、糖尿病や腎臓病のペットも熱中症に陥りやすい傾向にあるので、温度に気を付けてください」
「心臓が悪いペットなどは除湿にも気を付けてほしいですが、健康な子は逆に乾燥しすぎると気管が乾燥して気管支炎になることがあるので、極端にしすぎないことが大切です」
風圧で閉まるドアに注意して
――夏の留守時、エアコン設定以外にどんなことに気を付けるべきでしょうか。
「飼い主さんが玄関から外に出る時、風圧で部屋のドアがバタンと閉まることがあるので、ペットが(出かける時に過ごしている)部屋に閉じ込められないようにストッパー等でドアを固定するといいでしょう」
「災害や機械のトラブルでエアコンが止まって急に暑くなった時のためにも、ペットが廊下や別の部屋に移動できるようにしましょう。エアコンを付けない部屋の窓を少し開けるなど、空気が流れるようにしてください」
――新型コロナで換気に気を付ける方は多いと思いますが、網戸にすればよいですか?
「(虫も入るので)もちろん網戸にしてほしいですが、猫は注意が必要です。春から初夏にかけて、3匹の猫がマンションの窓から落ちて病院に運ばれました。犬と違い、猫は爪を引っかけて網戸を開けることができるので、網戸用のカギを取り付けておくと安心です」
――飲み水は、どれくらいの量の水を、どんな場所に置くとよいですか?
「万が一の停電や留守が長引いた場合に備えて、(飲み干して)足りなくならないようにいつもより多めに、日の当たらない場所に置くとよいでしょう。お風呂場が好きなペットもいるので、たらいや洗いおけに水をくんでおくのもお勧めです。ただし、ペットだけが家にいる時、浴槽に水をためておくのは(落ちて溺れる可能性があるので)避けてください」
犬や猫がなめると中毒を起こす保冷剤も
――ペット用に様々な暑さ対策グッズが出ています。ひやっと感じる特殊繊維のマットや、アルミプレートなど種類も豊富です。留守時にもこうした冷感グッズは役立ちそうですが?
「犬は自然素材の(石など)のボードが好きですが、好みがあるので、いくつか涼しそうなものを置いて、ペットが自分で選択できるようにするといいでしょう」
――家庭の冷蔵庫にある人間用の保冷剤は、ペットのひんやりグッズとして使えますか?
「保冷剤の中には犬や猫が中毒を起こす種類のものがあるので要注意です。たとえば人の発熱時に頭に乗せる柔らかな(凝固しないゲル状の)ものは、中にエチレングリコールという成分が使われていて、甘みがありペットはなめやすいのです」
「しかし包みをかんで少量でもなめると、神経症状が起きたり腎臓が悪くなったりします。同じく固まらない保冷剤にプロピレングリコールという成分が使われていることがあり、これも多く摂取すると危険です」
リモコンは手の届かないところに
――ペットは飼い主の予想外の動きをすることがあります。その動きが留守中のアクシデントにつながることもありそうですね。
「先日、猫が棚の上から物を落として、下にいる犬の頭に当たる事故がありました。留守時は、猫の通る所になるべく物を置かないほうがいいでしょう(エアコンの)リモコンだって、床や机に置いておくと犬や猫が足で踏んだり落としたりして止まることがあるかもしれません。リモコンはペットの手の届かないところに置くべきですね」
「エアコンの機種によっては外からアプリで室温チェックしたり、オンオフの操作ができる家電リモコンもあるので、長く留守にする時はペットカメラと併せて使ったりすると安心だと思います」
平常時の体温を知っておく
――どんなに気を付けても、留守中にペットが不調になることがあるかもしれません。
「以前、自宅で発作を起こしていたパグの体温が上昇し、熱中症状態になり救急搬送されたことがあります。飼い主さんが、体温測定やいざというときの冷却対応を知っておくことも大事ですね」
――ペットの体温は動物用体温計で肛門や前脚の付け根(腋窩)に差し入れて測るとよいそうですね。耳の内側に当てて測る耳温計もあります。「我が子の平常時の体温」を知っておくと体のSOSがわかりやすそうです。
「犬、猫の平均体温は約38℃です。もしぐったりして体温が高くなっていたら、ぬらしたタオルで包んだり、風を送ったりするなど応急処置をして、保冷剤などで首や内股を冷やしつつ、病院に急ぎましょう」
犬や猫の居場所を確認してから外出
取材を終えて、筆者も猫の飼い主として、外出前後にいろいろと気を付けたいと改めて思いました。
その昔、猫を飼い始めた頃に、押し入れの奥に入りこんだことに気づかず、引き戸を閉めて外出してしまったことがありました。暑い日でした。帰宅して「あれ?あの子がいない」と気づきました。窓は閉まっているので逃げることはないはずだけど…。探し回って名を呼ぶと、どこかでかすかに音がします。慌てて押し入れを開けると、ミャア~と出てきました。幸い大事には至りませんでしたが、あの夏、本当にひやっとしました。
「外出時にペットがどこにいるか、何をしているか目視するのは飼い主の“きほんのき”」と、当時の主治医に言われました。着替えながら(ペットが入ったことに気づかず)クローゼットを閉めるような例はたまにあるそうです。
エアコンよし、水よし、危ない物なし、じゃあ行ってくるよ…どんなに慌てていても、しっかりペットの居場所の確認をしてから外出をしたいものですね。
- 白井活光獣医師
- 苅谷動物病院グループ総院長。獣医学博士。1998年日本大学大学院卒業。同グループ「三ツ目通り病院」や「葛西橋通り病院」の院長を歴任。2015年から現職。日本臨床獣医学フォーラム専務理事。専門分野は総合臨床。
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